女性誌を初めとする、メディアや広告などで幅広く活動しているスタイリストの小泉茜さん。2021年ごろから、コラム連載や自身のInstagramなどで、ボディイメージやフェミニズムについて発信をしています。

今回は、小泉さん自身が葛藤してきた「ルッキズム」について、エッセイを寄稿して頂きました。私たちの周りに呪文のようにまとわりつくルッキズムについて、スタイリストという立場から、リアルな声で語って頂きます。

文:小泉茜さん

「本来の姿ではいけない」という無意識のインプット

最近、ルッキズムやボディポジティブについてのコンテンツを目にする機会が多くなり、時代が変わりつつあるんだなあと嬉しく思う。以前にも別の媒体で、ルッキズムについてコラムを書かせてもらったことがある。「すべてのものには美しい面があって、その美しさを見出せる人こそが美しい」といった内容だった。

もちろん、今でも心の底からそう思う。美しさの定義が広い人は本当に美しい。そう思う反面、わたしは、スタイルが良く見えるようにスタイリングを組んだり、世の中にとって「かわいい」「綺麗」と思われるためのビジュアル作りをすることもある。自分の価値観と仕事内容に矛盾を感じ、後ろめたい気持ちになることが多くなった。

ファッションやビューティ撮影の多くは、痩せているモデルが起用されている。というか、この世に存在する撮影のほとんどが、と言ってもいいかもしれない。撮影後は修正で肌を滑らかにし、シミしわホクロを消す。必要があれば修正で身体のラインを削ったりしている。それらを日常的に目にしていたら、自分と比べるようになってもおかしくはない。

それに、自ら美容の情報を取りに行かなくても、電車やYouTubeには整形や脱毛の広告で溢れている。わたしたちは毎日のように「そのままの自分じゃダメ」というメッセージを見聞きしながら生活しているのだ。ファッションやビューティなどのメディアで、見る人の心身への影響までを気にかけている作り手はどれくらいいるんだろう…。

わたしたちは、すべてのものに美しさがあると知って生まれてきたのに、目にしてきたもののせいで「こうじゃないと美しくない」と思うようになったのではないか…。そんなことを考え始めてから、自分の仕事内容の影響力を気にするようになった。

funky and empower women illustrations
Ada daSilva//Getty Images

もう傷つかないために…わたしの作る「リアルな世界」

わたしは最近、セクシャルウェルネスのブランドを立ち上げた。そのビジュアル撮影で、女性の身体のパーツを撮るカットがあり、モデル選考にとても悩んだ。

普段メディアで見慣れているような痩せているモデルを起用することは、従来の「痩せている=美しい」のイメージを無意識下で助長してしまうんじゃないかと思ったのだ。ただ、ボディポジティブをテーマにしていない撮影で、リアルサイズモデルを起用するのはどう受け取られるんだろう…?

だけど、小学生の頃に、友達より脚が太いことを母親に相談したこと。アシスタント時代に、太っていることがコンプレックスで自虐キャラになったこと。飲み屋で知り合った人に、女性は若くて痩せていて綺麗にしてないといけないような差別的な発言に傷付いたこと。

あの時の自分を救ってあげたい。あの時、ルッキズムのせいで傷付いた自分に「こんな世界もあるんだよ」と胸を張って教えてあげたい。

「見られるに値する女性の身体とは、このように痩せているべきですよ」というメッセージは既にこの世の中には有り余りすぎている。わたしたちは「ボディポジティブ」や「プラスサイズモデル」というタイトルが付かない情報でも、日常的にリアルサイズで修正されていない女性の身体をもっともっと見る必要がある。

 
Akane Koizumi

メディアや広告で、色々な体型、色々な年齢、色々な肌の色を見るようになれば、きっとわたしたちの感覚は少しずつ変わってくるはずだ。そして、わたしたちの感覚が変わり、求めるものが変われば、メディアや広告は更に変わるだろう。つまりは選挙と同じなのだ。選挙で理想的な公約を掲げる候補者に希望を託すような想いで、リアルサイズモデルを起用したブランドのビジュアルはとても気に入っている。

内面を“見えない”ままにしないために

「外見なんて関係ない! 」とは決して思わないけれど、外見はただの情報のひとつでしかない。ルッキズムに縛られていると、目で見える情報にばかり気を取られて、目には見えない大切な情報を取りこぼしてしまう。外見や肩書きなどの他人からわかりやすいものは、その人の本質ではないと思っている。

実際にわたしは、その人の内面の本質的な部分や、大切にしている部分が視覚化できるようなスタイリングを心がけている。なので、表面ではなく、その人の内面をよく観察する。その人の内面に無いものは着こなせないと思うし、表面にばかりフォーカスされやすいメディア業界で、少しでも内面を映し出すお手伝いがしたいのだ。

外見には表れないけれど、今までの人生で経験してきたたくさんのことや、そこで感じてきた感情にこそ魅力が詰まっている。みんながそう信じている世界で生きたい。悩んだり葛藤したり、自分を無力だと感じたりするけれど、自分が見たい世界は自分でつくると決めた。出来ることから少しずつやっていこうと思う。

小泉茜さん

 
Akane Koizumi
2011年にファッションスタイリストとして独立。
2020年に結婚での改姓を機に社会での性役割やメディアによる影響に向き合うようになる。ルッキズム、フェミニズムについてコラム執筆を始める。
2023年にセクシャルウェルネスに基づいたmodern adult brand 「THE NEW CHAPTER」を立ち上げる。