イギリスのケンブリッジに住み、大学院で美術史を学ぶルーシー・ビールさん(24歳)。彼女はアメリカで毎年約200人が発症し、わずかな接触でも痛みを伴う水ぶくれが皮膚にできる難病「表皮水疱症」をもって生まれました。

Instagramをきっかけに有名雑誌に出演するなど、現在はモデルとしても活動しています。乳児期に命を落とす可能性もあったなかで困難を克服し、自分自身や他の患者のために声を上げる彼女が歩んできた道とは――。

アメリカ・テキサス州の病院で、体重約2700グラムで生まれたルーシーさん。そのとき彼女の体は、赤みがかった水ぶくれに覆われ、口の周りの皮膚がはがれた状態だったと言います。出生の数日後、医師は彼女を表皮水疱症(Epidermolysis bullosa:EB)と診断。呆然とする家族に「あと数カ月も生きられるかどうかわからない」と告げました。

表皮水疱症のなかでも極めて珍しいタイプだった、ルーシーさんの病状。専門医による治療を受けるため、彼女と母親は10代の頃に当時住んでいたテキサス州オースティンからコロラド州デンバーへと引っ越したと言います。

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10代の間には、水ぶくれによる喉の狭まりを緩和するため約12回の手術を受けたというルーシーさん。

「17歳になる頃には体重が45キロを切り、栄養チューブが必要になる寸前までいきました。本当に悪くなってしまったんです」

彼女の幼少期の主治医ジェームズ・ファインスタイン医師は、「表皮水疱症とともに生きる患者は日々困難に直面する」と話します。皮膚の上層と下層をつなぐコラーゲンが不足しているため、外部と内部、そして喉の粘膜にも、痛みを伴う水ぶくれが生じるのです。

ルーシーさんの場合、「水ぶくれによる喉の狭窄が生命を脅かす状況であったことから、該当の位置に小さなバルーンを挿入する特殊でリスクの高い手術を選択した」とファインスタイン医師は説明。手術は無事に成功し、術後5カ月ほどで体重が元に戻ったそう。ルーシーさんは「当時、13歳のとき以来初めて元気になった」と語りました。

2016年に高校を卒業した彼女は、その後スコットランドのセント・アンドルーズ大学に進学。大学で美術史を専攻した彼女は、以来現在に至るまで海外での生活を続けていると言います。

「体には限界があるかもしれないけれど、心にはありません」
「自分をできる限り遠くへと連れていってあげたいと思ったんです」

2019年に水ぶくれによる体の傷跡の写真をInstagramに投稿しはじめたルーシーさんは、それがきっかけとなり<イタリア版 VOGUE>や<イギリス版 コスモポリタン>などの雑誌にモデルとして出演を果たすことに。

「自分の体に対して抱いていたネガティブな感情と向き合い、それをポジティブなものに変えていこうと思いました。『数年後にあれほど嫌っていた脚がVOGUEに載るようになるんだよ』と、10代の自分に伝えてあげたいです」

ルーシーさんのInstagramは、アカウント開設後1年ほどでフォロワー数が2万人に達しました。

2014年に家族とともに自身の基金を立ち上げた彼女は、そのほかにも表皮水疱症の治療研究や患者をサポートする団体を支援していて、研究支援の啓発と資金調達のために尽力しています。

ロンドン大学コートールド美術研究所で美術史の修士号を取得した彼女は今、来る6月にケンブリッジ大学で2つ目の修士号を取得することを目標にしているそう。

「幼い頃に学校を休みがちだったからこそ、教育は本当に大事なことだと思うんです」

「勉強とモデルのオーディションの合間に、付き合って5年のボーイフレンドと愛犬サクソンと過ごすのが楽しみ」だと話すルーシーさん。将来、美術史の教授になって田舎の小さなコテージでアヒルや犬、そして恋人と一緒にただ幸せに暮らすのが夢だと語ります。

「表皮水疱症のような恐ろしい病気と付き合うなかで得た大きな“収穫”のひとつは、自分が幸せであればそれだけで十分だということです」