WNBA(女子全米バスケットボールリーグ)の「ロサンゼルス スパークス」や「ラスベガス・エーシズ」などに所属し、長年にわたって第一線を走りつづけてきたキャンデース・パーカー選手(37歳)。2回のオリンピック優勝、2回のWNBAリーグのチャンピオン獲得、そして2回にわたりMVP選手に輝いているなど、名実ともにトッププレイヤーとして知られています。

昨年には、同じく女性バスケットボール選手として活躍するアナ・ペトラコワ選手との結婚や、アナ選手の妊娠・出産についても発表。2人の子を持つ母親として、女性アスリートとして、SNSをはじめ様々な媒体での発信を通じて女性や若い世代のエンパワーメントをつづけるキャンデース選手にお話を伺いました。

熱量を維持する難しさとの闘い

――スー・バード選手が昨年に41歳で引退したことが注目されましたが、WNBAでは年齢にとらわれずに長く活躍を続ける選手が多い印象です。体や環境の変化もあるなかで、女性アスリートとしてトップを走り続けるための秘訣はありますか?

    女性アスリートとして最も重要なことは、自分たちがアスリートであるという認識を強く持つこと。プロであるからには体型維持はもちろんのこと、熱量や欲望を維持することも不可欠です。得てして、“ハングリー精神”というのは、上を目指しているときには維持しやすいものだけど、トップに上りつめた時にその情熱を維持することは簡単ではありません。

    これは他の仕事でも言えることですが、長いスパンでキャリアを築くには自分のモチベーションを高める方法を知っておくべきだと思います。実際に私自身、毎日が挑戦であることを忘れないようにしています。「どうしてバスケットボールをはじめたのか」、「どうしてチャンピオンを獲りたいのか」と、熱量を高めるために自問自答しつづけています。

    キャンディス・パーカー
    Kazushi Toyota

    “期待”に振りまわされないために

    ―― <TED Talks>に登壇した際には、「世間に期待される存在で留まらないことの重要性」を伝えていました。一方で、期待を裏切ってしまうことや下回ってしまうことを恐れて挑戦できない人も少なくありません。この壁を打ち破るためのアドバイスはありますか?

      そもそも“期待”というもの自体が、“限界”につながっていることを認識するべきです。特に、「誰かに認めてもらいたい」「要望に応えたい」といった、他者を軸にした期待というものは、その人の可能性を狭める原因になるんです。

      私が何かに取り組むときには、期待ではなく、自分が設定した目標に向かうようにしています。“期待”をモチベーションにした場合には、下回ったときはもちろん、達成した後に行き場がなくなることもありますよね。一方で、自分で設定した目標はより具体的ですし、達成した後にもさらに目標を立てることができます。

      自分の熱意や努力を最も理解できるのは自分だし、自分に対して最も厳しい目を向けられるのも自分でしかない。他者からの“期待”は、たとえそれがどのようなものであっても、あくまでも意見の一つだと捉えるぐらいがちょうど良いんです。

      時には、壁が立ちはだかることもあると思います。人生は、転換の連続。到達するために違う道を探すことも大事だし、“違う道”というのは、ともすればそこがあなたの居場所ではないという意味にもなりえます。

      私個人としては、まずはとにかく真剣に取り組んで、それでも上手くいかないときには結果を受け止めるようにしています。

      成功の秘訣は「家庭と仕事の相乗効果」

      ――トップアスリートでもあり、母という一面も持つキャンデース選手。偏見やプレッシャーに晒された経験とどう向き合ってきましたか?

        最も効果的なのは、自分らしくいること。私にとって「母親である」ということは、何よりも先に立つものです。母親はアスリートになれるし、母親たちには特別なパワーが宿っていて、バランスを保ちながら多くのことをやってのけているんです。

        ――具体的に、ご自身ではどのようにバランスをとるための工夫をしていますか?

          私の場合は、家庭と仕事それぞれがお互いに良い影響を与えあっています。子どもの存在は私をより良い人間でありたいと思わせてくれるし、物事に真剣に向き合う姿を子どもたちに示したいという思いもある。一方で、仕事を通してより良い母親であるためのヒントをもらうこともありますし、私が女性としての活躍の場を広げることが、子どもたちの可能性を広げることにも通じます。

          私にとっては、良き母親であることとトッププレイヤーであることは表裏一体で、このバランスなくしては今の成功はないと思っています。

          ――母親として、アスリートとして、起業家として。様々な顔を持ち活躍するキャンデース選手は、多くの人のロールモデルとなっています。ご自身の経験を振り返り、女性にとって“ロールモデル”を持つことの重要性についてどう考えますか?

            自分を投影できる“憧れの人”や、自分が身を置きたいと思える場所を持つことは、誰にとっても重要なこと。

            私自身の経験で言えば、それまでは男性用のバスケットリーグしかなかったところに、私が10代の頃にWNBAリーグが設立されたことで、若い女性たちがバスケットボールに情熱を持ち、競い合っている姿を観られるようになりました。「私もあんな風にバスケがしたい」と、自分を重ね合わせることができたので強く影響されましたね。

            母親としても、同じように家庭と仕事のバランスをとっている先輩たちの姿を見て、勇気づけられています。

            キャンディス・パーカー
            Kazushi Toyota

            女性アスリートに正しい評価を

            ――ケルシー・プラム選手の問題提起に端を発し、NBAとWNBAの賃金格差(報酬率の格差)が注目されています。アスリートとして、スポーツ界のジェンダー格差についてどう考えていますか?

              私が話せるのはアメリカのスポーツ界における状況のみですが、女性が男性と同じだけ仕事をこなしても、女性の方が支払われる給料が低いという実態があります。まったく同じことを成し遂げているにも関わらず、です。

              これは、社会が一方的に女性の可能性に限界を見出したり、「女性の方が価値が低い」という思い込みや偏見が根づいてしまっていることが大きな原因。スポーツ界におけるスポンサーシップや、ファンに向けたグッズにおいても(NBAでは各選手の名前を冠したジャージなどのグッズが数多く作られている一方で)、女性アスリートの方がチャンスが少ない傾向にあります。

              ――その点では、キャンデース選手がアディダス バスケットボールによる「REMEMBER THE WHY」キャンペーンのコレクションモデルに起用されていることには大きな意味がありますよね。

                アディダスが今回のコレクションを通じて、女性やアスリートたちの持てる力強さを世の中に提示していることは、とても有意義な取り組みだと思います。

                今回のキャンペーンには、他にも女性アスリートが参加しています。私を含め彼女たちは、自分の関わったシューズや服が店頭に並んで売り出されることに、とても勇気づけられると思うんです。若い世代がこのキャンペーンを見て、スポーツを愛して真剣に取り組んできた人たちが正しく評価されていることを感じてもらえたら嬉しいですね。そして、いつかこれが当たり前になる日がくることを願っています。

                キャンディス・パーカー
                Kazushi Toyota

                「adidas Basketball THE 2023 COLLECTION REMEMBER THE WHY」

                2022年12月より、トレフォイルロゴとバッジオブスポーツロゴが共存し新たに生まれ変わった「adidas Basketball」は、バスケットボールを通して、コート上のみならず普段の生活においてもファッションアイテムとして着用できるコレクションとして登場。

                キャンデース選手がコレクションモデルを務める「REMEMBER THE WHY」キャンペーンでは、アディダス アスリートたちを起用し、バスケットボールに対する情熱の原点にフォーカス。エフォートレスなバスケットボールスタイルにヒントを得て、すべてのジェンダーに対応するシルエットを取り揃えています。

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                ※本記事は、配信後にタイトル部分「女性アスリートにも正しい評価を」の記述を「女性アスリートに正しい評価を」に修正いたしました。(5月10日21:00)