お出汁というと、鰹節や煮干し、昆布、干し椎茸のイメージが強いと思いますが、野菜からもお出汁が取れるって知っていましたか? 私たちが普段食材として食べている野菜のヘタや皮などの捨ててしまう部分を使って作ることのできる野菜だしの「ベジブロス」が最近注目を集めています。
野菜くずを使って作ることからフードロス削減に繋がったり、普段は捨ててしまっている部分に詰まっている体に嬉しい成分を摂れたりするなど、料理を美味しくしてくれるだけじゃない魅力の詰まった「ベジブロス」。今回はその「ベジブロス」の基本の作り方や美味しく作るコツ、保存方法や使い方などをご紹介していきます。
べジブロス(野菜出汁)って?
ベジブロスとは、英語で“野菜”の「ベジ(veg)」と、“だし”という意味の「ブロス(broth)」が組み合わさったもの、つまり“野菜のだし”です。だしといえば、昆布やかつお節をじっくり煮込むイメージが強いと思いますが、野菜もじっくり煮込めば立派な出汁になり、野菜のうまみや甘みだけでなく、栄養成分も溶けだします。
さらに、ベジブロスに使うのは野菜のヘタや皮、芯、種、わた、根っこなど、今までは家庭で捨ててしまうことの多い部分。ベジブロスを作るということは、野菜を丸ごと無駄なく使うということにもなり、フードロス削減の観点からも注目されています。
日本では毎年約612万トンもの本来は食べられる食品が捨てられていて、一人あたりだと1日約132g。このうち家庭からは約284万トンと言われていて、家庭での食品ロスの見直しの大切さがわかります。
※FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書による2017年度推計値。
ベジブロスは、まろやかな甘みとうまみが口に広がる優しい味わいに仕上がることが多く、いろんな料理に使える万能だしとして活用できます。
ベジブロスの栄養・健康面のメリット
野菜のわたや種、皮や根っこ、芯の部分には、実の部分と同じくらい、もしくはそれ以上にビタミンやミネラル、そして「ファイトケミカル」という栄養成分がたくさん含まれています。中でも注目したいのは、植物性食品由来の物質であるファイトケミカル(フィトケミカルとも呼ばれる場合もあります)。
自分で動くことができない植物は、太陽の紫外線による酸化や虫などの外敵から自らを守るために、色や香り、苦味を持った化学物質やアクを作り出します。その化学物質が、ギリシャ語の“植物”という意味の「ファイト(phyto)」と、“化学物質”という意味の「ケミカル(chemical)」を足した「ファイトケミカル(植物性化学物質)」です。
私たちが健康的に生活するために必要な栄養素として、糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルがあり、「5大栄養素」と呼ばれているのですが、ここ最近では「第6の栄養素」として食物繊維、さらに「第7の栄養素」としてこのファイトケミカルが位置づけられて、今とても注目を浴びています。
ポリフェノールのアントシアニンやカテキン、イソフラボン、そしてカロテノイドのリコピンやカロテンなど、健康や美容に役に立つと言われてよく耳にするこれらの成分は全て、ファイトケミカルとされている成分。抗酸化作用によるアンチエイジング効果、がん予防、免疫力向上などのさまざまな効果が期待されています。
また、野菜に含まれるビタミンやミネラルはほとんどが水溶性のため、野菜くずを煮だして作るベジブロスは、野菜の栄養成分がたくさん溶け込み、食物繊維などの栄養吸収を邪魔するものが入っていないため、効率よく栄養成分を吸収することができます。
「野菜は加熱すると栄養素が壊れてしまうから、ベジブロスを作るためにグツグツ煮てしまったら、栄養価はそれほどないのでは?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。でもご安心ください!
たしかに、ビタミンCやビタミンB郡など、加熱する事で含有量が減ってしまう栄養素はありますが、加熱してもそれほど破壊されないビタミンもあり、ミネラルは加熱しても減りません。さらに、ファイトケミカルが持つ抗酸化作用は、熱を加えても栄養素が失われにくいと言われ、逆に加熱することで細胞の壁が壊れて、抗酸化物質作用がより発揮されやすくなる利点も。
そしてもう一つ嬉しいポイントが、野菜のうまみが溶け込んだベジブロスを料理に使うことで、料理のコクがアップし、調味料を減らすのに役立つということ。調味料を減らすことで、高血圧やむくみの原因となる食塩の摂りすぎを防止。また、ベジブロスには野菜に含まれるカリウムも溶けだしているので、高血圧の改善や、むくみ解消を助けてくれる働きがあります。
ベジブロスの作り方
フードロス削減に貢献できたり、健康効果も高く、魅力的なベジブロス。実は作り方も簡単!
材料の“酒”は料理に向いているのもであれば、お好みのものでOK。おすすめ料理酒は福来純の純米料理酒です。
材料(1リットル分)
- 好みの野菜(切れ端など)…両手一杯分(250g)
- 水…1300ml
- 酒…小さじ1
- お好みでローリエの葉やタイムなどのハーブ
作り方
- 野菜の切れ端を両手一杯分(250gくらい)用意する
よく洗い泥や汚れを取っておきましょう。 - 野菜を火にかける
大きい鍋に、火にかける前に分量の水と野菜の切れ端を入れ、小さじ1のお酒を入れます。(このひとさじが、うまみを引き出し、臭みを消してくれます) - 野菜を煮込む
弱火で20-30分煮こみます。(ハーブを入れる場合はここで入れます)
強火にすると野菜が煮崩れてしまうので、野菜が踊るくらいの弱火にしましょう。 - 野菜を濾す
火を止めたらボウルにざるを乗せて、野菜を濾したらベジブロスの完成。
ベジブロスを美味しく仕上げるコツ
ベジブロスは野菜の成分が溶け出てできているものなので、やっぱり材料の野菜選びが大切です。
基本となる野菜は「たまねぎ、ねぎ、セロリ、パセリ、にんじん」などで、このような香味野菜の切れ端を使うと、風味豊かになり美味しくなります。これに旬の野菜をプラスしていくと、その季節にあった風味になり、おすすめ。
春夏はトマトのヘタやとうもろこしの芯、ナスのヘタなど、秋冬は枝豆の莢、じゃがいもの皮、りんごの芯、きのこの石づきなども材料になります。
普段から袋に野菜の切れ端や皮を冷凍庫で貯めるようにし、ある程度たまったら使用するのが便利。自分のタイミングでベジブロスを作ることができますし、冷凍すると野菜の組織が壊れるので、だしが早くとれて楽です。
ベジブロス作りにあまり向かないのが、キャベツやブロッコリー、菜の花などの匂いが強い野菜や、ゴーヤ、春菊、きゅうりなどの苦味のある野菜、カリフラワーやキャベツの芯、ブロッコリーの芯、かぼちゃのわた、などのアクの出る野菜たちです。この辺りの野菜たちは、味や風味のクセが強く出てしまう可能性が。
また、紫玉ねぎやなす、ビーツなどの紫色の野菜は色落ちしてスープの変色のもとになるので気をつけましょう。「絶対に入れてはいけない野菜」というわけではありませんが、入れすぎると飲みにくくなってしまったり、見た目が悪くなってしまうことも。
また、早く作ろうと強火で作ってしまうと、野菜が崩れてベジブロスが濁ったり、えぐみや苦みが出てしまったりする場合あるので、時間をかけて煮てゆっくり出汁を取るのがコツです。
農薬が気になる場合は?
皮やヘタなどで作るベジブロス。栄養成分に目を向けていると良いこと尽くしですが、ここで気をつけておきたいのが残留農薬です。有機栽培や自然栽培、無農薬栽培のお野菜の場合は気にする必要はありませんが、そうではない場合は、重曹を使って落とすのが◎。
使う重曹は、食用の重曹が安心。農薬除去だけでなく、お掃除やお菓子作りにも使えるので重宝します。
手順
- 250mlの水に対して大さじ1杯の割合で重曹を溶かす
- 重曹水の中に野菜くずをつけて、30秒〜1分ほど置く
時間を置きすぎると、栄養素が溶け出してしまうので注意! - 流水で重曹をしっかりと流したらOK
野菜を浸け置きした重曹水は、通常の重曹水として掃除に使えます。
ベジブロスの保存方法
ベジブロスは作ってから、ボトルや瓶、タッパーなどの保存容器に入れれば冷蔵庫で3日ほど保存可能。
冷凍する場合は製氷皿で一度凍らせてから、保存袋などに移して冷凍庫で保存すると、2カ月ほど持ちます。
ベジブロスの使い方
ベジブロスはクセがないため、和洋中問わず幅広く使えるとっても便利な万能だしとして、さまざまな料理のベースとして活用できます。
まずは定番のスープや味噌汁などの汁物にしてみて。ベジブロスの風味や旨味がわかってきたら、カレーなどの煮こみ料理、お浸しなどの和食、漬け物やピクルスなどの漬け液にも応用すると、いつもの料理のレベルがグンと上がります。ご飯の炊き水にしたり、リゾットを作るのに使ってみるのも良いかもしれません。
簡単に作れ、買った食材を丸ごと無駄なく使うことができ、ファイトケミカルを取り入れやすくしてくれるベジブロス。次に野菜を切るときから、野菜くずを冷凍庫にためてみるところから始めてみてはいかがでしょうか?