イギリス在住のクィアで、ミックス犬と黒猫と共に暮らす、エディターのジーナ・トニックさん。もともと子どもを持つことに対して積極的ではなかったことや、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されたことで妊娠が難しいという彼女は、2匹のペットに愛情を注いでいると言います。

本記事では、ジーナさんが「クィアとペットとの関係」を綴った寄稿文を<コスモポリタン イギリス版>からお届け。クィア当事者や専門家にインタビューを行い、クィアの人生にペットが与える影響についてまとめています。

クィア:主にヘテロセクシャル(異性愛)や、シスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と性自認や表現が一致している人)以外の性的指向や性自認を表す包括的な言葉。

文:ジーナ・トニックさん

ライター、編集者、ボディポジティブを提唱するZINE『The Fat Zine』の共同創刊者。

ペットは「私が選んだ家族」

アメリカ在住の当事者を対象にしたと調査によれば、クィアの約68.6%が少なくとも1匹のペットを飼っているとのこと。

ドラァグクイーンたちが美や技術を競うリアリティ番組『ル・ポールのドラァグ・レース』でもよく引用される「chosen family(自分たちで選んだ家族)」 というコンセプト。これは、典型的な家族像に囚われず、生物学的な関係や血縁関係がなくても(あっても)、お互いにサポートし合う“家族”を意味しています。

バイセクシャルのステフィさんは、ペットとの関係もこの新しい家族のカタチになりえると考える一人。

「猫のベンジーは、私のすべて。ベンジーは人懐っこくて、愛情たっぷりで。動人間同士の“chosen family(自分たちで選んだ家族)”には、出会った瞬間から受け入れてくれる懐の深さを感じることが多いはず。私は、ペットの猫からその温もりをもらっているんです」
faceless content woman lying with cat
Daniel Lozano Gonzalez//Getty Images

そう感じているのは彼女だけではなく、実際に筆者の周りのクィアたちも同じように感じていると言います。ステフィさんによれば、どの動物をペットに選ぶかも自分のクィアなアイデンティティの表現のひとつだそう。たとえば、「レズビアンは猫を飼う」というイメージはその好例だとか。

ステフィさんは以前にも、ネズミを5匹飼っていたと言います。

「ネズミは、汚い・かわいくないなどネガティブな偏見を持たれがちですが、実は利口でかわいらしく、愛情たっぷりな生き物。誤解されがち、敬遠されがちっていう共通点から、親近感が湧いたんだと思います。それに実は、一部のネズミ目の生物の中には、同性間の性行動が確認されたこともあるんです」
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hamster holds on to a child's index finger
Catherine Falls Commercial//Getty Images

動物たちに感情移入しやすい理由

インタビューに協力してくれた多くの当事者が、ペットに家族としての親しみを感じると同時に、異性愛規範(異性愛しか認めない考え方)を前提とした社会で自身が否定されてきた経験から、動物に連帯感を感じていると言います。

レズビアンのシャーロットさん(29歳)は、4匹のフェレットを飼っています。自身の経験をもとに、「クィアは、自分たちが普段からさまざまな不当な扱いや問題に直面しているから、動物により共感できるんだと思う」と分析。

日常的にマイクロアグレッション(無自覚に社会的マイノリティを傷つけてしまう日常的言動)や、公然のホモフォビア(同性愛嫌悪)にさらされるクィアコミュニティ。そんな私たちを癒し、無償の愛を認識させてくれるのがペットの存在なのです。

また、自身もクィアであるセラピストのルイーズ・フッチャーさんは、「クィアの人たちは、ペットを所有物と考えず、上下関係や特定の役割・行動を求めず、家族として位置づける傾向にある」と考察しています。

「自分自身が、幼い頃(そして今でも)社会から特定の役割や行動を求められていると感じている人は、動物たちが求められている役割にもより敏感で、感情移入しやすいと思います。ペットそれぞれの個性を受け入れ、自己表現させる機会をより多く持つ印象があります。たとえ生意気でも、気難しくても、“飼い主”目線で何かを強いるようなことはしません。それは、自分自身が“固定観念”にさらされ、“ちゃんとした”生き方を強制されてきたことと無関係ではないと思います」
parrot staring out the window
Juana Mari Moya//Getty Images

家族愛は人間同士だけで育まれるものじゃない

LGBTQ+当事者を長年診てきたセラピストのルイーズさんは、一方で、異性愛規範に固執する人の中には、「人間同士の子育てしか許容しない」というスタンスの人もいると言います。

「異性愛規範では、あらゆる人間関係において、組み合わせや条件・社会の在り方などを細かく定義しようとする傾向にあります。 その狭い定義に収まらない要素は“反体制的”や、“不安要素”だと見なされるのです。家族愛や子育てにおいても、人間の子どもと大人同士のみに限定されると考える人もいて、動物に対して人間の子どもに与えるような愛情を注いだり感じたりすることを“異様”だと見なされることもあります」
「私は、人間とペットが親子としての関係性を築くことは可能だと思っています。ペットは、飼い主が自分を保護し世話をしてくれる人と理解して、愛情を受け取り愛情を返していく。そして人間はペットを保護し、育て、受け入れる対象ととらえ、彼らから元気や喜びをもらう関係というわけです」

クィアのカップルにとって人間の子どもの親になることは、シスジェンダーの異性カップルに比べて容易なことではありません。 養子縁組やIVF(体外受精)、精子や卵子ドナーといった子どもを授かる選択肢は広がりつつありますが、それでもアクセスや金銭面などのハードルを考えると、親になるための選択肢は限定的です。

だからこそ私たちにはペットと家族の絆や情愛を深めることが大切な選択肢の一つであり、この家族像が社会に受け入れられると良いなと考えています。

a lesbian pair playing on the ground at twilight with an abandoned dogconcept of lesbians
Adrian Rodriguez//Getty Images

ペットの存在が「生きる理由」に

クィアとペットの関係や、それがもたらすメンタル面や社会的なメリットは、研究テーマとしても多く取り上げられてきています。たとえば2018年に公開された調査によれば、50代以上のLGBTQ+当事者にとってペットを飼うことが良い影響を与えることが示されています。

この研究に参加したゲイ男性のアーネストさん(59歳)は、HIV感染者であり、重いうつ病に悩まされています。同調査では「ペットの犬が自分の生きがい」と語っています。

「彼(ペットの犬)がいなければ、毎朝ベッドから起き上がる理由なんてありません。でも、1日に2回散歩に連れて行かなきゃならない。毎日です。それが起きる理由。起き上がるのは、起きて薬を飲んで食事しなきゃいけない理由があるから。彼が、私の生命線なんです」

誰かの世話をするということは、自分の健康や身の回りにも気遣うこと。もちろんこの考え方は、性的マイノリティや社会的なマイノリティに限った話ではありません。ただ、異性愛規範の強い社会から孤立してしまうという点から、ペットによって家族というコミュニティが生まれること、その一員だという安心感や連帯感が、疎外されるクィアのモチベーションとなっているということも同様です。

否定されずに自己表現ができる存在、他では得られない無償の愛や親近感が得られるという意味で、私たちクィアのコミュニティにとってのペットとの関係性は、LGBTQ+コミュニティ内での人間関係に近いものがあります。

“規範”から外れた私たちは、愛を共有することがたやすくないこの世界で、愛を与え、愛を受け取ることが何よりも大事かを、痛いほど理解しているのです。

※この翻訳は、抄訳です。
Translation: Mari Watanabe(Office Miyazaki Inc.)
COSMOPOLITAN UK