Netflixの人気ドラマ『ザ・クラウン』の最終シーズンとなるシーズン6では、ダイアナ元妃の死が描かれます。その急逝に対するロイヤルファミリーの反応のなかで特に注目されるのは、もちろん“元夫”であるチャールズ国王(当時は皇太子)の反応。

ドミニク・ウェストが演じる皇太子は、元妻の事故死の知らせに泣き崩れます。ですが、実際のチャールズ皇太子は元妃の悲劇的な死に対し、どのような態度を見せていたのでしょうか?

※本記事は、一部ネタバレを含みます。

※以下、登場するロイヤルの肩書は、すべて当時のものです。


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Georges DE KEERLE//Getty Images
ダイアナ妃とチャールズ皇太子、1988年撮影

ダイアナクロニクル 伝説のプリンセス最後の真実』の著者、ジャーナリストで小説家のティナ・ブラウン氏は<BBC>のドキュメンタリー番組『ダイアナ 世界を揺るがせた7日間』で、「彼は完全に取り乱していました」と話しています。

「皇太子は即座に、これはひどいことになる、と悟ったのです…元妃の死について、彼自身、そして王室は責めを負うことになると」

また、ジャーナリストのクリストファー・アンダーセン氏は伝記『King: The Life of Charles III(原題)』で、元妃の死を知らされたチャールズ皇太子は「真っ青になり、震えていました」と明かしています。

「心の底から苦痛の叫び声を上げました。宮殿のスタッフが駆けつけると、皇太子はアームチェアに崩れ落ち、とめどなく涙を流していました」

Netflixのドラマでも描かれているように皇太子はその後、息子の王子たちを寝かせ、翌朝になってから母親の死を伝えました。ヘンリー王子は回想録『SPARE(原題)』で、1997年8月31日のこの朝のことについて、こうつづっています。

「父は普段から、感情を表現するのが得意ではありませんでした。このような危機的な状況下で、うまくそれができるはずもないでしょう」
「それでも父はもう一度、私の膝に手を置き、こう言いました。『大丈夫だよ』と。それは、父にとっては“かなりの”ことでした。父親らしさと、希望と、優しさと――。ですが、大きく間違っていました」

ヘンリー王子は前述のドキュメンタリー番組のなかでも、「父は私たちのそばにいてくれました」と話しています。

「残るただひとりの親として、最善を尽くそうとしてくれました。私たちが守られ、きちんと面倒を見てもらえているようにするために。ですが、父もまた、(私たちと)同じ“悲嘆のプロセス”を経験していたのです」

ロイヤルファミリーはその朝、滞在していたバルモラル城に近いクラシー・カーク教会へ向かいました。

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Adam Butler - PA Images//Getty Images
ダイアナ元妃が搬送されたパリのサルペトリエール病院を出るチャールズ皇太子と義姉たち

チャールズ皇太子はその日、ダイアナ元妃の姉たち、レディ・セーラ・マコーコデール(上の写真左)とジェーン・フェローズ男爵夫人(同中央)とともに、パリに向かいました。

皇太子はこのとき、エリザベス女王の意向に反して王室専用機を使用し、ダイアナ元妃の棺とともに、ロンドンに戻りました。アンダーセン氏は前述の著書でこのときの皇太子について、次のように記しています。

「皇太子が元妃の死にどれほどのショックを受けたか、人々は理解していないと思います。病院に到着し、霊安室で元妃の遺体を前にした皇太子を見たという看護師たちは、その顔にはショックを受けている様子が現れていたと述べています」

その後、空港に向かう車の中で皇太子は、当時の駐仏英大使、マイケル・ジェイ氏に対し「すべてが現実のことと思えない」と話したそう。

皇太子が王室専用機でパリに向かったのは、注目に値することでした。ジャーナリストのリチャード・ケイ氏は『ダイアナ 世界を揺るがせた7日間』(2017)で、こう語っています。

「それは驚くべきことであり、勇気ある行動でした。皇太子はすでに離婚した元夫であり、ウィリアム王子とヘンリー王子の父親であるという以外に、そこにいるべき(道徳的な)道理はありませんでした」
「ですが、皇太子は王室専用機でパリに行くことを主張しました。女王は認めませんでしたが、皇太子はダイアナ元妃のために、そうすることを強く訴えました。元妃の生前に、皇太子がそこまでしたことは一度もありませんでした」

皇太子は結局、元妃の姉たちとともに第32王室飛行隊が運用する専用機に乗り込み、王旗に包まれた元妃の棺とともに、パリから戻りました。

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ダイアナ元妃の棺とともに、ロンドンに近いノースホルト空軍基地に到着した皇太子と義姉たち

ニューヨーク・タイムズ>紙はこのとき、皇太子の対応について次のように報じています。

「ダイアナ元妃は、前年に成立したチャールズ皇太子との離婚により、“妃殿下”の称号を使用する権利を手放しています。そのため、理屈の上ではもはやロイヤルファミリーの一員ではなく、王族としての葬儀が執り行われるべきというわけではありませんでした」
「ただ、それでも元妃は、ウィンザー朝における未来の国王の母親です。その遺体を王室専用機に乗せて帰国させるという皇太子の決断は、そのことを改めて確認するものとみなされました」

帰国したチャールズ皇太子はすぐに、王子たちが滞在していたバルモラル城に向かいました。そして、親子はその数日後にロンドンに戻り、元妃が暮らしていたケンジントン宮殿の周囲に供えられ、山のように積みあがった花束を見て回りました。

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Anwar Hussein//Getty Images
ケンジントン宮殿の前に姿を見せたチャールズ皇太子とウィリアム王子、ヘンリー王子

その死から7日後に行われたダイアナ元妃の葬儀で、チャールズ皇太子とウィリアム王子、ヘンリー王子、皇太子の父フィリップ殿下、元妃の弟チャールズ・スペンサー伯爵は一列に並び、元妃の棺の後ろを歩きました。

後にヘンリー王子は<ニューズウィーク>誌のインタビューで、このときのことを次のように振り返っています。

「数千人の人々に取り囲まれ、視線を注がれるなか、さらにテレビで数百万という人々に見られるなかで、母を亡くしたばかりの私はその棺の後ろに続き、長い距離を歩かなければなりませんでした」
「いかなる事情があっても、子どもにそのようなことをさせるべきではないと思います。いまなら、このようなことは起こらないでしょう」
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(左から)皇太子の父フィリップ殿下、ウィリアム王子、スペンサー伯爵、ヘンリー王子、チャールズ皇太子

ダイアナ元妃の葬儀では、チャールズ皇太子は何も話しませんでした。弔辞を読み上げたのは、元妃の弟、チャールズ・スペンサー伯爵です。伯爵はそのなかで、こう明言しました。

「ここに誓います。血のつながった家族として、私たちは全力を尽くして、あなたがこれまでそうしてきたように、想像力と深い愛情をもって、この2人の若者たちを導いていきます。彼らの魂が責務や伝統のなかだけで生きるのではなく、その人生を堂々と謳歌することができるように」
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元妃の死後初めて、公の場に姿を見せたチャールズ皇太子

ダイアナ元妃の死後、チャールズ皇太子が初めて公の場で発言したのは、その数週間後でした。皇太子は、元妃の死に対する人々の反応に、自身も王子たちも深く心を打たれ、慰められていると話しました。

さらに、「息子たちと私がどれほど感謝し、感動しているか、言葉では言い表せません」と述べたほか、王子たちを「本当に、とても誇りに思っている」と心情を明かしました。

そして、王子たちは「非常にうまく対処」しているものの、彼らにとって母の死は明らかに「非常に大きな喪失」であり、皇太子自身もまた、元妃を亡くしたことによる喪失感を持ち続けていくだろうと語りました。

From TOWN&COUNTRY via 25ans

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