世界の音楽シーンで注目を集めるアーティスト、リナ・サワヤマ。イギリスを拠点に活躍する彼女は、これまでにもさまざまな楽曲を通して人種やセクシャリティ、政治、メンタルヘルスに関する発信を続けてきました。

また今年8月に開催されたサマーソニックでは、圧倒的なパフォーマンスはもちろん、日本における同性婚支持とLGBTQ+差別禁止法制定の必要性を訴えたMCが大きな反響を呼んだことも記憶に新しいはず。

過去に2度、インタビューに答えてくれたリナさんが今回はカバーモデルとして初登場! 9月にリリースした2ndアルバム『Hold the Girl』の制作や、それに大きな影響を与えたセラピー、メンタルヘルスのこと、自分自身のケアについて聞きました。

世界の音楽シーンで注目を集めるアーティスト、リナ・サワヤマ。過去に2度、インタビューに答えてくれたリナさんが今回はカバーモデルとして初登場!2ndアルバム『hold the girl』の制作や、それに大きな影響を与えたセラピー、メンタルヘルスのこと、自分自身のケアについて聞きました。
Mirei Kuno

セラピーは自分を守るための手段

――2019年以来の来日となりますが、感想はどうですか?

みんな同じようにパンデミックを体験して、世界中で時間が止まった瞬間があったけど、あまり変わっていない気がします。まずは焼肉を食べにいきたいですね。

あとは、ロフトが大好きなんです。ロフトに行って、コスメや文房具のフロアをパトロールしたい!(笑)魚金という居酒屋さんが大好きなので、帰国するまでには一度は訪れたいなと思っています。おいしいものをたくさん食べたいです。

――『Hold the Girl』の制作には、セラピーでの新たな発見が大きく関わっていたそうですね。

『Hold the Girl』は、 “私を抑えつけていること”についてのアルバムなのですが、自分の中にいる子どもの自分を受け入れること、そして大人の女性になった自分を抑えつけていることについて触れています。

昔、セラピーを受けていたときに、自分の中で受け入れ難い子どもの自分がいて。2020年のロックダウン中にもう一度セラピーを受け始めたら、10代後半頃の辛い体験やトラウマと向き合えるようになったんです。

父親の仕事の都合で4歳でイギリスに移住したときは、異なる言葉と文化の中に放り込まれ、目の前の世界ががらりと変わってとにかく苦労をしました。思春期には両親が離婚して、母とロンドンで暮らすことに。私はケンブリッジ大学で、政治学、心理学、社会学を学びましたが、その学部に入ろうと思ったのは、両親の離婚を理解できなかったからだったんです。

でもそういう疑問を学術的に説明してくれている本に出合って、その本を読んだことがセラピーのような体験になりました。ただ、本を読んだことで気持ちが楽になった反面、人種差別に基づく陰湿ないじめも経験し、在学中にうつ病で苦しんだ経験もあります。途方もない孤独を感じていた大学時代は、たくさんセラピーやカウンセリングを受けたというのが正直なところですね。

学生時代からセラピーやカウンセリングに通っていたけれど、自分と本質的に向き合えるようになったのは30代になってから。自分の根本には学生時代に抱えていた悩みやトラウマが常にあって、日常生活にもかなり大きな影響や負担を与えていることに気付いたので、より集中的なセラピーを受けることにしました。

パンデミックの影響も多少はあったのかな。行動が制限される状況下で友人と会うこともできず、フェスで大好きな音楽とも触れ合うことができず、自分のメンタルを保つ方法を奪われてしまった、というのが当時の正直な気持ちでした。外に出られないことで、自然と自分や過去と向き合う時間が増えたように思います。

まだトラウマの克服の途中で幼少時代の痛みや傷をすべて言語化するのは難しいけど、子どもの自分を受け入れるには、その子を抱きしめてあげて、その子が体験したことや感情に耳を傾けてあげることが大切だと30代になってようやく理解できた気がします。

世界の音楽シーンで注目を集めるアーティスト、リナ・サワヤマ。イギリスを拠点に活躍する彼女は、これまでにもさまざまな楽曲を通して人種やセクシャリティ、政治、メンタルヘルスに関する発信を続けてきました。

また今年8月に開催されたサマーソニックでは、圧倒的なパフォーマンスはもちろん、日本における同性婚支持とlgbtq+差別禁止法制定の必要性を訴えたmcが大きな反響を呼んだことも記憶に新しいはず。

過去に2度、インタビューに答えてくれたリナさんが今回はカバーモデルとして初登場! 9月にリリースした2ndアルバム『hold the girl』の制作や、それに大きな影響を与えたセラピー、メンタルヘルスのこと、自分自身のケアについて聞きました。
Mirei Kuno

――「Hold the Girl」の歌詞では、“内なる自分”と向き合おうとするメッセージが表現されています。これまでに「自分と向き合うこと」で得た学びはありますか?

これまでリリースしたアルバムは、自分探しの記録のようなものなんです。アーティストにおける“豊さ”とは、正直さや多様性だと私は思っています。だから、アーティストが自分に正直に、オープンになることは本当に大切だと考えていて。

子どもの頃の辛い経験を思い起こし、曲にするのは確かに辛いプロセスでした。だけど同時に私にとって素晴らしい浄化作用になったんです。困難を乗り越え、突破した結果、自分が誇りに思えるアルバムが出来上がりました。

自分の感情表現が乏しいと、特に私のようなクリエイティブな仕事をしている人間にとっては致命的なんですよね。自分のことをよく理解しているからこそ光る、ユニークな視点のようなものを求められていると思うんです。

だからこそセラピーが出発点となって、自分の生活の中にセラピーのためのスペースを作って、自分を許す作業をこれまで繰り返してきました。癒しを得るまでの道のりは平坦じゃないし簡単ではないけど、努力と時間をかける価値があると思っていたし、大学時代以降、何度もセラピーに命を救ってもらいました。

だからあなたも悩んでいるのなら、助けを求めることを恐れないで。ずっと苦しむ必要はないんです。トラウマは処理することだってできる。私もまだまだ努力が必要だけれど、乗り越えることができると知れば、まずは第一歩を進められたということ。セラピーは人生をよりよくするためのメンテナンスのようなもので、自分を守るための手段のひとつだと思っています。日記でもいいし、朝15分瞑想するだけでもいい。一駅分歩いてみたり、スマホから少し離れて読書してみたり…そんな少しのことでもセルフケアはできるんです。

どんなときも正直でオープンでいること、知る努力をすることの重要性もセラピーを通じて学んだこと。つまり、人間の行動を理解しようとすることがたぶん一番の方法じゃないかな。他人や家族、友人、世界、政治…色んなことを理解することに繋がると思います。

自分の過去に何かあったり、家族との問題を抱えていたりしたら、ただ誰かを責めるのではなく、問題の経緯を知ろうとする姿勢が大切なんですよね。その決断に至るまでに起こった出来事や感情などを本当の意味で理解することが、許すきっかけにもなると思うから。

世界の音楽シーンで注目を集めるアーティスト、リナ・サワヤマ。過去に2度、インタビューに答えてくれたリナさんが今回はカバーモデルとして初登場!2ndアルバム『hold the girl』の制作や、それに大きな影響を与えたセラピー、メンタルヘルスのこと、自分自身のケアについて聞きました。
Mirei Kuno

自分を知ることで変化も

――自分と向き合うことは、時間も忍耐力も必要だと思います。そんなときでも逃げ出さずに、受け入れるためにどんなことをしましたか?

まずは自分を知ること。そしていろんなことに対して心を開くこと。人や「学ぶ」という行為は、自分の視野を広げてくれます。どんな状況にいたとしても、常に感謝すべきものがあると思います。たとえば、いまこの瞬間、健康でいることも感謝すべきことですよね。

あと、セラピーは私にとって大きかったし、アルバムや楽曲制作も私にとってセラピーのようでもありました。というのも、自分の感情に言葉をつけること、感情を表現するのに適切な言葉を見つけることで、自分を理解できるところがあると思うんです。

なので、もしなにか自分の人生で辛いことやトラウマを抱えていたら、まずはセラピーから始めることをおすすめします。まずは自分のことを知らなければ、自分を愛することはできないので。

――実際、リナさんがセラピーで専門家と話したり、友人に自分の気持ちをシェアしたりしたことで、どんな気持ちの変化がありましたか?

コロナ禍の影響で精神が不安定になっている人は確実に増えているし、イギリスもそういった心の問題について前よりもオープンにするようになってきたように感じますね。このようなご時勢だし、それを受け入れるムードが広がっているというのか正しいのかな。

所属しているレーベルでは仕事の合間にセラピーの予約を入れたり、セラピーに行くことをオープンにしたりする人も私の周りでは増えてきた気がします。メンタルヘルスに取り組むには様々な方法があるけれど、企業規模で動くことによって、より生きやすい社会を作っていけるんじゃないかなと感じています。

セラピーに参加する以前の私は、自分は愛されるに相応しくないから虐められたと感じてしまうこともありました。そう信じてしまう気持ちはとてもわかります。だけど専門家や家族、友人にこれまでの経験やトラウマをシェアしていくなかで、自分に自信を持てるようになって、ポジティブな方向に動き出したという実感もあります。

あとは、自分の居心地の悪いと感じる場所や自分の信念と反する状況に身を置かなくなったのも変化したこと。たとえば、お酒を飲まないことをはっきり伝えたことで、お酒を飲まないコミュニティの人々との付き合いが増えました。家族にメンタルヘルスのことについてオープンに話したことで、家族間でもフランクに話ができるようにもなりました。

セラピーを受けることは恥ではないし、あなたのことを愛してくれる人はこの世界に必ず存在する。必要なだけ自分を知って受け入れて、許す時間をとってください。あなたの人生や悲しみを理解し、一緒に乗り越えようとしてくれる人が必ずいるはずです。

世界の音楽シーンで注目を集めるアーティスト、リナ・サワヤマ。過去に2度、インタビューに答えてくれたリナさんが今回はカバーモデルとして初登場!2ndアルバム『hold the girl』の制作や、それに大きな影響を与えたセラピー、メンタルヘルスのこと、自分自身のケアについて聞きました。
Mirei Kuno

――キャリアとプライベートでのメンタルヘルスの持ち方はどう分けていますか?

パンデミックが終わりを迎えつつある今、仕事がすごく忙しくなってきていて、毎日嵐が吹き荒れている感覚で(笑)。うまくメンタルヘルスのバランスを取るために朝、1時間自分のための時間を作ることを大切にしています。直前まで寝ていたいときもあるけれど、あえて早く起きて、瞑想をしたり、考え事をしたり。15分でも自分だけの時間を作ることが仕事面での大きな支えになっていますね。

それはプライベートの人間関係も同じで、自分だけの時間を持つことで少し気持ちに余裕が生まれる気がします。実は今日も朝、瞑想してから撮影に来たんです! ポジティブでいるためには自分の時間を確保する努力が大事。マジックのようなセラピーセッションを受けた、とかではなくて、毎日コツコツ積み重ねていることなのかなと思います。

心地の良いSNSとの距離感

――リナさんは普段、SNSとどう向き合っていますか?

このアルバムキャンペーンではSNSを多用することはわかっていたので、意識的に自分がこれまでフォローしていた人をアンフォローしました。それが自分にとって居心地が良いので。

私にとって、SNSはファンのみんなとのコミュニケーションツールだけど、自分と他者を比較したり、落ち込んでしまったりするような場所でもあるんです。今回、あえて情報を意図的にシャットダウンしたことで自分自身に集中できたし、とにかく心地が良かった。コメントをチェックするのもやめて、ただ投稿するだけといった感じです。

SNSでの誹謗中傷についてまず言えるのは、ヘイトは建設的ではないということ。もし相手があなたのことを受け入れなかったとしても、自分から心を開いてコミュニケーションをスタートすることが、なにより大切。私はいつも、自分と他者の共通性を見つけるようにしているし、もし誰かが嫌なコメントをしてきても、「なにか嫌なことがあったんだな。そういう態度を他者にとらなきゃいけないのはかわいそうだな」って、その行動の背景を想像するようにすることで心を落ち着かせています。

よくよく考えてみると、SNSを1時間見て、「すごくいい時間を過ごせた」と思えたことってないんですよね(笑)。SNSに依存しないことの重要性を身に染みて感じています。

でもいまだに抜け出せないSNSがあって…YouTubeやTikTokなどの動画って中毒性があって、料理動画とか無限に見ちゃうんです。だから、最近は10分ごとになにを自分が観たのかを書き留めて、可視化することでそのサイクルから抜け出そうとしています。書き留めてみると、料理とか犬や猫の動画とかなんてことないものしか見ていないんですよね。

SNSは人生のごく一部で、小さい液晶画面に映るものより、自分の目で見るもののほうがわくわくするはず。SNSのいい点でいうと、家族や友達と世界中どこにいてもFacetimeなどでコミュニケーションを取れることなのかなと思っています。

original
Mirei Kuno

――リナさんをアイコンとしているコスモポリタン読者に、メッセージをお願いいたします。

いつも応援してくれてありがとうございます! 日本で過ごした時間はあまり多くありませんが、日本はいつだって私にとってのホームのような存在なので、嬉しいです。社会の基準や常識に囚われる必要はないし、みなさんが毎日自分らしくいられることを願っています。

これからも歌やステージなどを通じて、私ならではの表現方法でみなさんを後押ししたり、メッセージを伝えていけたらと考えています。だからこそ、毎日最低15分、自分だけの時間を大切にしてほしい。みんなで自分らしく生きられる世界、自分を受け止められる世界にしていきましょう!


【info】

2nd Album『ホールド・ザ・ガール』発売中
歌詞対訳解説付き / POCS-24015 / 2,750円(税込)
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●来日公演情報

2023年1月17日(火)名古屋:ダイアモンドホール
2023年1月18日(水)大阪:Zepp Osaka Bayside
2023年1月20日(金)東京:東京ガーデンシアター


Photographs/Mirei Kuno(SIGNO) Hair/Tomomi Roppongi Makeup/Rie Shiraishi Stylist/Mao Miyakoshi Nail/Eichi Matsunaga Text/Yuki Otsuka

ブラトップ ¥19,800、ブーツ付きジーンズ ¥264,000/ディーゼル(ディーゼル ジャパン)レザーベルト ¥34,100 /クローゼット(エイチスリーオーファッションビュロー) グリーンのラインストーン付きネックレス¥26,400、ネックレス ¥15,400、イヤリング ¥14,300、リング ¥9,240、チェーンベルト ¥25,300 /すべてジュスティーヌ クランケ(THE WALL SHOWROOM)

お問い合わせ先

ディーゼル ジャパン Tel. 0120-55-1978
エイチスリーオーファッションビュロー Tel. 03-6712-6180
ジュスティーヌ クランケ Tel. 03-5774-4001

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