昨今、より注目を集めるようになったヴィーガンや、ライフスタイルに合わせてお肉や魚を減らすというフレキシタリアン(準菜食主義)という選択。こうした流れにともなって、近年では大豆などを使ったプラントベースミートなども話題を集めていますが、それでもやっぱり「いつものようなお肉やお魚が食べたい!」という人もいるはず。
今回紹介する「培養肉」は、プラントベースミートとは異なり、動物の細胞を研究室の中で増やして栽培されたお肉(代替肉の一種)のこと。英語では“cultured meat”などと呼ばれています。
世界の食肉消費量は2050年までに40〜70%増加することが見込まれているため、環境問題を考えてもより良いソリューションとして考えられるほか、動物を犠牲にせず“従来のようなお肉”が美味しく食べられるということで近年話題になっています。
環境活動家のレオ様も出資
今年9月にはオランダの培養肉スタートアップとして注目されているMosa Meat社に、熱心な環境活動家として知られる俳優のレオナルド・ディカプリオが出資を発表。(ちなみにレオ様は、2017年にプラントベースミート企業のビヨンドミートにも出資!)
同社は2013年には初めて培養肉で作ったハンバーガーを発表し、早い段階から培養肉市場をリードしている会社。レオ様は下記のようにコメントしています。
「気候変動の危機と戦うため、実効性のある改善方法の1つとして、食料システムの変革が挙げられます。 モサ・ミートとアレフ・ファームズは、工業的な畜産手法によって発生する問題を解決しながら、世界中の牛肉需要を満たす新しい方法を提供していきます。現在、より多くの消費者の方々に培養肉について理解を深めてもらう準備をしているので、顧問および投資家として参画できることを非常に嬉しく思います」
実際にはまだMosa Meatのお肉は市場には出回っていないとのことで、早く口にできる日が来ることを願うばかり。
日本でも!インテグリカルチャー社にインタビュー
日本でも研究が進んでいる、培養肉。「培養肉スタートアップ」として注目されているインテグリカルチャー社は、創業メンバーが有志で集まり「精進ミートプロジェクト」を発足させたことが法人化のきっかけになったのだとか。
CEOの羽生 雄毅氏が子どもの頃に『ドラえもん』などのマンガやアニメで見た“無料ハンバーガー製造機(水と空気でクロレラを培養した“人工肉”を作る、というもの)”が培養肉を作るきっかけとなったと言っても過言ではないそう。
現在は、CulNet System(カルネットシステム)という同社が開発した特許技術を使って世界初の「培養フォアグラ」を製造中。今回は、その製造背景や培養肉の未来についてインテグリカルチャー社に伺いました。
培養肉とは?
「培養肉をはじめとする“細胞農業”とは、動物細胞を体外で培養・増殖させることにより、従来の生産方法でつくられる肉や素材などと同等のものをつくり出す新しい生産方法です。
弊社では、CulNet System(カルネットシステム)という特許技術を使って、培養をしています。カルネットシステムとは、動物体内での臓器間相互作用を模した環境を構築した細胞培養プラットフォームのこと。臓器同士が血管で繋がっている体内の環境を再現することで、動物細胞で構成される食品(肉や魚、フォアグラ)や皮革など様々な分野の活用ができるようになります。
また、培養肉の研究・生産過程の中で出る成長因子を、スキンケアや健康食品に有用する試みも行っています。培養肉の細胞を増やす過程で出る培養液は、エイジングケアにも効果的だという結果も出ているんですよ。
家畜はゲップにより温室効果ガスの一つであるメタンを排出するだけでなく、育成過程で土地、飼料、水など大量の環境資源が必要。しかし培養肉は細胞だけ取ればお肉が増やせる仕組みなので、そういった地球環境への不安を減らすことができます。
現在はアヒルの肝細胞を増やして、“培養フォアグラ”を製造中。まだ市場には出ていませんが、最終的には製造過程も3カ月とスピード感を出していきたいなと思っています」
代替肉との違いは?
「培養肉は、代替肉のカテゴリの一つ。代替タンパク質には、①大豆ミートのような植物由来のタンパク質、②昆虫食、③培養肉や培養魚、が挙げられます。
新興国が成長していくなかでお肉の需要が増えると、今の食肉の生産プロセスだと間に合わなくなり、2050年にはタンパク質の安定した供給ができなくなると言われています。ひとつのソリューションとして地球の負担を減らすという点からも、代替肉が注目されているんです」
日本での培養肉の可能性は?
「日本でヴィーガン生活を送っている人の割合は、海外に比べて少数派ですが、文化的に大豆由来の食生活が昔から根付いていることや、アニマルウェルフェアの観点からも受け入れられていくと思います。
まずは培養肉がどういうものなのかを知ってもらい、従来の畜産を否定するのではなく、一緒に市場を盛り上げていけたらと考えています。私たちの培養フォアグラは、来年中に一部のレストランで展開する予定。すでに試食をしたシェフの方々からは、『従来のフォアグラより美味しい』と太鼓判をいただいているんです。
サステナビリティへの関心が高い若い世代の人たちや、お肉好きの人たちに『いつものお肉より美味しい』と思ってもらえるようなものを作りたいです」
今後の目標を教えてください
「将来的には“一家に一台カルネットシステム”というように、家庭で培養肉が作れるようになったらいいですよね。『今日は豚肉が食べたいね』と話しながら、家にある機械に細胞を入れてお肉を作る…そんなドラえもんのような世界もそう遠くはないと思います。
まずは来年中に限定的に展開し、2025年には商業化して一般の方々にも私たちのフォアグラを食べてもらえるようにするのが目標。いつかは、スーパーのお肉売り場に畜産肉、培養肉、植物肉のコーナーができるかもしれません。培養肉をきっかけに、“より選択肢が広がる時代”が来ればいいと考えています」