芸能人やサッカー選手、各国の政治家、CEOまで、自身のセクシュアリティが「レズビアン」であることを公表している人も少なくない昨今。SNS上でも、カミングアウトの話を共有したり、当事者による“あるあるネタ”が盛り上がるなど、現代ならではのコミュニティが育まれています。
一方で、そんな喜ばしく楽しい側面だけが盛り上がっているわけではありません。近年では、一部のジェンダーやセクシュアリティを標的にしたヘイトクライム(憎悪や差別的な感情による犯罪)は増加している、という傾向も。
本記事では、LGBGTQIA女性とノンバイナリーのための雑誌<ディーヴァ・マガジン>のロキシー・ブーディロン編集長が<コスモポリタン イギリス版>に寄せたエッセイをお届け。
ジェンダーやセクシュアリティが、より包括的で多様になっている現代。レズビアンとして生きやすくなった部分やまだまだ感じる障壁について、ほかの当事者らの経験も交えてつづります。
【INDEX】
- 未だに残るレズビアンへの偏見
- 言葉の定義は、より柔軟に
- 存在の可視化が進む一方で…
- 世界的にヘイトクライムが増加傾向に
- コミィニティ内での亀裂も…
- シスターフッドを感じて…
- 誇りをもって「レズビアン」と言えるように
語り:ロキシー・ブーディロンさん
未だに残るレズビアンへの偏見
<ディーバ・マガジン>に寄稿するリンダ・ライリーさんが「レズビアン可視化の週」を立ち上げたのは2020年のこと。以来、LGBTQIAチャリティの「ストーンウォール」を運営しながら、レズビアンの存在を啓発するほか、当事者が直面する問題にスポットライトを当てています。
それでも多くの非当事者たちが「レズビアン」という言葉を聞いたときに連想するのは、レズビアン・ポルノかもしれませんし、スポーティな見た目をした体育教師かもしれません。あるいはドキドキする人や、喜びで満たされる人もいるでしょう。
LGBTQ+の人々へのいじめ撲滅を目的としたチャリティ「ジャスト・ライク・アス」は、性的マイノリティの若者に対して「自分の性をどう思うか」を調査。それによれば、「レズビアンの若者の79%が自身の性を“恥ずべきもの”と感じている」という結果が出ており、その他のジェンダーやセクシュアリティよりも高い数値となっています。
今日に至るまでに進歩してきた部分もあるものの、レズビアンというアイデンティティへの偏見がまだまだ根強いことが読み取れます。
言葉の定義は、より柔軟に
そんな状況の一方で、黒人でレズビアンのフリーランスライターであるメアリーさんは、今になってレズビアンであることが「最高に幸せ」だと感じられるようになってきたそう。
「長い間、本当の自分を否定してきました。現在、レズビアンという言葉の定義は柔軟になってきたと感じます。私はレズビアンですが、女性、ノンバイナリー、トランスマスキュリンの人が恋愛対象です」
トランスジェンダー女性でレズビアン、活動家、パブリックスピーカー、ライターのエヴァ・エコーさんも同様に、時間をかけて愛せるようになってきたのだとか。
「若い頃は、レズビアンという言葉を聞くと恥ずかしい気持ちになっていました。しかしここ数年、やっと誇りに思えるように。この言葉を再定義し、もっと偏見をなくしたいです」
メアリーさんやエヴァさんのように、私も最初は自分のアイデンティティに悩みました。物心ついたときから女性に興味があったけれど、レズビアンだと自認したのは20代に入って、かなり経ってから。
私の知る限りでは「レズビアン」という言葉はネガティブな印象を伴う言葉として使われていたので、あまり良いイメージを持っていなかったのです。でも今は、私たち当事者がこの言葉を積極的に使うことで“自分たち”のものにしたいな、って。可視化によって、力を与えることができるはずだと信じています。
存在の可視化が進む一方で…
2023年の今は、レズビアンの可視化が最も進んでいる時代だと私は感じます。(イギリスでは)結婚もできるし、子どもを育てることもできて、レズビアン向けのテレビ番組も存在します。
もちろん、これらは喜ばしいことです。でも、すべてが“キラキラ”で、“レインボー”になったわけではありません。
街中では、ハラスメントにおびえてパートナーと手をつなぐのは避けますし、子どもをもちたい場合もクリニックに行くためにはまず抽選で選ばれないといけません。レズビアン向けの番組だって、いいなと思っては打ち切られてばかりです。
そしてレズビアンの人々が持つ多様性も見過ごされがちだと思っています。有色人種や障がいのある人、トランスジェンダー、ノンバイナリー、インターセックスの人など。レズビアン一つをとっても、年齢や体型、性表現も本来は多様なのです。
世界的にヘイトクライムが増加傾向に
レズビアンに対するネガティブな偏見も、まだあります。そして、これを問題提起するだけでも“怒りっぽいレズビアン”というレッテルを貼られてしまうのです。
でも、怒りたくなるのも当然のこと。2022年には、ホモフォビアに起因するヘイトクライムは30%以上増加し、トランスフォビア(トランスジェンダーの人に対する差別的で攻撃的な言論や態度) に関しては58%も増加しています。
またイギリス政府は、根拠のない“治療”の名のもとに多様な性の在り方を否定するコンバージョンセラピー(転向療法、矯正療法)を禁止すると5年前に約束され、法整備も進みました。※ しかし当時から当事者を取り巻く実態は、なかなか変わっていません。
※当初は公約に含まれていなかったトランスジェンダーの人々も対象に、23年現在イギリスではコンバージョンセラピーは法的に禁止されています。
アメリカのフロリダ州では、学校での議論を制限するいわゆる「ゲイと言うな法(Don't say gay)」、ウガンダでは同性愛を死刑に処する法が成立しました。世界的にLGBTQ+コミュニティは今でも危険にさらされています。
さらに、セクシュアリティへの憎悪や偏見に留まらず、人種差別やトランス差別とも戦わなくてはいけない人もいます。
「レズビアンという言葉自体が、セクシュアリティだけでなく、反人種差別、反TERF(トランス排除的ラディカルフェミニスト)、反障がい者差別、反差別主義であるということも表せるような世の中になればいいのに」と、メアリーさんは言います。
コミィニティ内での亀裂も…
「ストーンウォール」による2022年の調査では、性的指向の割合をZ・ミレニアル・X・ベビーブーマー世代と、年齢層別に分析。その結果、イギリスのZ世代でヘテロセクシャル(異性愛者)だと自認しているのは73%で、セクシャルマイノリティのうち、レズビアンを自認していると答えたのは3%でした。
一方で、ヘテロセクシャル以外の性的指向をもつと答えた人の数は、Z世代ほど多い結果に。中でも、バイセクシャル(2つ以上の性が恋愛対象な人)は10%でパンセクシャル(全性愛)は4%、アセクシャル(性的欲求を他者に抱かない人)は5%と、ほかの世代と比べて増加傾向をみせました。
レズビアンと自身を表現する人はミレニアルの1%から増えているものの、ほかのセクシュアリティと比べて、緩やかな増加です。また、ゲイは3%から2%に減少しています。
これはセクシュアリティに対する理解度が深まって 、自分のアイデンティティを表現できる、より適切な言葉が見つかった人が増えている結果とも言えるかもしれません。レポートでは、「Z世代になるほど“1つ以上の性を恋愛対象とする/しない」と言いやすくなっていると分析されています。
しかし私は、多様な性自認の在り方が可視化されつつある現代において、レズビアンであることとトランスジェンダー差別の強化が関連づけられて議論に発展していることがあると感じています。それゆえに「レズビアン」と表現することを避けたり、“タブー”のように感じてしまう当事者もいるのではないでしょうか。
エヴァさんはこの現状を、以下のように分析します。
「現在は、一部のレズビアンのみにスポットライトが当たってしまっています。実際にレズビアンであるということを理由にトランス女性に対して差別をする人も存在しており、レズビアンコミュニティに亀裂が入っています」
ところが「ジャスト・ライク・アス」の調査によると、実際にはレズビアンコミュニティは最もトランス・アライ(同盟や支援者、味方だと表明する人)が多いコミュニティであることが分かっています。96%のレズビアンが、トランスジェンダーの人々を「サポートする」と回答しているのです。
そして、これが若い世代だけに見られる傾向ではないというのもポイントです。
LGBTQ+当事者で詩人のローリエイト・トゥルーディー・ハウソンさんは、1970年代にロンドンに移り「ゲイ解放前線(Gay Liberation Front)」に参加。彼女も、トランスジェンダー女性やバイセクシュアルの人々へのサポートの少なさを危惧しています。
「私たちの多様性こそが、私たちの強さと美しさを与えるのです」
シスターフッドを感じて…
現代においてもレズビアンとして生きることは容易ではありませんが、レズビアンならではの喜びもたくさんあると当事者らは語ります。
ソフト・ブッチ(男性的なアイデンティティを示すレズビアン)で幼稚園教諭のスーさんは、多様なレズビアンコミュニティの一員であることに幸せを感じるそう。彼女はレズビアンのオートバイクラブ「サフィック・ライダー」の創設メンバーで、ロンドンのプライドパレードにも参加しています。
「オートバイクラブは、まさに“シスターフッド(女性同士の絆)”を感じられる場です。自分のパッションを共有し、レズビアンとしての相談などもできる仲間がいます。楽しさも苦しみも、共に経験できるのです」
ローリエイトさんは「レズビアンであるということは自由であるということ。社会の規範や“普通”にとらわれないで、自分らしくいられる」と言います。
誇りをもって「レズビアン」と言えるように
2023年の今、「レズビアンである」ということとは――。今日までの進歩を祝福しつつ、これからの課題の大きさを認知することではないでしょうか。
自分らしさと周りの多様性を尊重すること。社会が押し付ける規範を拒否し、自分たちで人生と愛を定義していくこと。自分が小さい頃、存在してほしかったレズビアンのロールモデルになること。
今でも差別を経験することも少なくありませんし、コミュニティ内での亀裂も一つの課題です。でも、少なくとも今の私にとっては、誇りを持って「レズビアン」という言葉を言えるようになったことが最も意味のあることだと感じています。
※この翻訳は、抄訳です。
Translation:佐立武士
COSMOPOLITAN UK