2020年に新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから、アメリカでアジア系の人々に対する中傷や暴行が急増。トランプ前大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んでいたことでも、アメリカ国内での偏見は広がり、特に大都市圏を中心に、立て続けにアジア人を狙った事件が勃発しています。

今回は、ニューヨーク在住の日本人に現地の状況や差別の経験、生活の中で感じることをインタビュー。リアルな声をお届けします。


永瀬まりさん・ハンドモデル

在米歴4年半で現在はニューヨーク在住。ハンドモデルとして日本で150本以上のCMに出演した後、NYのエージェントと契約を結び渡米。アメリカでは、Tiffany & Co.ワールドキャンペーンなどに出演。

直接的な差別を受けたことはありますか?

在米2年目の頃、治安が良くないと言われている地域に住んでいたことがありました。そこではぶつかって来た人が謝らずに笑いながら通り過ぎていったり、買い物中に私の英語をお店のスタッフ同士で笑い、スムーズに商品を売ってくれなかったりすることがありました。

それが差別だったのか、たまたま態度の悪い人が多かっただけなのかは分かりませんが、移住してきたばかりのアジア人が少ない街だったので、当時は自分に自信を失くし他の街に引っ越しました。

“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

今年の1月にはニューヨークの郊外に引っ越したのですが、それはアジア系への嫌がらせや暴行などを恐れて…というのも理由の1つでした。

地下鉄ではフードを被り、髪を隠して電車に乗ったこともありますし、最近はなるべく公共交通機関を使わないようにしています。

自分がアジア人であると隠そうとしたことは、とても惨めで恥ずかしい気持ちになりましたが、それ以上に暴行などを受ける恐怖の方が強かったです。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

アジア系の人々が今受けている被害や、恐怖、肩身の狭さなどが、まだ世間に十分には浸透していないように思います。ニューヨークでリアルタイムに感じている私たちが、もっと意見を発信していく必要があると思っています。

在米の日本人の友人ともよくこの話題について話していて、私の周りではやはりヘイト行為に対する恐怖心を持っている人が多いですね。ニューヨークが変わった、疲れた、生きづらくなったという意見が多いです。

4年前、私がニューヨークに引っ越してきたばかりの頃、まだ英語が全く話せずアメリカの文化もよく理解していなかった私のことを現地の人々は快く受け入れてくれました。そして、私が私らしくいることを許してくれたんです。

もう一度寛大に他者を受け入れるアメリカに戻ってほしい。人から嫌われ疎まれると、自分も人のことを信じられなくなりますが、それでは差別はなくならないので、私はこれからも周りの人を信じて、優しい気持ちでアメリカでの生活を送っていきたいです。

Lina Takeuchiさん・フォトグラファー

東京出身。学生時代をカリフォルニアで過ごしたのち、日本に帰国。代官山スタジオとフリーランスアシスタントを経てカメラマンに。2017年よりニューヨークを拠点に活動中。

直接的な差別を受けたことはありますか?

16歳の時にカリフォルニアに移住してから10年間アメリカにいましたが、直接的な差別をされた経験はありませんでした。

でも学生時代からアメリカにいた経験があるので、無意識のうちにその場に馴染むような態度や歩き方をするように生活していたのは間違いありません。それは自分の身を守るための、当たり前に染み付いたもののような気がします。それが差別をされているという意識を和らげた可能性があるかもしれないと、今振り返って思いました。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

BLMの時もそうでしたが、肌の色ではなく各自が一人の人間として、命として全ての人を受け入れられることができたら、この世の中は平和になるではと日々考えてしまいます。

私の場合、マイノリティとしてアメリカに住むことは簡単ではないと、学生時代に身をもって知っているので、色々なことにフィルターをかけて生活していることにも気がつきましたね。

差別は無知から生じることが多いので、私たちも知らない人に教える必要があるのかもしれません。しかし、アメリカはまだまだ白人社会ということは変わらず、その現実を事件が起こるたびに思い知らされている、そんな感覚に陥ります。

パンデミックの前は、全ての人が同じ問題に向き合い、差別もなくなるのではないかと思った時期もありました。でも今は、人の精神状態はストレスを溜めた時にどのような行動を起すか分からないところが怖いと感じています。

私は相手に興味を持って知ることが差別をなくすのではないかと思い、個人的なプロジェクトとして、周りの人にZoomインタビューをしながら撮影し、そしてその一人一人に私からのラブレターを書く活動を始めました。

もちろん、全く違う意見を持つ人と一対一で向き合って話す場合もあります。でも、相手のことを知ってケアをし始めたとき、ほとんどの人は相手を苦しめようと思うことはないはず。こういった経験を少しでも増やしていくことができたら改善の余地はあるのではないかと信じています。

a protester seen holding a placard "respect not hate" near
Pacific Press//Getty Images

E.S.さん・会社員

在米歴2年で現在はニューヨーク近郊在住、勤務。幼少期をロンドン、シンガポールと計9年間海外で過ごし、日系企業の駐在員として2019年に渡米。

直接的な差別を受けたことはありますか?

昨年5月頃に日本人の友人と公園を散歩していた際、通りすがりの白人男性の集団に「中国へ帰れ」と囁かれたことがあります。

職場のアジア系アメリカ人の同僚には、通勤時にあからさまに電車で避けられたり、「ウイルス」と暴言を吐かれるなどの経験をしたり、スーパーで買い物をしているだけで「近寄るな」と言われたりした人もいました。お互いに「ここは保守的な人が多いから、安全のためにも今は不用意に行かないほうが良い」などの情報共有もしています。

“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

アジア系社員の多い職場であることや、多様なバックグランドを持つ人が集まる地域に住んでいることもあり、特にパンデミック前に直接的、あるいは隠れた差別というのは幸運にも経験したことはありませんでした。

でもアジア人を狙った犯罪が多発しているというニュースを見ると、標的になる恐怖はあります。常に警戒心を持たねばならず、電車に乗ったり、街を歩いたり、という日常が脅かされる状況が不安です。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

アメリカは特に、多様性を認め合うという動きが活発で世界をリードしているという印象を持っていただけに、差別が浮彫りになっている実態はショックです。パンデミックをきっかけに、時代が逆戻りしてしまったように感じますね。

一方、自分が当事者になるという経験がこれまでの人生でなかったので、なぜこのような差別が起きてしまうのか、政治や歴史的問題、教育などにも目を向けながら考えるきっかけになっています。

BLMやアジア人差別など、ホットな話題であるからこそ、当事者でも当事者でなくとも改めてこの問題と向き合う人が増えてほしいです。人種に限らず、容姿やバックグランドなどで人を一方的に判断したり、決めつけるということのない世の中になったらいいなと思います。

今アメリカでは、多様性をテーマにした書籍や絵本のコーナーが設けられている本屋が多いんです。それらを読みながら、差別がなぜ起こるのか、もし差別的な態度をとる人がいたら自分ならどういう対応をするか、将来子どもができたらどう伝えていくか…など考えるようにしています。

Aさん・会社員

在米1年半。中高時代を上海のインターナショナルスクールで過ごしたのち、東京の大学に入学。日本の企業に就職し、昨年1月からニューヨークに赴任。

“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

直接的な差別の経験はありませんが、日本人とわかると「英語が上手だね」と言われることはよくあります。事実、第二言語ではあるので、あまり気にしたことはありません。

ただ、インターナショナルスクールに通っていた頃、あらゆる国の出身者がいるがゆえに、各国のステレオタイプが一種のアイデンティティジョークとなっていた部分もあり、人よりも鈍感な部分はあるかもしれません。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

ニューヨークではヘイトクライムが多発しており、これまで比較的安全と思われていたミッドタウン、かつ白昼であっても被害が出ています。差別自体への嫌悪感や問題意識は無論ありますが、今は“生活の中の危機”として認識せざるを得ない状態です。

事実、一人で夜出歩くことは控えたり、地下鉄やバスなどの密閉空間になり得る公共交通機関を使わないようにしたり、徒歩の際も後方を気にしながら出来るだけ速く歩いたり、アジア人と分かりにくいようにフードをかぶったり…と気を付けられる範囲では注意して行動するようにしています。

しかし、自衛にも限界があり、そもそもアジア人であるというだけで怯えながら自衛しなければならない状況自体が異常なこと。ニューヨークのようなマイノリティへの問題意識が比較的強い都市においてすら、BLMのような巨大なムーブメントは未だ起こっておらず、この事実自体がいかにアジア人差別が無視されてきた問題であるかを示していると考えています。

どの人種に限らず、何らかの人種であるだけで危険を感じなければならないという日常が一刻も早く変わることを願います。

Saoriさん・舞台関係

在米歴11年。2009年に渡米し、現在はニューヨーク在住。舞台関係の仕事で活躍。

“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

これまで直接的な差別はありませんでした。 約10年ほどこの業界で仕事をしている中で、いつも私が唯一のアジア人というのが普通の状況ではあります。

パンデミック後に経験したことと言えば、散歩中、向かい側からマスクを外している人が来たときに、私とすれ違う前に素早くマスクを着けていたというのはありました。アジア人の私の顔(いつもマスクをしています)を見てマスクを着けたのか、ただ単に向かい側から歩いて来る人がいたからなのかは疑問に思いましたね。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

ただ、悲しいです。日本人の友人同士でも、気をつけようとお互いに話しています。友達は催涙スプレーを購入したと言っていました。

私がニューヨークに引っ越してきたばかりの2013年くらいの時の方が、今年と比べると全く安全だったと思いますね。