人生で1番怖かったのは、「ノンバイナリーだとカミングアウトしたこと」と語るシャバニ・デイブさん。カミングアウトとは、自身の性的指向や性自認などを人に伝えること。するもしないもその人の自由ですが、シャバニさんは「してよかった」と今は感じているそう。その体験談をご紹介します。

ノンバイナリーとは

ノンバイナリーの“定義”や経験は、人それぞれ。しかし基本的には「男」と「女」のカテゴリーに当てはまらず、男女の枠組みの間のどこか、もしくはその外のジェンダーの人のことを指します。

「ノンバイナリー」とは?サポートする方法は?プライド月間に知っておきたいこと

「怖い」と感じるのは当たり前

人生で一番怖いと感じた経験は、カミングアウトをしたこと。それは、友達や家族を失うかもしれないと思ったからです。

でももしタイムマシンがあるならば、若い自分に「家族も友達もあなたを同じように愛してくれるし、自分らしく生きている私を誇りに思ってくれるよ」と伝えたい。今では、カミングアウトは人生で1番して良かったことだと思っています。

カミングアウトを「怖い」と思うのだって、当たり前のこと。実際前にも「バイセクシャル(両性愛)」とカミングアウトしたことがありますが、うまくいかず、そのトラウマがありました。

意地でも隠そうと…

中学校ではずっとホモフォビア(同性愛嫌悪)に基づいた“あだ名”がつけられていました。それにもかかわらず実際にカミングアウトしたとき、同級生は驚いていたようです。からかいの言葉に対して、ずっと「ゲイじゃない」と頑なに言い返していたからかもしれません。

正直、自分の同性への興味を意地でも隠そうとしていました。

同級生のリアクションが単純に驚きだけだったら、時間が経てば“普通”に戻れるので良かったのですが、そうもいかず。少しずつ距離を感じるようになって、最終的には疎遠に。孤独になり、とても心が痛みました。

実際、LGBTQ+当事者の若者のメンタルヘルスを調査したデータによると、LGBTQ+の若者は非当事者に比べて、孤独や寂しさを感じているケースは約2倍なのだそう。自分のような経験をしている若者も、少なくないということです。

でも、この経験がLGBTQ+当事者とつながるきっかけに。大学に入ってからはLGBTQ+サークルに所属している友達に出会うなど、自然に自分のセクシュアリティについて考える環境がありました。「バイセクシュアル」など、自分のことを説明できる“言葉”があるということは素晴らしいなと感じる日々。この頃はまだジェンダーについては特に考えていませんでした。

言葉を知って、自分なりの“答え”が

しかしそれも、2019年に歌手のサム・スミスが「ノンバイナリー」であることをカミングアウトして一変します。サムは自分を表す言葉として、英語で「he」でも「she」でもない「they」の代名詞を使うことを発表したのです。

小さいころから自分を表現する言葉として、トムボーイ(お転婆やボーイッシュな女の子)とい言葉はしっくりきていました。女の子として育てられたけれど、趣味や好きなもの、着たいものも“男性的”とされるものばかりだったからです。でも、そもそもトムボーイと呼ぶときの前提の“女の子”に違和感がありました。

「ノンバイナリー」という言葉を大学のサークルで知るまで、 こんな感覚をもっているのは自分だけだろうと思っていました。言葉を知ってすぐに「自分のジェンダーはこれだ! 」とはっきりしたわけではありませんが、少しずつ考えを深めていけるように。

そして、そのうちに「ノンバイナリーであるということは、男や女であることへの期待やはっきりとした境界線にとらわれないで生きるということだ」と自分なりに結論が出たのです。

the pride walk organizes in amsterdam
NurPhoto//Getty Images

良い意味で、変化は何もナシ!

そしてコロナ禍の2020年、ついに私はカミングアウトすることに。最初に友達にカミングアウトしたときは、なぜか謝っているようなトーンになってしまったけれど、周りの反応は最高でした。

少し踏み込んだ質問にとまどいもあったけれど、純粋にもっと知りたいと思ってくれていることが伝わりました。結果、良い意味で何も変化はナシ。愛している人たちを失うなんてことはなかったのです!

ただ一番緊張したのは、両親へのカミングアウト。「ノンバイナリー」という意味だってきっとわからないだろうし、拒絶されるかも…という可能性に心の準備もしていました。実際カミングアウトしてみると、両親は意味も知っていたし、理解してくれましたが、同時にとても心配そうな顔をしていたのです。

トランスジェンダーの人に対する差別的な声が世の中で目立っている今、自分の子どもの身の安全が心配になるのも仕方ありません。また、新しい代名詞に慣れるのも少し大変だったようです。

でも何よりも重要なのは、(たとえ全部を理解していなくても)自分がより自分らしく生きている姿を見て、変わらず愛しつづけ、気にかけてくれているということ。

うれしいことが連鎖するように

happy female showing smart phone to friends while sitting in restaurant
Maskot//Getty Images

カミングアウトを通して得たのは、自信。身長は変わらずですが、気持ちはビッグに! 今はフェミニン(女性的)な自分も、マスキュリン(男性的)な自分も好きです。そして今までできなかったことにも挑戦できるようになりました。

そして、ずっと憧れていたけど、ダンスが下手という理由で躊躇していたドラァグをはじめることに! 今はステージ上では、(イギリスのリシ・スナク首相の名前をもじって)ディシ・スマクとして“下手な政治”とダンスをチャームポイントに活動中。

(毎年7月14日の)国際ノンバイナリーデーなどを通した、“当事者の可視化”はとても大事なこと。 カミングアウトして声をあげることで、自分と同じような経験をしている人に出会うことができます。実際この活動を見て、連絡をくれるノンバイナリーの人も多くて。「自分はひとりじゃないんだと感じることができた」と伝えてくれると、私も一層「自分もひとりじゃないんだ」と感じられるのです。

※この翻訳は、抄訳です。
Translation:佐立武士
COSMOPOLITAN UK