アメリカの大統領選挙では、候補者たちが互いに罵り合うのも“ふつう”のことかもしれません。しかし2024年の大統領選は、(今の“ふつう”が何であれ)まったく“ふつう”ではありません。そして、候補に名乗りを挙げているのも驚きの人物なのです。

2大政党のひとつで、現在は野党である共和党の候補者指名の獲得を目指すのは、前大統領のドナルド・トランプ氏。グラミー賞で史上最多となる4度目の年間最優秀アルバム賞を獲得したテイラー・スウィフトに、攻撃の“狙い”を定めてたと見られています。

トランプ氏は2月11日(現地時間)、SNS「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」のアカウントに、「テイラーが腐敗したジョー・バイデン大統領を支持することなどあり得ない」と投稿。

自らが在任中に成立させた「2018年音楽近代化法」は、テイラーが「大金を稼ぐことを可能にした」と主張しました。※<ヴァラエティ>誌によると、この法律の成立に尽力したある法律家は「トランプは可決された法案に署名しただけ、何もしていない」と述べています

トランプ氏の攻撃的な発言から読み取れるのは、前大統領が明らかにテイラーが“秘める力”を恐れているということ。

taylor swifts the eras tour concert film made an estimated 96 million in its opening weekend
Taylor Swift / Instagram//Instagram

ちなみに、トランプ氏はこれまでも数多くの女性たちに対し、「dog(醜い人)」「bimbo(ばかな女)」「lowlife(いかがわしい人)」などのひどい言葉を投げつけてきました。

2024年1月にはNYの連邦地裁から、性的暴行でトランプ氏を訴えたジーン・キャロル氏に対し、8330万ドル(約125億円)を支払うよう命じられています。判事はキャロル氏の訴えを「うそ」だと激しく非難してきたトランプの言動は、「名誉棄損にあたる」との判断を示しました。

「あらゆる層」に多数のファン

テイラーの“力”は、2023年に発表された調査結果でも現れています。回答した成人の53%はテイラーの「ファン」であり、16%は「熱狂的なファン」であるそう。

つまり、彼女のファンは男性にも女性にも、そして共和党と民主党の支持者のどちらにも、同じくらいいるということ。現在のアメリカ社会を構成するどの世代にも多くのファンを持つテイラーほどの影響力をもつ人は、ほかにはいないでしょう。

テイラーは前回の大統領選挙では、バイデン大統領を支持しました。そして、大統領は女性票の約57%を獲得。18~29歳の女性たちに限定すれば、その割合はさらに大きくなっていました。

2024年の選挙でも、おそらくバイデン・チームは、彼女の支持を得たいと強く願っているはず。調査では、有権者の18%(およそ3000万人)が、「テイラーが支持する候補に投票する可能性が高い」と答えているそうです。

テイラーは2023年9月、当時およそ2億7200万人だったインスタグラムのフォロワーたちに向け、有権者登録を促すメッセージを投稿しています。

そのなかで彼女が紹介した超党派の非営利団体が運営するウェブサイト「Vote(ヴォート)」によれば、彼女のコメントを受けて新たに有権者登録を行った人の数は3万5000を超え、登録者数は前年比で23%増加しました。

66th grammy awards show
Kevin Winter//Getty Images
第66回グラミー賞授賞式で、2024年2月4日撮影

中間選挙を前にした2018年には、テイラーはInstagramに次のように投稿しています。

「これまで私は、政治的な意見を明らかにすることに積極的ではありませんでした。ですが、ここ2年の間に私自身の人生、そして世界に起きたいくつかの出来事によって、そうすることへの考えが大きく変わりました」
「テネシー州の連邦上院議員選に、マーシャ・ブラックバーンという女性が立候補しています。私はいまも、女性に公職に就いてもらうために投票したいと思っています。ですが、マーシャ・ブラックバーン候補を支持することはできません。 彼女の議会での投票記録にはがく然とし、恐怖を感じます」
「彼女は男女同一賃金に反対し、ドメスティック・バイオレンスやストーカー行為、デートレイプから女性たちを守るための『女性に対する暴力防止法(VAWA)再授権法』の成立に反対しました」

そのほかテイラーは、この候補は「企業には同性カップルへのサービス提供を拒否する権利がある、同性婚の権利は認められるべきではないと考えている」として、「これらは、“私が”(出身地である)テネシー州の価値観だと考えるものではありません」と訴えていました。

taylor swift presidential election 2024
Courtsey of Netflix
Netflixで配信されているドキュメンタリー映画『ミス・アメリカーナ』より

さらに、テイラーは2020年の大統領選前には、再選を目指していたトランプ氏を公に非難。Xに、「在任中は一貫して白人至上主義と人種差別をあおっておいて、道徳的に優れている振りをして、その後に暴力で脅すなど、よくそんなことができますね?」「『略奪が始まれば、銃撃が始まる』??? 私たちは11月の投票で、あなたを落選させます」と投稿しています。

人々がどの候補に投票するか、それを決める権利はテイラーにはもちろんありません。それでも接戦が予想される選挙において、より多くの人が投票するよう促す力があることは間違いないといえるでしょう。

広がるテイラーの影響

テイラーの影響力は、アメリカン・フットボールにも及んでいます(交際中のトラヴィス・ケルシーは、NFLカンザスシティ・チーフスのタイトエンド)。

2024年1月末に発表された調査結果によれば、ミレニアル世代(28~43歳)の20%、Z世代(18~27歳)の24%が、「“テイラーの影響で”アメフトに関心を持つようになった」と答えました。

baltimore, maryland january 28 travis kelce 87 of the kansas city chiefs celebrates with taylor swift after a 17 10 victory against the baltimore ravens in the afc championship game at mt bank stadium on january 28, 2024 in baltimore, maryland photo by patrick smithgetty images
Patrick Smith


トラヴィスが出場し、テイラーが応援に駆け付けたNFLの2023シーズンの王者を決めるスーパーボウルの全米視聴者数は、過去最多を記録。1969年の(宇宙アポロ11号の)月面着陸に次ぐ人数に達したそう。

それと同じだけの影響力は、政治の世界にも及ぶのでしょうか? そうだとすれば、完売したテイラーのワールドツアー「The Eras」のチケットのように、候補者の誰もが彼女の「支持」を得たいと切望するのは、当然のことかもしれません。

※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
From ELLE UK

From: ELLE JP