性的な快楽を得られるだけでなく、パートナーとの関係性を深めることもできるセックス。けれど「もっとこうしてほしい」「これはやめてほしい」など、本当は言いたいことがあるのに、なかなか相手に伝えられずにいる人も多いのでは?

そこで本記事では、性生活に役立つ知識をInstagramで発信している、ラブライフカウンセラー®︎のとぅるもちさんに、自分の要望を相手に伝える方法やセックスを積極的に楽しむためにできることを伺いました。

お話しを伺ったのは…

とぅるもちさん/ラブライフカウンセラー®︎UI/UXデザイナー

 
とぅるもち
若者の性生活力向上を目指す、性文化インフルエンサー。若者が安心して性の話ができる環境を作るべく、TwitterやYoutubeで情報を発信中。潤滑ゼリー(ルブリカント)を広めるべく、#ローションタッチアップ会 を立ち上げる。また、世界のセクシャリティにまつわる情報についても発信している。

ウェブサイトTwitterIntagram


“自分らしい”セックスを知ってもらうために

ーーラブライフカウンセラー®︎として活動しようと思ったきっかけを教えてください。

学生時代にラブグッズやセックストイを社会学の分野で調査・研究していたことが、現在のSNSの発信につながりました。最初は、「海外にこんなグッズあるよ」などの趣味程度の発信をしていたんですが、自然と友達や知り合いからセックスについての相談が多くなり、DMもいただくようになって。

性機能やセクソロジーの分野を勉強していたわけではなかったので、自分の言葉に責任を感じるようになってきたんです。

そこから正しい知識を伝えて多くの人の力になれるよう、20年ほどセックスカウンセリングをしている方の講座を受け、ラブライフカウンセラー®︎になりました。

ーーとぅるもちさんに相談する方々は、実際どのような悩みを抱えていることが多いのでしょうか?

相談者の9割は女性で、私が主にInstagramで発信をしていることから10~20代の方々がほとんどですね。

相談者に多いのは、このような悩みです。

  • セックスレスを解消したい
  • 妊活してるけど二人の間で温度差が出てきて、夫がセックスに応じてくれなくなった
  • 夫は自分とセックスをしたがらないのに、マスターベーションをしていた痕跡があってどうしたらいいかわからない…など

10代であれば、「彼氏のために潮吹きがしたい」「イッてみたい」などもありますね。

年代によって相談内容はさまざまですが、10代の方々は特に“相手の期待に応えなきゃ”と思っているように感じます。セックスに関する教材がないので、アダルトビデオから得た知識や「こういうセックスで相手は喜ぶ」のような情報を鵜呑みにしている人が多く、“自分らしいセックス”について考えられていない印象です。

男性であれば、同じくセックスレスの相談もありますし、男性特有のED(勃起不全)や「マスターベーションはできるけどパートナーとではできない」「膣内射精ができない」などもあります。

ーー相談者の悩みを、どのように解決に導くのでしょうか?

解決方法はかなり人によりますが、初回のカウンセリングではいきなりアドバイスをするというよりも、相談者やそのパートナーについての情報を聞くので、ほとんどの時間を情報収集に使います。

セックスレスの悩みであれば、いつからお付き合い・結婚しているのか、いつからセックスレスになったかなど。また、セックスレスになる前と後で環境の変化があったかなどを聞きます。そのあたりを聞きながら、情報が足りないなと思ったらお互いの家族の情報やどんな幼少期を過ごしてきたのかを聞いたりもしますね。

「子どもが生まれた」「マンションに住んでいて隣の家のことが気になる」、「仕事が忙しくて精神的につらい」など、環境要因も聞いた上でそれぞれにアドバイスをします。環境を変えられるなら変えたり、メンタル面で改善できることがあれば、長期的に自分を見つめ直して「こうしていこう」など、解決方法には多くのパターンがありますね。

 
Maryna Terletska//Getty Images

相手の気持ちも考えて伝えるのが大切

ーー相手に自分の要望を上手に伝えるためには、どうすれば良いのでしょうか?

自分の要望を相手に伝えるには、アサーティブコミュニケーション(相手のことを傷つけず、自分の主張もしっかりできるやり取りのこと)が必要になります。なるべく相手との関係を大切にしながら自分の気持ちを伝えることは、意外と難しいですよね。

なので、いきなり自分の想いを伝えても相手に響かなかったり、相手に受け入れ体制がなかったら失敗に終わってしまいます。そして終いには「自己主張するのがしんどい…」となってしまうので、まずはアサーティブなコミュニケーションの手法を知って、どうすれば自分の気持ちを表現できるか、相手の想いを聞くことができるのかについて学ぶのが大切です。

でも実際のところ、相手の土台がしっかりしていなかったり、聞く耳を持ってくれないと難しい場合もあります。なので、自分の要望を伝えるためにもまずは相手の話を聞いて、「あなたは○○がしたいんだね。じゃあ私も言っていいかな?」という感じで話を進めると、伝えるハードルもかなり低くなると思います。

ーー言いたいことが言えず、最終的に気持ちが爆発してしまう人もいると思います。そうならないために、事前にできることはありますか?

最終的にそうならないようにするためにも、お互いの胸の内を話す時間を作ることが大事だと思います。もちろん、率直に自分の気持ちを伝えるのが一番手っ取り早いですが、相手側も伝えられたことを受け入れられるよう、心理的安全性を作ってあげるのが大切です。

そのため、「最近私に対して違和感とかイラってすることがあったら、遠慮なく言ってね」など、まずは相手も自分に言いやすい状況を作ってみてください。

また、性についてパートナー同士でもオープンに話したいという男性もいますが、“性は隠して楽しむもの”と考えている方も多いかと思います。これは日本人特有なのかもしれませんが、性について二人で話し合って上手くいったというポジティブな体験があれば、前向きに捉えてくれると思います。

女性もマスターベーションをするのは普通

ーー女性がマスターベーションをすることも大切だと思いますか?

現状多くの女性たちが、自分の体のどこが気持ち良いかなどを知らないまま、セックスを進めてしまっている傾向にあります。マスターベーションを通して自分の感じやすいところ・感じにくいところを知れるのであれば、セックスをより主体的に楽しむ一歩に近づくと思います。

「マスターベーションをしてみたい!」というポジティブな想いを持った方であれば、まずはショーツの上から手で触ってみてください。性器自体に恐怖心を持っている人は、一度鏡で自分の性器を見てみるのもいいですよ。

 
Maryna Terletska//Getty Images

ーー女性がマスターベーションをすることに対してのタブー視をなくすためには、どうすればいいと思いますか?

最近はTwitterなどのSNS上で、「私はこのグッズを使っています!」と発信する人が増えたので、ようやくオープンに言っていいんだという空気感になってきたと思います。私も「つやごと女子会」という女子同士で集まって性について話し合おうという集まりを2カ月に一度していて、女性だけで集まって共有していると、「この悩み私だけじゃなかったんだ」というのが毎回たくさん出てくるんです。

周りのみんなが、性についてどう感じているのか分からないことの方が多いですよね。なので、共有できる場所が増えればタブー視はなくなる気がします。

ーーなかには、“女性はマスターベーションをしないもの”と捉えている男性もいるかと思います。

「マスターベーションするの?」と聞かれたときに、「全然します!」と答えて話を淡々とすると、「やっぱり女性もそうだよね」となる人もいれば、その一方で「エロいね」と言ってくる人もいます

なのでマスターベーションをすることを真剣に話すと、「女性も生理現象で自分たちと変わらないんだね」という風に持っていけるので、恥ずかしがらずに話すのが大事だと思います。

パートナーに対しては、「あくまで自分にとってマスターベーションをするのは、普通の行為です」という姿勢を保つことが大切です。「すぐ寝れるから」「自分の体のためにしています」というように伝えれば、理解しやすくなるかもしれません。

また性教育をする段階からでも、“女性にも性欲があって、マスターベーションをするのは普通のこと”と教える必要があると思います。教育の場で女性のマスターベーションについて教わった記憶はないですし、私自身もネットで調べてマスターベーションの存在を知りました。だから男性からすると、「女性にも性欲があるの?」というところから始まると思うので、教育の場が変わってくれればいいなと。

学生ではなく大人であれば、メディア側が情報を知れる導線を作ったり、そういう情報を発信しているコミュニティから学ぶのが、今できることだと思います。

セックスをより楽しむためにできること

ーー主体的にセックスを楽しむために、他にはどんなことができるのでしょうか?

もちろん自分を知ることも大切です。私自身10代や20代前半の頃は、自分のメンタルや体を見つめ直すということを全くせず、がむしゃらにぶつかってばかりいました。

自分がしたいことを掘り下げてそれを相手に伝えるのは、結果的にセックスを主体的に楽しむことにもつながると思うので、自分を知って自己愛を高められたらいいなと思いますね。

ーーセックスでネガティブな体験をしてしまう人もいると思います。セックスに対して前向きになるには、どうすればいいのでしょうか?

一度ネガティブな体験をしてしまった人が再びセックスに対して前向きになるには、周りの協力が必要になると思います。何かで傷ついた経験がある場合は、自分を大切にすることが最も重要です。もし相手が理解してくれないなら、別れを考えた方がいい場合も。

セックスの価値観がズレていると、結果的に他の部分にも価値観の違いが出てきますし、一方でそこの価値観が一致すれば他でも上手くいくことが多い。自分は傷ついているのに、それでも相手は自分のことしか考えていないとか。そういう場合は、二人の関係を終わらせたほうがいいと思いますね。

また、周りの環境を良くすることに徹したり、自分の弱さを考え見つめられるようなワークショップへの参加、カウンセラーと話をするのもいいと思います。自分の中でずっと考えこんでしまうのが一番つらいと思うので、外に吐き出せる場所を作ってみてください。

ーーセックスの後の会話も大切だと思いますか?

セックス後のフィードバックは絶対にあった方がいいですが、セックスに関するネガティブな内容は相手を傷つけやすく、次のセックスが怖くなってしまう場合があります。そのためフィードバックをするなら、次のセックスで改善できるように、ポジティブな伝え方をすることが大切です。

たとえば、2つの体位に挑戦して1つは自分にしっくりこなかったときに「AよりもBの方が断然気持ちよかった」と伝えるようなイメージです。またセックスの後だけでなく、日常生活を送っているなかでもそんな話ができるようになるといいですよね。

high angle view of messy bed at home
Hyeonjeong Hwang / EyeEm//Getty Images

セックスに“正解”はない!

ーー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

セックスだけでなく、パートナーとのすべての関係のなかで「ずっと受け身でいても良いことはない」と感じている人もいると思います。なのでセックスに関してだけでなく、女性が主体的になるのは大事なこと。

でもセックスをするときに、「相手が喜ぶことをしたい」「自分のことよりも相手が喜んでくれるのが幸せ」など、そのような理由で受け身でいることを自分で選択し、二人の中で良い関係性を築けている場合はそのままでいいと思います。

あくまでも私が伝えたい“主体的なセックス”は、自分にとってベストな選択をするという意味です。

「セックスをより楽しみたい!」という想いがあるのであれば、新しい世界が広がってセックスへの考え方も変わっていくと思います。いきなり「セックスに積極的になりましょう」というわけではなくて、まずは情報を取りに行くところから始めると視野が広がると思うので、ぜひトライしてみてほしいです。

そして“セックスには正解がない”ということを忘れないでください。テクニックにこだわらず、パートナーとの間で一緒に関係性を作りあげることを第一に考えましょう。

みんなそれぞれ違うので、周りのカップルとも比べず自分たちらしいセックスを楽しんでください!