このコラムでは、毎回日本や世界で話題となっているニュースからテーマを1つ選び、海外在住の著者視点で考えていくコラムです。身近なニュースからちょっと分かりづらい海外ニュースまで、知っておきたいトピックを解説していきます。
Q:ニュースでよく聞く「円高」「円安」。円高(または円安)になるとどんなメリット・デメリットがあるの?
このところ「1年ぶりに1ドル115円台になった」「1ドル112円台まで円高が進んだ」などの為替の動向や円高関連のニュースが最近頻繁に報道されています。今年に入り、ジグザグはあるものの円高傾向が続いているからです。
とはいえ、これがわたしたちの生活にどんな風に関係しているのか、ピンとこない方も多いのではないでしょうか? 今回は「円高」「円安」とはどんな状況を指すものなのか? それぞれのメリット・デメリットを簡単に解説します!
※わかりやすく解説するため、下記では円高時の為替レートを1ドル100円、円安時の為替レートを1ドル150円と仮定しています。現在のレートとは異なります。ご注意下さい。
▼そもそも、「円高」「円安」とは?
円高…円がドルやユーロなどの外国通貨に対して、価値が高くなること
例えば、昨日は1ドルが150円だった為替レートが、今日は1ドル100円になったとします。これは「円高ドル安になった」と表現されます。
なぜ1ドル150円→100円と安くなっているのに「円高」なのでしょうか?
あなたが今「どうしても1ドル札が必要!」な状況だと仮定します。銀行に行って日本円を1ドルに両替しようとした場合、
●昨日:1ドルを手に入れるために150円支払った。
●今日:1ドルを手に入れるために100円支払った。
今日は昨日より50円安い金額で1ドルが手に入ったのです。つまり、より安い金額(円)で同じ1ドルが手に入り、「円の価値が上がった→円高になった」と言えるのです。
円安…円高の反対。円がドルやユーロなどの外国通貨に対して、価値が低くなること
昨日は1ドル100円でしたが、今日は1ドル150円だとします。昨日は1ドルを100円しか払わず手に入れられたのに、今日は150円払わないと1ドルが手に入れることができません。
より高く払わないと同じ1ドルが手に入らない「円の価値が下がった→円安になった」ことを意味します。
▼「円高」「円安」のメリットとデメリット
円高になることは、消費者にとってはメリットだと一般的には言われています。「円の価値が高い」のですから、輸入業者は同じ買い付け金額で海外からよりたくさんの品を仕入れることが可能になり、輸入品が安く店頭に並ぶようになります。デパートなどで「円高還元セール」を開催しているのを見たことがある方は多いでしょう。これは「安い値段で仕入れた分、小売価格も安くしました!」とうたったセールです。
*牛肉、チーズ、ワイン、パスタなどの海外から輸入される食品
*海外ブランドの洋服やバッグ、家具
*輸入盤のCDや洋書
「一見して輸入品とわかる商品」だけでなく、日本で販売されている日用品にはたくさんの輸入品が含まれています。
また、日本は海外から多くの原材料(原油、ガソリン、小麦など)を輸入しています。こうした輸入原料を使って作られた商品は原価が下がるため、商品の価格も下がります。
海外旅行に行くなら、円高時がお得です。現地でのお小遣いとして10万円をドルに両替する場合、
●円高 1ドル100円の時:10万円=1,000ドル
●円安 1ドル150円の時:10万円=666ドル67セント(※)
300ドル以上もの差がでてしまうのです。
(※1セント以下は四捨五入して計算しています。)
しかし円高はメリットだけではありません。輸出製品を扱う企業にとっては、大きなデメリットとなります。
例えば自動車メーカーが、1台1万ドルで輸出したとします。
●円高 1ドル100円の時:1万ドル=100万円の売値
●円安 1ドル150円の時:1万ドル=150万円の売値
円高時のほうが円安時より50万円も売値が減ってしまうのです。
企業の利益が減るとリストラや支社・支店の閉鎖につながることもあります。また日本国内で従業員や工場を抱えるより、コストの安い海外で工場を展開しようという動きにもつながります。
また輸出をしてないメーカーにも影響が出る場合があります。安く海外から同じような商品が輸入されると、価格競争で負けることになり、日本製品が売れなくなってしまうからです。
では逆に円安になるとどうなるでしょうか?
わたしたち一般消費者にとっては、デメリットのほうが多いといえます。円高とは逆になるので、円安だと輸入品や輸入品を原材料にして作られている商品の値段があがってしまったり、海外旅行に行くのもよりお金がかかったりします。
日本からの輸出製品を扱う企業にとって、円安は朗報です。例えば電機メーカーがテレビを1,000ドルで輸出したとします。
●円安 1ドル150円の時:1,000ドル=15万円の売値
●円高 1ドル100円の時:1,000ドル=10万円の売値
円安時のほうが、1台あたり5万円も売値が高くなります。
また円安のときはその強みを生かし、値段を下げることもできます。たとえゲームメーカーが通常は1台100ドルで輸出しているゲーム機があるとします。
●円安 1ドル150円の時:100ドル=1万5,000円の売値
●円高 1ドル100円の時:100ドル=1万円の売値
ですが、円安時であれば90ドルに値下げしても1台あたり1万3,500円で売ることがでます。「値段を安くれば、よりたくさん売れる」とメーカー側が考えれば、値下げするという選択もできるのです。
まとめ
円高:
消費者:商品の値段が下がるのでうれしい
輸出企業:輸出利益が下がるので困る
円安:
商品の値段が上がり、消費者は困る
輸出企業:輸入利益が上がるのでうれしい
※輸入企業以外の企業や経済に影響を与えるので一概には言えないのですが、一般的にこのように言われています。
▼高くなったり安くなったりする為替レートって一体誰が決めているの?
世界では各国の通貨が24時間体制(平日)で取引されています。為替レートはその国の政治や景気、社会情勢の影響を受けて常に変動しており、その通貨を買いたい人が多ければ価値が上がり、買いたい人が少なくなれば価値が下がります。
たとえば、青果店にとってもおいしいリンゴが売られていたとします。1個100円の値がついていましたが、あまりにおいしいので150円出してでも買いたい!という人が現れました。お店は100円から150円に値上げし、リンゴの価値が上がりました。しばらくするとそのリンゴは味が変化したので人気がなくなってきました。お店は150円で買ってくれるお客さんが少なくなったと判断して120円に値下げし、リンゴの価値は少し下がりました。
銀行などの金融機関同士で、直接通貨の取引をする外国為替市場のことを「インターバンク市場(銀行間取引市場)」と言いますが、青果店がリンゴの値段を上げ下げすることを、世界の大きな銀行同士で行っています。つまり「今日はこの通貨はこのレートで取引しなさい!」と誰かが決めているわけではなく、通貨の人気に応じて、各銀行が取引の現場でレートを上げ下げして売買しているのです。
じつは、為替レートは上記以外にもう1つあります。上記のインターバンク市場で取引されたレートをもとに、各銀行が「一般顧客向け」の為替レートを決定し、サービスを行っているのです。これは「対顧客市場」と呼ばれます。各銀行のホームページに為替レート一覧表が掲載され、定期的に更新されていますが、わたしたちが海外旅行に行く前に銀行で両替したり、外貨預金をしたり、一般企業や個人が為替取引をするときはこのレートが使用されています。
▼円高・円安を上手に利用する
私は現在イギリスに住んでいるので、為替レートの変動(私の場合は円と英ポンドの組み合わせ)は生活に直結しています。この10数年で、1ポンド120円~250円(!!)までの変動を2回経験しているのですが、円の価値が倍になったり半分になったりしているので、その時々でいろいろ工夫してやりくりしてきました。
例えばイギリスでも日本の食材は日本食材店で手に入るので、味噌や醤油、カレーのルーなどをよく購入します。こういった輸入品は円高になるとドンと値上がりし、円安になるとガクンと下がります。なので、日持ちのするものは円安時にまとめ買いしてストックしておくようにしています。
円安のときに日本へ一時帰国する場合は、ポンドを円に両替して持っていきます。日本にある日本円を使うより、そのほうがお得になるからです。逆に円高のときは、日本の銀行に入った日本円を使用します。
また円高のときを選んで、日本円をポンドの口座に移動することもあります。
個人的には、円安時にポンド建てのクレジットカードで、つい買い物しすぎてしまうのが困るところ。自制できずにAmazonやオンライン書店で日本の商品をポチっとしてしまいます…。
うまく円高・円安を利用することもできます。ドル、ユーロ、ポンドの変動を常にチェックして、円高ドル安のときはアメリカから、円高ポンド安のときはイギリスから、円高ユーロ安のときはイタリアやフランスから、日本では手に入らないブランドの洋服をオンラインで購入。円安の時は<eBay>などの海外のオークションサイトを利用すれば、日本のものを海外にうまく販売できればお小遣いを稼ぎにもなります。
金融のプロや海外との取り引きに携わる人でもない限り為替の変動は予測ができず、複雑なシステムで動いているので理解するのが難しい世界です。でも、ほんの少し理解するだけでちょっと得をして、買い物や旅行をするときにも役立つのであれば、基本知識だけでも押さえておきたいですよね!