多様なセクシュアリティやジェンダーアイデンティティへの理解が日本でも少しずつ進む昨今。「パンセクシャル(全性愛者)」や「アロマンティック(他者と恋愛をしたいという欲求を持たない人)」など、数年前までは馴染みがなかった言葉や価値観も浸透しつつあります。

本記事で紐解いていくのは、 男性や女性などの性別に分類されない「ノンバイナリー」について。どんなことをキッカケにノンバイナリーを自認したのか、それぞれの経験について10人の当事者たちに聞きました。


【INDEX】


ジルさん(29歳)

“○○っぽさ”は定義できない

自分はバイセクシャルで、ジェンダー代名詞としては、ノンバイナリーを意味する“they”を使うことを公表しています。

現在は異性と交際していて、シスジェンダー (自認している性と生まれ持った性が一致している人を指す)として見られがちですが、自分のジェンダーの表現方法は毎日のように変わります。

“女性っぽさ”と“男性っぽさ”の両方を感じることが好きだし、“○○っぽさ”というのは定義できないものだと考えています。

ブリットさん(25歳)

コロナ自粛中に考えるように

ノンバイナリーだと自認したのは、パンデミックによる自粛期間でした。

はじめて自分の性自認について考える時間や余裕を持てた期間だったから。そこで気づいたのは、元からノンバイナリーだったのに、それを言語化する方法がわからなかったということ。

それまでは、“男性の隣にいる存在としての女性”として、男性の視点から見た女性を体現することでしか、女性は存在できないと感じていました。そこで、レズビアンのコミュニティに属しながら、新しい“女性像”を再構築する必要があったんです。

男性との関係性における女性という立ち位置から解放させることで、自分が何者にもなれると感じるようになりました。

nonbinary person writing a diary
Luis Alvarez//Getty Images

ジョデシさん(24歳)

常に変化するもの

ノンバイナリーという概念を知ったのは2年前でした。その概念が持つ意味を知ると、「まさに自分のこと!」だと腑に落ちたんです。それまでは、自分らしさを正当化してくれる言葉を知らなかったから。

そもそも、なんで男性・女性という二つの性別で表すことを求められているんだろう…と考えていたときに、性的指向やアイデンティティは常に変化するもので、今決める必要はないのだと気づきました。

カイルさん(33歳)

恐怖でもあり解放でもあった

とても保守的なキリスト教の家庭で育った私は、大学生になるまでLGBTQ+の当事者に出会ったことがありませんでした。

だからこそ、ノンバイナリーという概念を知った時、“性別”に関する限られた見方や考え方から自由になった気分になりました。周りが自分に対して望むものが何であれ、複雑で柔軟性のある人間である自分が許された気がしたんです

自分がノンバイナリーだと認めることは、最初は恐ろしいことでもありました。周りの人々は自分を愛してくれず、これからの人生は終わったとも感じました。

それと同時に、大きな解放感がありました。一つの視点からではなく様々な視点からものごとを見れるようになったことで、新しい人生が始まったように感じています。

NGLさん(24歳)

教師という職業が考えるキッカケに

大人になる過程で、周りと馴染めなく、自分が友達と違っているということは気づいていました。

私は教師で、性的指向や性自認に悩む生徒たちへの接し方を学ぶトレーニングに参加し、“ノンバイナリー”という概念を知りました。それまで、女性と男性のどちらにも当てはまらないとも、両方に当てはまるとも感じてきましたが、その状態を表す言葉と概念があることは知らなかったんです。

教師をしながら、Ms.(ミス)とMx.(ミックス)の両方を使っています。生徒たちはこの敬称で呼ぶことに対してとても協力的で、自分たちの性的指向への悩みを打ち明けてくれるようになりました。

ロニさん(24歳)

友人を通して知ることができた

ノンバイナリーを自認したのは、友人が“they/them”の代名詞を使い始めたことがキッカケ。友人が自認していくプロセスを中立的な視点で見ることができたことで、これまで自分が考えてきたことが整理され、自分自身においても腑に落ちる感じでした。

smiling multiracial friends with mobile phone at beach
Maskot//Getty Images

クリスさん(41歳)

モヤモヤの表現方法を知らなかった

幼い頃から、自分が“男の子だけではない”ということは気づいていました。女の子だとも感じたわけではありませんでしたが、“自分が女の子だったら”と想像することもありました。

生まれた時には男性に割り当てられ、「クリストファー」と名付けられました。自分の指向について話せるようになったときには、まず周りに「クリス」と呼ぶことを求めました。

自分がノンバイナリーだと気づいたのは、約1年前。その前までは、モヤモヤ感をどう表現していいのかわからなかったんです。今はやっと本当の自分を表現できることに安心感もあり、自分が性的マイノリティとして常に闘わなくてはいけないことに矛盾も感じています。

セルさん(22歳)

表現方法は人それぞれ

10代の頃は、いわゆる“女性”として自分のジェンダーを表現してきましたが、大学に入ってから男性的な部分も取り入れるようになりました。

当時は「もっと男性らしさを出さなきゃ、周りからノンバイナリーだと信じてもらえない」とさえ考えていました。たとえば、ネイルをしたりワンピースを着るのは、自分の考え方や指向に反していると思っていたんです。

しかし自信がつくにつれて、自分の好きなものを着て、自分が思うように表現してもいいのだと気づいたんです。ジェンダー・スペクトラムのどこにいてもいい、どう表現してもいいという考え方を持つことで、解放された気分になりました。

portrait of non binary gender travellers
kyotokushige//Getty Images

エミリーさん(24歳)

着心地の悪いコートを脱いだ感じ

ノンバイナリーだと自認したことで、重く着心地の悪いコートを脱いだ気がしました。それまでは、着心地がいいと思おうとしていたのですが、脱いでみると、そこには肩の荷が下りて軽くなった本当の自分がいました。

「こんなにモヤモヤせず、胸を張ることができるんだ」と感じたのが、一番最初のリアクション。どう自分を定義してよいかわからないという感覚が心地悪かったのではなく、社会のジェンダーや性別に関する意味付けや決まりごとに心地悪さを感じていると気づきました。

ノンバイナリーだと自認することは悲しく混乱を招くことではなく、反対に自分を助けることだったんです。

エマさん(26歳)

性役割を演じることで承認を得れると思っていた

大学時代にノンバイナリーだと公表していた友達に出会ったのがキッカケ。

それまでは、自分がノンバイナリーだと自認するには“昔からなんとなくわかっていた”という感覚があるべきで、見た目も変わるべきだと考えていたんです。

当時は自分のことをよく理解しておらず、性役割や期待に応えることで周りからの承認と称賛を受けることができると思っていました。

ノンバイナリーというアイデンティティが自分をすべて表しているかと聞かれると確信を持てませんが、この世界や人生において永遠や不変のものはないということには確信を持っています。

※この翻訳は抄訳です。

Translation: ARI

COSMOPOLITAN