海外セレブの結婚や離婚などで度々話題に上がる、婚前契約(プリナップ)。婚前契約とは、結婚前のカップルが財産関係や夫婦間でのルールについて記載する契約書のことで、日本でも少しずつ注目を集めています。

今回は、一般社団法人 プリナップ協会の多田ゆり子行政書士に取材。婚前契約のメリットや結び方、内容の効力などについて聞きました。

そもそも婚前契約とは?

婚前契約とは、名前の通り、婚前に結ぶ契約のこと。主に財産関係や、夫婦生活を送る上でのルールを決めるものになります。

欧米では以前から広く知られていますが、最近は日本でも認知度は上がってきているので、言葉として聞いたことがある方もいるかと思います。

婚前契約のメリットを教えてください

婚前契約を結ぶメリットは主に3つあります。

  • 結婚前に話し合いの機会を持つことで、二人の価値観を共有できる
  • 夫婦としての子どもの計画や、親族との付き合い方について話しておける
  • お互いが結婚前に築いた財産や趣味を守ることができる

話し合いのもと、本質や価値観など「2人は違って当たり前」という前提があれば、結婚後に起こる様々な出来事に対しても乗り越えていけるのではないでしょうか。

婚前契約にはどこまでの効力があるのでしょうか?

プリナップ協会では、婚前契約書を法的効力のある公正証書の形で作成しています。公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公的な書類で、「法律上、完全な証拠力を持つ公的な文書」のこと。

本来、公正証書にするときは法律行為しか載せられません。なので、婚前契約書に書いた内容すべてに効力があるという訳ではなく、主に財産関係の項目に関してのみ効力を持ちます。具体的には離婚したときの財産の分け方と、結婚前に持っている財産を明確化するという部分を、公正証書の本文に記載します。

婚前契約として二人が合意した、「夫婦独自のルール」は法律行為ではないので、いざ裁判になったときにトラブルにならないよう、協会ではそういったものは別紙に分けて作成しているんです。

ただ、別紙に書かれているルールを破り、その後も改善する見込みがなく、離婚原因になった場合のことについては公正証書の本文に書くため、軽んじては良いわけではないですね。

婚前契約を結びたいと思った場合、どのようなプロセスを踏めばいいのでしょうか?

まずはお二人で話し合って、方向性を決めてもらいます。その後、カウンセリングをして婚前契約を作成するか、もしくはお二人で話し合った内容を箇条書きなどでいただいて、私たちの方で法律の文章に起こすような2つのパターンがありますね。

婚前契約を結ぶ上では、お二人で「自分が持つ不安な部分」を重点的に話し合って、本当に必要な項目のみを入れるというのを推奨しています。

たとえば、相手の不貞行為や夫婦のお財布の問題、家事育児、親族関係など。カップルによって悩みは様々ですが、そういった不安を事前に話し合っておくことで、円満な結婚生活にもつながると思います。

結婚後に婚前契約を結ぶことは可能なのでしょうか?

民法で「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる」と定められているため、基本的には公正証書としては作成はできません。(「夫婦関係が破綻した後の契約は取り消しができない」という例外はあります)

入籍後、どうしても契約を結びたい場合には「宣誓認証」という選択肢があります。

「宣誓認証」とは、公正証書のように内容自体に法的な効力はないのですが「契約した内容が真実である」ということに効力が及ぶもの。この場合には、「二人で話し合った内容にお互いが同意している」ということの証明にはなるので、こういった形での入籍後の契約をされるケースもありますね。

年齢や関係性に応じて、契約内容を変更することは可能でしょうか?

財産契約部分以外は内容を変更することが可能です。別紙部分に書いてあるような夫婦間での独自のルールに関しては自由に更新できるので、定期的に見直している方もいらっしゃると思います。

夫婦別姓を希望するカップルや同性カップルが今の段階で契約を結ぶことはできるのでしょうか?

現在の日本社会で結婚ができない同性カップルや事実婚のカップルでも、公正証書で婚前契約を結ぶことは可能です。

過去には、夫婦別姓を希望するカップルで、入籍をする前提で「夫婦別姓の制度ができたときに別々の姓を選ぶ」という契約を項目に入れたケースもあります。

どんな方に婚前契約を結ぶことをおすすめしますか?

婚前契約は、コミュニケーションがないと成り立たないもの。話し合って、結婚前に相手を深く知ることももちろん大事なのですが、結婚後に定期的に見直して更新することで、コミュニケーションをとる機会にもなります

というのも、夫婦になると日常的な会話はあっても、お互いがきちんと向き合うことってだんだんとなくなっていってしまうと思うんです。この婚前契約をきっかけに、相手を思いやる気持ちを再確認したり、二人の対話の機会を設けたりすることが大事だと思うので、そういった意味では全てのカップルにおすすめしたいですね。


多田ゆり子 行政書士

海外セレブの結婚や離婚などで度々話題に上がる、婚前契約(プリナップ)。婚前契約とは、結婚前のカップルが財産関係や夫婦間でのルールについて記載する契約書のこと。今回は、一般社団法人 プリナップ協会の多田ゆり子行政書士に取材。婚前契約のメリットや結び方、内容の効力などについて聞きました。
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2005年に行政書士として離婚等、男女関係を専門に扱う事務所を開業。多くの離婚するカップルを見てきた中で婚前契約の必要性を感じ2014年に婚前契約を専門に扱う一般社団法人プリナップ協会を設立。
婚前契約を通して、夫婦の在り方を考え、二人の結婚生活がより良いものになるよう婚前契約の普及に取り組んでおります。