クラシック女優の生き方に学ぶ⑥ジーン・セバーグ Jean Seberg

ジーン・セバーグの代表作と言ったら、今でいうベリーショート、"セシルカット"が有名になった『悲しみよこんにちは』と、ヌーベルヴァーグの傑作『勝手にしやがれ』。特に後者は、セシルカットのセバーグの溌剌とした魅力とオシャレのヒントがたくさん詰まっていて、今になってもまったく色褪せない。ボルサリーノのかぶり方、ボーダーアイテムの取り入れ方、オーバーサイズの"彼シャツ"の着こなし方……。これまでこのコラムで紹介してきたクラシック女優たちがいわゆるエレガンスでフェミニンな美しさを持っていたとしたら、彼女はボーイッシュでコケティッシュな新しいタイプの女優だったと言える。

ファッションの面で語られることの多い彼女は、"正義感が強く、物事を冷静判断するタイプだった"と言われている。有名になる以前の10代の頃から、人種差別運動に加わり、女優になってからも臆することなくその立場や意見を明確にした。貧困や差別をなくすために公民権運動や慈善事業に関わり、黒人解放組織のブラックパンサー党に多額の寄付をしていたのだ。今でこそ珍しくないけれど、6070年代当時、政治的な活動をする女優は滅多にいなかったこともあり、当時のFBIはセバーグを危険分子と見なし、徹底的にマークしていたのだ(ちなみに当時のFBI長官は、レオナルド・ディカプリオ主演の『J・エドガー』で描かれたジョン・エドガー・フーヴァー)。

ジーン・セバーグとジャン=リュック・ゴダールpinterest
Gamma-Keystone via Getty Images
『勝手にしやがれ』でジーン・セバーグをスターにしたジャン=リュック・ゴダール監督と

セバーグは自らに注目を集めたがるようなタイプではなかったため、慈善団体への寄付などは人知れずこっそり行なっていたり、FBIから盗聴されるなどの執拗な嫌がらせを受けても、ブラックパンサーへのサポートをやめなかったりと、純粋な正義感と強い信念の持ち主だったことがうかがえる。ただ、慈善団体の会計が不透明なことが判明すると寄付をすぐさま中止する聡明さも持っていた。また、自分の周りにFBIと繋がっている人物がいないかを見極めようと、第二子妊娠時に父親の名前を複数名あげて(父親がブラックパンサーのメンバーであるとの噂を流されたためとも言われているが)、あえて情報を攪乱させたのも慎重さの表れだろう。

こうしたFBIとの"闘い"を続けた結果、病んでしまった彼女は、40歳の時パリの路上に止めた車の中で全裸死体となって発見された。手にしていた遺書には『許してください。もう私の神経は耐えられません』と書かれていたという。スクリーンで輝いていた彼女。正義感を1人抱えていたのかと思うと強さと同時に、いたたまれない気持ちになってしまう。

そして、その死は今もなお謎に包まれている。