妊娠を知ったとき、周囲にどのタイミングで公表するべきか悩む人は多いはず。日本では「安定期」と表現されますが、イギリスでも妊娠の公表は12週以降にするべきとする「暗黙の12週ルール」があります。

ところが、イギリスで教師やライターとして活動するベッキー・クレントハウスさんは、あえてこの「12週ルール」を破ったと言います。本記事では、彼女をはじめ妊娠12週以前に周囲への公表をした女性たちの体験談を<コスモポリタン イギリス版>よりお届けします。

語り:ベッキー・クレントハウスさん

妊娠初期であることを隠す大変さ

それは、1月のことでした。大雪によって、私の住む町は巨大なウェディングケーキみたいになっていました。道路は厚い氷に覆われていたので、私は庭の壁につかまって、ゆっくり歩いて仕事に出かけました。足が滑るたびに、恐怖で息をのみました。

友人のジョーは、私に合わせて我慢づよくゆっくりと歩いてくれました。私が妊娠6週目で、転倒を怖れているのを知っていたからです。“初期”の秘密を打ち明けた人は、みんな思いやりを持って接してくれます。

たとえば公共の場で席を譲ってくれる、重い荷物を持ってくれる、公の場で嘔吐しないようにサポートしてくれる…など。青白い顔で震えながら職員トイレから出てきても、体調不良について詳しく聞かれずに帰宅させてもらえることもあります。

妊娠12週までは無症状による流産リスクが高く、私も妊娠初期の流産を経験した一人でした。そういった経緯から、流産のリスクが低くなる“安定期”に入るまで、多くの人が妊娠を隠すのです。

個人的には、ノンアルコールのカクテルを頼んだり、ぶかぶかの服を着たりして、できるだけ妊娠を悟られないようにするのは大変なこと。「妊娠を隠す」「飲まない言い訳」でいかに多くの人が検索しているかを知れば、その大変さは想像に難くないはずです。

妊娠初期の流産を経験し…

イギリスでは、妊娠初期に4人に1人が流産を経験すると言われています。周囲に公表をしていない場合には、妊娠について聞かれない代わりに、悲劇が起きた際にその悲しみに静かに耐えなければなりません。

私の流産経験が他の多くの人と違ったのは、妊娠を隠していなかったことです。私も多くの女性と同様に最初は“慣例”に従って、妊娠は夫と私だけの秘密にしていました。ところが悪阻(つわり)によって同僚の車で嘔吐してしまったことから、説明せざるを得なくなったのです。

結果的に、周囲に伝えて良かったです。みんな喜んでくれたし、私もホッとしました。私に体力がないことを理解してくれて、業務内容を変更してくれたこともありました。私が流産を経験したのは、その1週間ほど後のことでした。

私はすでに周囲が妊娠を知っている状態で流産を経験することになってしまいましたが、私の辛い時期を支えてくれたのもその人たちでした。もしも私が、自分の身体を空っぽのように感じている状態で、それを知らない人たちの会話に合わせて笑ったりしなくちゃいけなかったら――私はどれほど世界を憎んだだろうと思います。

a woman touching her friend shoulder to comforting and giving encouragement in bedroom
Farknot_Architect//Getty Images

語らないことが流産の辛さを倍増させている

流産について語られることが少ないという現実は、流産を経験する人々の苦しみを倍増させています。

必要なサポートが受けられないだけでなく、決定的なのは、実際に起こったときのショックがより一層大きいことです。私が話した多くの女性は、実際に経験するまで流産がどれだけ“よく起こること”かを知らず、その悲しみに独りで耐えていたと語っています。

そのうちの一人であるアニカは、妊娠9週目に羊膜嚢ができても胎児が育たない、枯死卵だと医師に告げられました。妊娠は終わりましたが、体はそのことを認識しておらず、手術が必要になりました。これらの経緯を人に話していなかった彼女は、何カ月にもわたって静かに罪悪感と悲嘆に苦しみました。まるで拷問のようだったと振り返っています。

そうしてアニカは、1人の友人に打ち明けました。さらにもう1人。事態は少しずつ改善していきました。

「他の女性の流産について聞くことで、とても気が楽になりました。そういう会話によって、自分の経験が少しずつ“普通”に近づいていきました。それ以前はすごく罪悪感があって、自分は異常なケースのような気がしていたんです」

彼女が言っていることはよくわかります。私は、あの忌々しいトイレの個室からよろめきながら出て、3日間ベッドで出血し、泣いて過ごした後、嫌々ながら仕事に復帰しました。でも、少なくとも周囲に愛想笑いを振りまく必要もなかったし、欠勤した間に増やしてしまった仕事についても罪悪感を感じることはありませんでした。

むしろ、多くの女性が(数人の男性も)そっとそばに来て、自分自身の辛い妊娠の話をしてくれました。私の肩をギュッと抱き、支える姿勢を見せてくれたのです。私たちの中にはたくさんの経験者がいたのに、私はそのことを知りませんでした。

選択肢があるという重要性

その後また妊娠したときは、すぐにみんなに伝えました。流産は恐ろしい経験でしたが、私にとっては妊娠していないかのようにふるまうことはもっと嫌でした。

今回は、喜んでくれる人もいましたが、複雑な表情の人もいました。前回の流産の経験を思い浮かべているのは明らかで、また同じことが起こるのではないかと怖れているようでした。「まだ誰にも言わなくていい時期なのは知ってるよね?」と、年上の同僚にくぎを刺されました。彼女は、私が“余計なこと”を言って“不運”を招くことを心配してくれたのです。

でもその後、こうも考えました。私は軽率に、自分の“未確定”な計画に他人を巻き込んでしまった? と。初期の妊娠を隠す理由の一つには、周囲の人が流産を知ったときに傷つくことを防ぐという意味もあるのかもしれません。

メラニーは最初の妊娠の際、家族にこのビッグニュースを伝えましたが、残念ながら流産してしまいました。

「6~7週目で母と姉に伝えたのですが、その数日後に流産してしまいました。だから、次は伝えませんでした。母を動揺させたくなくて…流産のことを話すのは大変でしたから」

再び妊娠し、メラニーとパートナーは第一子を授かりましたが、その後数年はひそかに流産を繰り返しました。「12週目よりも前に伝えることはありませんでした。なぜだかわからないけど…今なら別の方法をとるかも」と彼女は言います。

周囲のため。恥ずかしい。“運試し”をしたくない。12週目まで妊娠を秘密にする理由はたくさんあります。時には「そうしなくちゃいけないから」という慣習に縛られて、隠し続ける人もいるでしょう。

妊娠というものは、それだけで、氷の上を歩くようなものです。私の場合は、恐怖でソロソロと歩く私のそばに友人がいるということは心強く、とても有難いものでした。一方でメラニーは、周囲の悲しみまで背負うことなく、自分の気持ちにだけ対処すれべ良いことに救われました。

すべての女性が自分の意思で選択ができることが重要なのです。そのために必要なのは、多くの人が妊娠や流産について考え、話題にだしていくことだと考えています。

※この翻訳は、抄訳です。
Translation:mayuko akimoto
COSMOPOLITAN UK