ノンバイナリー系トランスジェンダーを公表するニッキー・ヒルツ(28歳)選手は7月8日(現地時間)、アメリカのオレゴン州で行われた全米陸上競技選手権大会に参加し、女子1500メートルレースで優勝しました。快挙を成し遂げたニッキー選手は、自身の勝利がLGBTQ+コミュニティにとって意味することについて語りました。

トランスジェンダーは、生まれたときに割り当てられた性別と自身で認識する性(ジェンダーアイデンティティ)が一致していない人を指し、ノンバイナリーは「男性/女性の二軸だけで性をとらえない」性自認をもつ人を指します。

トランスジェンダーというと「出生時に充てられた性別と“逆”の性で生きる人のこと」と考えられがちですが、ニッキー選手のように出生時の性別に違和感をもち、男女の二軸で性をとらえないノンバイナリーを自認する人も多くいます。

陸上ニュースを主に扱う<CITIUS MAG>のインタビューに応じたニッキー選手は、今大会での優勝はトランスジェンダー・コミュニティにとっての“勝利”でもあると言います。

「優勝できて、本当にうれしいです。今の世の中には、たくさんの偏見や差別があります。例えば(アメリカ南部の保守的な州を中心に)、若者に対しての反トランスジェンダー法案が成立してしまっています。LGBTQ+コミュニティが、なにか希望をもてるものを必要としていると感じました。レース中にはたくさんのことが頭をよぎりますが、それが私の心の奥にずっとあったんです」

またニッキー選手は、観戦客がトランスジェンダーの旗をもっているのを見て、自分のために駆けつけてくれたことがさらなる感動につながったとも述べました。

2023 usatf outdoor championships
Christian Petersen//Getty Images
2023年7月8日に開催された全米陸上競技選手権大会から

米<デモイン・レジスター>紙によると、今年4月にアイオワ州デモインで行われた年齢や能力に関係なく参加可能なランイベント「グランド・ブルー・マイル」で、ノンバイナリーを公表しているアスリートとして初優勝を果たしたニッキー。

翌日のInstagramの投稿では、そのときの気持ちや応援してくれた人々への感謝を伝えました。

「昨日のコース沿い、特にゴール前の最終直線コースで見たプライドフラッグの多さが、私に追い風を与え、約50メートル先で勝利を掴むための追い上げにつながりました」
「デモインの皆さん、声援やレース後の声かけ、写真、ハグをありがとうございます。近年、トランスジェンダーとして不安が続くこの州で、安心感を与えてくれて感謝します」
2018 ncaa division i men's and women's outdoor track field championship
Jamie Schwaberow//Getty Images
2018年に開催されたNCAA女子陸上競技選手権大会から。優勝を収めたジェシカ・ハル選手(右)と、ニッキー選手

さらにニッキーは、同紙のインタビューでカミングアウト後に得た経験の素晴らしさや居心地の良さについても明らかにしました。

「2021年にカミングアウトする前は、自分のアイデンティティーにまつわつことを、世間と決して分かち合うことはないと心に誓っていました。自分の本当の姿を他の人に見せることもなく、呼び方を変えてほしくても我慢するつもりでした」
「自分がどれだけ成長し、ありのままでいることに心地良さを感じられるようになれたか。自分のことながら、その変化がうれしいです」