キャリアと自分の生活とのライフワークバランスに悩み、夢を追うことに躊躇していませんか?
何歳からでも、どんな困難があっても、夢を叶える旅を始めるのは遅くない――。そう教えてくれたのは、メーガン妃が公務で愛用し、現在はキャサリン妃の公務での定番バッグブランドとして知られる「ストラスベリー」創立者のリーアン・ハンドルビーさん(49歳)。
銀行に勤めながら4人の子どもを育て、そして自分の夢を追い求めた、明るくガッツのある彼女のこれまでのストーリーをご紹介します。
ファッションが大好きだった子ども時代
リーアンさんが語ったファッションのインスピレーションは、彼女の故郷である北アイルランドの美しい自然に囲まれた、海辺の町バンゴールでの思い出。
仕立て屋として働いていたリーアンさんの祖母と大叔母は、まだ幼い彼女に素敵なドレスをいつも手作りしてくれていたそう。そして10代になってからは、かっこいいモダンな服も作ってくれたんだとか。
「祖母と大叔母がドレスを縫うときには、最高に素敵な布を選んでくれました。パールをあしらったり、ボタンや襟も特別なものをつけてくれたんです。幼少期は、型紙を切り、パズルのように組み立てていくうちに服になっていく過程を見るのが大好きでした」
目標が持てないまま銀行に就職
ファッション業界で活躍する人たちの華やかで個性的なイメージとは違い、写真を撮られるのも華やかな場も苦手なリーアンさん。ファッションが大好きだったにも関わらず、「ファッション業界で活躍したい」という強い願望はなかったという。
やがて故郷の北アイルランドを旅立ち、スコットランドのストラスクライド大学に進学。卒業後は大手銀行「ロイヤルバンク・オブ・スコットランド」の人事部に就職し、そこで順調にキャリアを築いていくことに。
その頃、北アイルランドでの友人の結婚式で出会ったのが、現在の夫となるガイさん。その後エディンバラのおしゃれな住宅街で4人の子どもに囲まれ、傍から見れば充実した日々を送っているように見えた彼女だけれど、その生活は“満たされている自分らしい生き方”とは違っていたんだとか。
「銀行でのかっちりした服装、オフィスの雰囲気、周りの人の価値観や将来性…どれも今の『ストラスベリー』とは違うものでした」
ブランド設立のきっかけとなった旅
銀行員だったリーアンさんの生き方を変えるきっかけとなったのは、まだ幼かった子どもたちを連れて訪れたスペインの山岳地帯でのホリデーだったそう。もともと洋服やバッグが好きだったリーアンさんと、革製品や手工業の技術に関心がある夫のガイさんは、その土地で触れた革工芸の伝統や技術に魅了されることに。
「子どもたちと一緒に革製品の産地を巡りました。その土地で目にした何世代にもわたって受け継がれる革工芸や技術、クラフトマンシップに魅了されたんです」
ファッションへの愛がその地で再燃し、次第に「自分の理想のバッグを作ってみたい」という思いを抱くように。
そしてもう一つのインスピレーション源になったのは、スコットランドで手に入れたアンティークの楽器のケース。金属の棒で閉じる、昔ながらの留め具を採用したケースを見た彼女は、この留め具を使ったモダンなバッグを作ることを思いついたんだとか。
安定した職を手放すことを決意したけれど…
リーアンさんの新しい挑戦は、最初から全て順調だったわけでも、突然成功が訪れたわけでもありません。やはり安定した仕事を手放すのは、不安でいっぱいだったそう。
「安定が保証された仕事から離れるのは怖かったですね。なので昼間は銀行で働き、夜にブランドの仕事して…と少しずつ移行することにしました。仕事が軌道に乗った時点で、やっとフルタイムでブランドの仕事をする自信がついたんです」
資金繰りや営業など、物作り以外の雑務も多いブランド経営。けれどそれとは別に、周りからの反応に悩まされたこともあったよう。
「ビジネスを始めるにあたって難しいと感じたことの一つは、家族や友人が“成功する可能性があるのか”と疑ってくることでした。でも、やり遂げる力があるかどうかは、自分にしか分からない」
「だから私は周りの言うことを気にしないことにしたんです。頭の中に美しい素敵なバッグを思い描き、『絶対に作り上げるんだ』という意思を持ち続けました」
英王室御用達ブランドに成長した理由
何世代も受け継がれたヨーロッパの革製品の技術を活かしたバッグを、求めやすい価格で…というビジョンはあるものの、モノが溢れる時代にビジネスを成功させるのは容易ではないはず。
そこでリーアンさんが変えたのは、ビジネスモデル。当初スコットランドらしさを前面に出した製品を地元の店舗で売る方式を取っていたけれど、シンプルで現代的、そしてネット上でも映えるデザインの商品を前面に出し、ECサイトとデパートでの販売を中心に切り替えたそう。
今や高額な商品をネットで購入するのはごく普通なことだけれど、当時は画期的で後々コロナ禍を切り抜ける原動力にもなったんだとか。
またいち早くインフルエンサーの影響力に注目し、自分たちが「使って欲しい」と思う著名人、インフルエンサーにも積極的にアプローチ。その中には、ドラマ『SUITS/スーツ』のメインキャストを演じた、女優のメーガン・マークルがいたそう。後にサセックス公爵夫人になった彼女は公務でも繰り返し使用し、同ブランドのバッグを愛用する顧客が世界中に増えていくことに。
最初は自宅の寒い一室で始めたビジネスだけれど、今ではエディンバラ市内に本社を構え、スタッフは20人を超えるブランドに成長。さらにスタッフは7割が30代以下の女性で、国籍もヨーロッパや中国、オーストラリアに南米と国際色が強く、多言語が行き交う活気ある環境なんだとか。また成果重視のため副業を許可しており、ダンサーやDJなど、多分野で活躍する社員もいるそう。
産地や品質にこだわる頑固一徹さがあるかと思えば、社員のちょっとした提案でも「面白い」と思ったらどんどん採用するフレキシブルさも兼ね備えている同ブランド。
「ビジネスに関しては、一番ベストだと思う方法に則れば良いと思います。昨今のビジネスは、フレキシブルで迅速に状況や訪れた機会に順応する必要があると思うんです。失敗に囚われていてはダメ。いつでも舵きりできる準備をしておくべきですよね」
支えてくれる家族の存在
子どもたちについて語るときは、自然と声が弾むリーアンさん。彼女にとっては、「全員揃って、ポップコーン食べながら映画を見るのが一番ハッピーな時間」だという。
プライベートでは4人の子どもを育てる母親だけれど、そんな暮らしの中でのキーパーソンは16歳の長女なんだとか。
「私の子どもたちは一人ひとりの性格が全く違うんです。一番上から下まで8歳の年の差がありますが、長女は下の子たちの面倒を本当によく見てくれる自慢の娘。ブランドを運営するにはかなりの時間が必要ですが、彼女は私が家と仕事を行ったり来たりする生活をサポートしてくれるんです」
多忙な日々と格闘する中で、子どもたちの存在は特別だと語るリーアンさん。
「未だに子どもたちにはいつも驚かされます。人生の見方や状況の受け入れ方、他者に対する思いやり――子どもたちがいると1日が明るくなるんです」
またリーアンさんの両親は、北アイルランドの地元で商店を経営しており、10代の頃は両親のお店でバイトをしてお小遣いを稼いでいたこともあったそう。そんな子どもの頃の経験、そして自身の子どもたちの存在が、ファッション業界を生き抜くパワーの源になっているのかも。
夢を叶えたい読者に伝えたいこと
最後に、叶えたい夢があるけれど一歩踏み出す勇気が出ないという方へ、リーアンさんからメッセージをもらいました。
「ビジネスを始めるのに恐れをなすのは、当然かもしれない。意思と根気、そして勇気がいることです。でも私にとっては、これこそが自分が生きたかった人生なんです。失敗することもあるけど、そこから学んで変えていくこともできる。今の方が以前の自分と比べて、幸せで満たされています」
「自分のブランドを立ち上げるのは、素晴らしい旅のようなものです。素敵な人たちに恵まれて、自分の夢を叶えて生きる…そんな日々を送っているんです」