このコラムでは、毎回日本や世界で話題となっているニュースからテーマを1つ選び、海外在住の著者視点で考えていくコラムです。身近なニュースからちょっと分かりづらい海外ニュースまで知っておきたい記事を解説していきます。

Q:「同性婚」が話題になるけど、合法化でなにが変わるの?

ここ数年、「LGBT(エル・ジー・ビー・ティー:レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)」や「同性婚」といった言葉を耳にする機会が増えたと思います。

世界各国での「同性婚」の合法化や既婚カップルと同じ権利が認められる「パートナーシップ法」の施行が報道されていると共に、日本でも東京都渋谷区と世田谷区で2015年11月5日から同性カップルに「パートナーシップ証明書」の交付が開始され、大きな話題となっていますね。

「同性婚(同性結婚)」とは、文字通り同性同士が結婚し男女間の結婚とまったく同じ権利、保障、社会的承認を取得し互いが配偶者となることを指します。

では具体的に同性婚が合法化されると同性カップルにとって具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?

注:この記事では男女間の婚姻関係を「夫婦」、同性同士の婚姻関係を「同性婚カップル」、婚姻関係がない同性カップルを文脈に応じて「同性カップル」「同性パートナー」と記述します。

1.夫婦なら「当たり前」の制度や権利が受けられるようになる

結婚し夫婦となった2人には権利国や地方自治体による税・福祉・年金関係の制度、労災の遺族(補償)給付、遺産の相続権など、じつに様々な法的および制度上の権利が与えられています。

たとえば配偶者の1人が「主夫/主婦」として家庭を守り、収入がない(または少ない)場合、「夫婦」の場合、主夫/主婦は「被扶養配偶者」として保険料を払うことなく医療を受けることが可能です。

また主夫/主婦が年金を支払っていなくても、「第3号被保険者」として年金を受けることができます。

このほかにも

  • 税金の配偶者控除
  • 配偶者がケガや病気になった時に支給される労災
  • 配偶者が死亡したときに発生する遺産

など、夫婦であれば当然適応される制度や権利がありますが、現在同性カップルには保証がされていません。

公的な制度・権利だけでなく、最近では携帯電話の「家族割」(一部キャリアは同性カップルにも適用開始)、夫や妻が会社で入っている保険に「家族」として加入する、旅行やイベントのチケットの家族プランなど、民間のサービスでも「夫婦」だからこその利点はたくさんあります。

こういったことが基本的にすべて、同性婚の実現により同性カップルにも「当たり前」に適応されるようになるのです。

2.同性カップルが「家族」として生きていく環境が整う

同性カップルが同居しようと不動産会社を訪れた際、大家さんに嫌がられ契約できないケースはよく聞く事例です。また、同性パートナーが病院に緊急搬送された場合、駆けつけても「家族ではない」という理由で面会を断られることもあります。

同性同士の独身者2人が「交際」しているという関係を進展させ、生涯のパートナー、つまり「家族」として生活しているカップルにとって、偏見と戦うこと、そして「家族」という枠組みとして認知されないことは、生活していく上で大きな障害であるはずです。

たとえば配偶者が会社の転勤で海外赴任になったとします。夫婦であれば、赴任に同行することが可能ですが、現在の法律や日本の慣習では、会社が同性パートナーの赴任同行(赴任先に同行し、一緒に生活する)をサポートする(ビザ手続き、滞在費の支給など)ケースは稀でしょう。

その逆もしかり。海外から日本赴任が決まった同性愛者が、同性パートナーを同行して日本に駐在することは大変困難です。また、同性愛者の日本人が外国人の同性パートナーと共に日本で暮らしたいと願っても、現在の日本の法律では婚姻関係でない同性パートナーに配偶者ビザは発行されません。

これは一部の人にだけ関わる例ではありますが、「共に生活する」という選択肢さえも阻まれてしまうことがあるのが現状です。

「LGBT」「同性婚」という言葉そのものが新しい日本では、同性カップルが心地よく暮らせる環境が整うまでに時間が必要です。しかし同性婚やパートナーシップ法の実現により事例・慣例が増えることで必ず状況は変化していくことでしょう。

理解が進むイギリス「同性婚」の実情は?

海外での「同性カップル」「同性婚」を取り巻く環境は様々です。同性婚が合法な国であっても、そうなるに至った流れは各国で異なりますが、「同性カップル」の存在そのものがまったく特別なものではない国は数多くあります。

例えば私が暮らすイギリスでは2004年の「シビル・パートナーショップ法(パートナー登録をした同性カップルに、結婚と同権利を保証する法律)」、2014年の同性婚法の施行以前も、同性カップルが共同名義の銀行口座を持ったり、共同で住宅ローンを組んだり、同じ保険に入ったりすることは可能でした。

男女間のカップルでも結婚せず、「パートナー」として暮らし、子供を生み育てるケースも多い国ですが、同性カップルも「パートナー」の1カテゴリーという位置づけで、つまりとても一般的な存在です。

各法律の後ろ盾がなかったときには、同性カップルには保証されない制度や権利も存在していましたが、「シビル・パートナーショップ法」の施行により、「パートナーである」と登録した同性カップルには、年金、相続、保険・保障の面、また外国人パートナーに対するビザや居住権などに、「夫婦」と同じ権利が保証されました。

その10年後、同性婚も合法化されましたが、同性婚カップルの方がパートナー登録をしているカップルに比べ、相続税の軽減があることを除き権利上の大きな違いはありません。

一見スムーズに見えるイギリスにおける同性婚ですが、1967年まで同性愛が犯罪だった国がここまでの権利を得るまでには長い戦いの歴史があり、現在でも問題がないわけではありません。職場では同性愛者であることをカミングアウトしないことを選択している人も多く、差別や偏見が皆無ではないことを物語っています。またイギリスの国教である英国国教会は同性婚に反対の立場をとっており、まだ議論が続いています。この宗教上の問題については、別の回でお伝えしたいと思います。

日本の「パートナーシップ証明書」が突破口になるのか?

現在、渋谷区および世田谷区で発行している「パートナーシップ証明書」には、まだ法的効力はありませんが、同性婚の合法化へ向けた大きな一歩だったと言えるでしょう。同性カップルに夫婦と同じサービス提供している民間企業も出ており、少しずつ流れが変わっていることを実感します。

今後パートナーシップ証明書を発行している自治体への同性カップルの転居が増える、他の自治体も証明書の発行を開始するなど、目に見える動きが表面化することで、さらに次の動きへの突破口になるかもしれません。