今月のカバーガールはブラジル生まれ、静岡育ちのファッションモデル、大屋夏南さん。17歳でデビューして以来、数々の人気ファッション誌のカリスマ的存在として注目を集めてきた彼女は、現在ブログやYouTubeなどのソーシャルメディアはもちろん、3冊目のスタイルブックを出版するなど、ますます活躍の場を広げています。今年、30歳を迎えた夏南さんが節目の年をどうとらえているのか、人生のこと、キャリアのこと、いろいろと伺いました!

――今年はちょうど30歳ですね。何か心境の変化はありましたか?

30歳はずっと楽しみにしていた年なんです。10代の頃はまだ何もわかってなくて、20代はいっぱい間違えながらも、そこから学び、30代になって、やっといろんなことの勝手がわかってくる。そこから、本当に自分がやりたいことをやれるというイメージがあったんです。10代後半~20代は自分が本当に好きなことは何か、自分が何者なのか、知識を一式揃えて、自分がやりたいことを始められるのが30代とイメージしていたので、私の場合は28歳くらいから「そぎ落とす」作業に入っていったんです。いらないもの、気にしなくていいものを手放して、フットワークが軽い状態で30歳を迎えたかったから。そうすると、考えなくてもよかったことや別にそんなに気にしなくてもよかったことなどが、気にならなくなりました。あと若いときって、全員に好かれたいと思ったりするけど、でもそれは難しいし、そうじゃなくてもいいんじゃない?と思えるようになったことも大きいですね。そして、人それぞれ役割分担があるんだなということも理解しました。この人はこれをやって、あの人はあれをやって、私はこれをやればいい。この人やあの人がやることを、私が無理にやろうとしなくてもいいのかなと思えるようになったら、すごくラクになったんです。自分のことを大事にするようになったのも30歳になってからです。こんな風に言うと、日本ではナルシストだとか、わがままとか言われちゃうこともあるんですけど、海外だとすごくベーシックな考え方で、自分が心地よくあるために仕事のスタイルを変えるとか、パートナーを変えるとか、普通のことなんですよね。もっと自分が心地よくあることを大切にしてもいいと思っていて、そのためなら人に迷惑をかけてもいいということではなく、何かを変えて自分がもっとハッピーになれるんだったら、変えてみるのもいいかなって。ルール、世間体、一般常識…いろいろあると思うんですけど、その中でもし自分にフィットしない事だったら、その枠から出て、物事を考えてみてもいいんじゃないかなと思うようになりました。

――では20代にうちにやっておくといいことは何だと思いますか?

無茶をしたらいいのでは?と思います。思いっきりやってみてもいいんじゃないかな。30歳になったらできないというわけでもないんですけど、でも25歳くらいになると常識的にも「もう大人なんだから」みたいなことを言われたり、制限があるイメージがありますよね。でも25歳なんてまだ全然無茶していい年。30歳までは、もちろん30歳を超えてもいいと思いますが、とりあえずなんでも好きなことをやったらいいと思います。自分の仕事が嫌いなら、辞めて新しいことを始めてみてもいいと思うし、いきなり海外に住んでみてもいいと思う。30歳になってから、年齢について聞かれることがすごく増えたんですけど、30歳なんてまだ人生の半分もいっていない。私は、人はいつか死ぬ、ということを子供の頃から意識していて、そのことに重きをおいたほうがいいと思っているんです。そのときがやってきたときに、例えば小さな事だけどあそこのコーヒー屋さん、ずっと気になっていたけど行ってなかったなとか、思うのはイヤじゃないですか(笑)。だから悩んだときは、「死ぬ前にやっておけばよかったって思うかな?」思うんだったら、「今やっておこうかな?」というふうに考えます。時間は本当に限られているから、躊躇しているのももったいない! 海外に行きたい気持ちがあるなら、どんどん行ったほうがいいし、やりたい仕事があるんだったら、どんどん挑戦したほうがいいと思います。20歳のときは人生80年と考えて、生まれてから今までのワンクールをすると、あと3回やったら終わるなと思って、じゃああと3回の間に何をやりたいんだろうって。そう思うと、自分がやりたいことにもっとどん欲になるべきだし、30歳を目安にしなくてもいいんじゃないかなって気がついたんです。特に私たち女性は年齢=数字で見られがちだと思うんですけど、一般的な目安にとらわれる必要はないと思います。たとえば何か目標があるなら、目標に対する期限はここまでと自分で設定するとか、自分のゴールは自分で決めたらいいと思います。

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Cédric Diradourian

――英語を独学で習得されたと聞いたのですが、きっかけは何だったですか?

もともとは全く話せなかったんですけど、高校生の頃から英語の授業は好きで、アメリカの大学に行こうと思っていたんです。でもちょうどモデル事務所に所属することが決まり、そのまま仕事することになって、それでも英語が好きな気持ちはずっとありました。ちゃんと勉強しようと思ったのは19歳のとき。パリの事務所に所属することになって、現地に2カ月くらい滞在することになった時、英語が本当に話せなくてすごく困って。そのときに本気で勉強しないとまずいかも、と思ったのがきっかけですね。その後、23歳でまた仕事でNYに行って、パリのときよりだいぶ話せるようにはなっていたんですけど、それでもやっぱり英語で意思の疎通が難しかった。それが初めてのNYだったんですけど、あの街がすごく好きになったんです。こういう場所にいたい、こういう人たちとふれあいたいと思ったときに、英語がしゃべれないとコミュニケーションとれないじゃないですか。だから自分が求めているゴールに向かうための必要な武器というか、英語が話せるようになるということが欠かせない要素だと改めて認識して、そこから本腰を入れて勉強した感じです。

――具体的な勉強法を教えてください!

私の場合は完全に独学なんですけど、映画を英語の音声だけで日本語の字幕なしで見たり、英語の音声と英語字幕で見たり、あとは本や雑誌を自分で翻訳してみたり、英語を話せる友達には英語で会話するようにしてもらったり、あとは普段耳にするものを全部英語にしました。TVやラジオで英語の番組を見たり、聞いたり、音楽ももちろん英語ですし、環境を英語づけにしました。今もまだ自分の英語力には全然納得がいっていないですし、まだまだ勉強中です。

――挫折しそうになっても諦めずに、勉強を続けるための秘訣はありますか?

実にシンプルなことで、やりたいか、やりたくないか。本当にそれが自分にとって必要なら、やったほうがいいんじゃないかなと思います。英語を話せるようになることも、もちろんすごく大変だし、時間もかかるけど、でも本当に自分が学びたいことだったら、根気強くやるべきだと思います。あとは間違えることを恐れないというのが、すごく大事。たとえば逆を考えて、外国の方が日本に来て、多少間違った日本語を話していても、「が」が足りないよ、「の」がいるんだよとか、わざわざ言わないですよね。同じ言語を話そうとしてくれる姿勢が嬉しく感じるじゃないですか。海外ではなまりがある英語を話すことに対しても抵抗を持っていないし、それが自然な事だったりする。勉強して英語が話せるようになった友達がいるんですけど、「日本人はみんな完璧主義すぎて、間違えることに対しての恐怖心みたいなものがすごく強いから、逆にそれが話せることから遠ざけているのでは」みたいな話をしたことがあるんです。別に間違えたっていいし、完璧じゃなくてもいい、とりあえず話してみるのが大事だと思います。

――ブログを拝見するとよく海外へ行かれていますが、ひとり旅はお好きなんですか?

急に思い立って、ひとりでふらっと海外に行ったりします。初めてひとりで海外に行ったのは19歳のときのパリ。仕事だったのでひとり旅ではないですけど、今思うとかなりポンコツでしたね(笑)。今はLINEとかがありますけど、その頃は携帯でメールもできなくて、週末はインターネットカフェに行って日本の友達と連絡をとる、平日は毎日同じものを料理して、食べて、寝るみたいなとてもつまらない生活でした。海外が楽しくなったのはNYかな。それも仕事でNYの事務所に入って、1カ月半くらい過ごしたんですけど、2回目の滞在だったのでちょっと慣れていたのもあるし、NYっていろんな人種がいて、いろんなカルチャーがあるから、なんだかラクだったんです。私にとってはフランスより居心地がよかったですね。私、バックパックでひとりで海外に行ったりするので、マネージャーさんにも恐れ知らずだってビックリされるんですけど(笑)。タイのチェンマイにもバックパックひとつで行きました。そのときは4泊することになって、いわゆるチェンマイっぽいホテルといいホテル、両方行きたいなと思って、バックパックを背負ってで五つ星ホテルにトゥクトゥク(※東南アジアの簡易タクシー)で乗り付けたときは、驚きの目で見られました(笑)。

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Cédric Diradourian

――旅行経験豊富な夏南さん、ひとり旅におすすめな都市や国はどこですか?

ブログでも書いたことがあるんですけど、何を求めているかによって、行き先は変わるのかなと思います。本当に初めてのひとり旅で、不安で、語学に自信がなくて、海外旅行ビギナーだったとしたら、もちろんハワイが一番ラクだと思います。日本語も通じるし、治安もいいし、天気もいい。もうちょっとアドベンチャー感というか、ひとり旅感がほしい場合、私がおすすめしているのはチェンマイ。日本からだと直行便がないのでバンコクで乗り換えになるんですけど、それでも空港から中心地まで15分くらいだし、わりと歩いてどこでも行けます。治安も良くて、物価も安く、あと人が優しいです。ひとり旅にはすごくいい場所かなと思います。街が好きな人だったらNY。地下鉄でどこでも行ける、ウーバーを使えば空港からの移動も便利、食事もファッションもエンターテイメントも全部楽しめます。旅の間中、忙しくしていたい人にはぴったりです。LAだとお店が点在していて、まとまっていないので、どこへ行くにも時間がかかって、車がないと不便なんですよね。

――もう2年前のことになるかと思いますが、髪を切った理由やそのときの心境を改めて教えてください。

ロングの印象が強かったと思うんですけど、パブリックイメージと本当の自分がちょっと離れていった感じがあったんですね。ずっとショートにしたかったんですけど、仕事的に長いほうがいいみたいなことで、前の事務所の方からも説得されて、切らないようにしていたんです。たぶん下着のイメージモデルを長くやらせてもらっていた事もあったと思います。本当はそういうタイプではないのに、ヘルシーセクシーみたいな女っぽいイメージが強くついていたみたいで、自分らしい格好で来てくださいというような仕事に私服で行くと、「そういう格好するんだ、意外!」みたいな事を言われることも多くて。いよいよ本当の自分とは違いすぎるなと思うようになったのが、自分のキャリア的にもある程度自信もついて、勇気も出てきたタイミングだったんです。世間のイメージが自分から離れたところから、本来の自分に引き戻したいなって思ったとき、髪を切るというのが一番わかりやすいのかなと思ったんです。切ってみたら、長いときよりももっと自分らしくなったというか、しっくりきたという感じでした。昔から知っている人からはショートのほうが夏南らしいねと言われることが多かったですし、自分的にもすごく心地よかったというのが一番の変化でした。

――モデル歴14年目というキャリアの中で大変だったこと、辛かったことはありますか?

真剣なことですか? 無人島の撮影が大変だった! とかじゃないですよね(笑)。とりあえず最初に大変だったのはモデルを始めたばかりのとき。当たり前のことなんですけど、知らない人が自分のことを知っていて、なおかつ嫌われたりもするという感じに有無も言わさずなっていくじゃないですか。だから、その状況に慣れるのにちょっと苦労したかな。あとはパブリックイメージと自分が離れていったこと。髪を切るちょっと前ですね。その頃はなかなか苦しいなと思っているときもありました。

――苦しいときや悩んだときの乗り越え方を教えてください。

プライオリティをはっきりさせることですね。そうすると自然と必要なこととかがわかってくるから。たとえばAとB、2つやりたいことがあったとしても、どっちが自分にとって必要で重要なのかがわかれば、Bが大事だからAは仕方ない、と決断できますよね。そして、ゴールにたどり着くまでには大なり小なり壁にぶつかる事もあると思うんですけど、あくまでも課程のひとつにすぎないと納得できれば、意外と大丈夫。ゴールがはっきりすれば、途中で起こることはたいしたことではないし、それも必要な課程なんだと思えます。

――では最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします!

人にどう思われているかよりも、自分がどう思うかが大事だと思います。あまりいろんなことを気にせずに、みんなもっとシンプルに楽しんでほしい。私は毎日楽しむ事を心がけてから、毎日幸せです! やりたい仕事がないとか、なんだかつまらないとか、そういう相談を受けることもあるんですけど、よくよく話を聞いてみると、みんな意外とやりたいことがあって、ただそれをやりたいと言いだせなかったり、踏み出す勇気がなかったり、というだけだと思うんですよ。まずは自分と向き合ってみる作業。やらなきゃいけないこととやりたいことのバランスがうまくとれると、もっと楽しくなるのかなって思っています。私もまだまだ自分と見つめ合う時間が必要だと思っていますが、若いときよりも今のほうが断然楽しいです。たぶん28、29歳あたりからですね。年々楽しめるようになってきたかな。上手にバランスがとれるようになることも大人になる楽しみのひとつなんだと思いますね。

30歳になった今も年齢という数字にとらわれることなく、自分の気持ちに忠実に、人生を楽しんでいる夏南さん。今後はいろいろなメディアを通して発信しながら、ときには人生相談などで、同性として女の子の役に立てたらいいなと考えているそう。ポジティブな方向にエネルギーが向かう流れを作っていきたいと語る、夏南さんのこれからの活躍に注目です!

撮影/Cédric Diradourian ヘア&メイク/福岡玲衣(ADDICT_CASE) スタイリスト/町野泉美 モデル /大家夏南 取材・文/江口暁子

ドレス/¥150,000(ピンコ/ピンコ ジャパン) シューズ/¥155,000(クリスチャン ルブタン/クリスチャン ルブタン ジャパン) ネックレス/¥42,000、イヤリング/¥16,000(トリファリ/ともにアトリエ ニノン) ※全て税抜価格