日常のなかで生理に関する話題に触れることが多くなった昨今。「全ての人の生理に対するニーズが満たされる」ことを目標としている「#みんなの生理」は、そういったきっかけを作った団体のひとつでもあります。

当時大学生だった谷口歩実さんらが2020年2月に立ち上げた「#みんなの生理」では、生理用品の軽減税率適用や、学校・公共施設への生理用品の設置に関する活動や、アンケート調査、オンラインカフェなど“生理フレンドリーな社会”の実現に向けて活動中。

今回は谷口さんに、団体立ち上げまでのストーリーから、活動のなかでの気付き、そして今の日本社会が抱える生理の課題について聞きました。

谷口さんが生理や性教育に興味を持ったきっかけを教えてください。

もともとテイラー・スウィフトなどの海外セレブが好きで、彼女たちの発信から影響を受けたのもあり、大学でジェンダー学を専攻していました。

それから大学4年生になり、「生理」についての卒論を書くことに。その過程で友人たちにインタビューをすると、「生理の経済的負担」に関する声が多く上がっていたんです。ちょうど軽減税率のシステムが導入されたタイミングだったので、2019年12月に「生理用品を軽減税率に!」という署名活動を始めることにしました。

ジェンダーを学んでいたので、社会の不平等な仕組みになんとなく興味はあったものの、 自分がアクティビストとして活動するとは思ってはいませんでしたね。

大学時代の友人たちでスタートしたそうですが、どのようにメンバーが増えていったのでしょうか?

最初は、仲の良い友人2人と大学の学食での会話から始まり、2020年2月に「#みんなの生理」を3人で立ち上げました。そのあとはメディアやSNSなどで知ってくれた10~20代の方々が、DMで連絡してくれてメンバーが増えていきました。

設立当初、3人の会話のなかで共通していたのが、「生理が“女性らしさ”や“生殖”と結びつけられていることにモヤモヤする」という点。現在もそうですが、「“女性としての役割を強化するための生理”になっているよね」、「不妊対策のためだったら生理に関する補助をしてもいいというのは違和感がある」と私たち全員が感じていたんです。そこが出発点になったので、ジェンダーの視点で“必ずしも女性性と生理を結びつけなくても良いのではないか”という疑問から団体を立ち上げました。

生理に関する話題を目にすることが多くなった昨今。「全ての人の生理に対するニーズが満たされる」ことを目標としている「みんなの生理」は、そういったきっかけを作った団体のひとつでもあります。今回は谷口歩実さんに、団体立ち上げまでのストーリーから、活動のなかでの気付き、今の日本社会が抱える生理の課題について聞きました。
Ayumi Taniguchi
▲創設メンバー

ジェンダー的な視点から実際に活動に移すまではどんな道のりでしたか?

「生理用品を軽減税率に!」という署名活動自体は、卒論を書いている合間に「やっぱりおかしいよね」という気持ちがこみあげてきて始めました。国際基督教大学の先輩で、一般社団法人「Voice Up Japan」を立ち上げた山本和奈さんが署名活動をしていたこともあって、署名自体は身近な存在だったのもあるかもしれません。

声の上げ方は色々あると思いますが、オンラインでの署名活動は気軽に立ち上げられるし形にもしやすい。でも、その集まった署名をどのように意思決定者に持って行き、どうやって一般市民として声を届けるかという部分では進め方がわからず、苦労しました。

署名やそこに書かれた言葉、アンケートで集めた声をベースに活動していても、政治家の方は“数字”がないとなかなか動いてくれないというのを実感した出来事でもありましたね。

そういったこともあり、今年3月に「日本国内の高校、短期大学、四年制大学、大学院、専門・専修学校などに在籍している方で、過去1年間で生理を経験した方」を対象にしたオンライン調査を実施。「5人に1人の若者が金銭的理由で生理用品を買うのに苦労した」という生理の貧困に関するデータを発表することにしました。

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小さなコミュニティから、公の場にメッセージを発信して変化はありましたか?

3月に「生理の貧困」の現状を発表したときには、周囲の冷たさを感じたり、批判的な意見もたくさんありました。でもここ数カ月でさえ変化を感じていますが、そのときから比べれば、生理の話がメディアで取り上げられたり、性教育の重要性についての議論が増えたりしたとも思います。

私たちとしても嬉しかったのが、更年期を理由に解雇を言い渡された方が労働組合を通じて団体交渉をしていて、労働組合の方に「あなたたちの活動のお陰でこういう声が上がるようになった」と言ってもらえたこと。そのようなきっかけを作ったことで、社会全体が少しでも話しやすい雰囲気になってきているのかなと実感しましたね。

団体を立ち上げてから、印象的なエピソードはありますか?

私たちの活動のコアにあるのが、生理について話すオンラインカフェの場。そのなかでいろんな方から、「今まで誰にも話したことなかった」、「話せて良かった」と言っていただけるときは、やっていて良かったなと思います。

たとえば、PMDD(月経前不快気分障害)やPMS(月経前症候群)の話。症状や対処法の情報はネットに載っているけれど、それを個人の経験で共感し合うことができているのを見ると嬉しいですね。

あとは生理のない身体を持つ人々にとっても、今まで聞けなかったことや話しにくかったことなど、対話のきっかけを作れたのも印象的でした。

谷口さん自身がオンラインカフェの場から学んだことはありますか?

毎回学びはありますね。私自身は「生理のある人=女性」だと結びつけないスタンスではあるのですが、オンラインカフェの場で参加者の間で話が進んでいるときに、ある方から「『女性・男性』というのは排他的な言葉だと思うので、『生理のある人・ない人』という言い方をしてくれると嬉しいです」という声が自発的に上がったことがありました。そういうところを意識しながら活動する意義はすごくあるなと感じています。

あとは、「生理をオープンにする」のはわかりやすいしキャッチーだけど、話すことが必ずしも良いわけではなく、話したい人も話したくない人もいる。あくまでも選択肢があることが大事だという意見は、自分の活動のベースになっています。

生理に関する話題を目にすることが多くなった昨今。「全ての人の生理に対するニーズが満たされる」ことを目標としている「みんなの生理」は、そういったきっかけを作った団体のひとつでもあります。今回は谷口歩実さんに、団体立ち上げまでのストーリーから、活動のなかでの気付き、今の日本社会が抱える生理の課題について聞きました。
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これまでの活動のなかで大変だったのはどんなことでしょう?

活動自体に関しては本当にいろんな人が支えてくれるので、大変さを感じることはないんです。でもメディアに予想外な切り取られ方や本意じゃないような編集をされてしまったときは、「そうじゃないんだけどな」とつらくなることもありました。

一番多かったのは、「生理の貧困=かわいそうな女の子」のようなフレーミング。もちろん断りましたが、「『生理の貧困』の当事者を紹介してください」という依頼もたくさんありました。

私たちは必需品として生理用品へのアクセスを求めているので、全ての人がもらえるものであってほしいのに、同情を誘うように感じる表現が多くあって。それが結果的にアクセスできる人を限定してしまっていて、生理用品を手に取ることに対する間違った認識が増強されてしまったとも感じています。

政治に関わる方とやりとりするなかで、今の日本が抱える生理の課題を感じたことはありますか?

政治家の方々はシニア男性が多く、これまで生理について考えたり、そもそも生理用品を全く見たことがなかったりする人もたくさんいました。「学校に生理用品を置いてください」と話すと、「そんなものを置いたら男子生徒がびっくりしちゃう」とか「あれこれ考えちゃうじゃない」など“いやらしいもの”だと勝手に変換されてしまうんです。

どこからどう説明すればいいのか…性教育の不足や意思決定者のダイバーシティの欠如など、なかなか難しいなと考えた記憶がありますね。 正直、本当に難しいと感じた場合には諦めることもあります。今は一喜一憂しすぎずに、地道に可能性のある場にエネルギーを注ごうと切り替えるようになりましたね。

でもこうして活動を続けていると、色んな自治体を紹介してくださる政治家の方々や、アテンドしてくれる議員さんもいます。私自身はフットワークが重いのですが、本当に周りの人の力で動いていけてるなと感じます。

活動が広がるなかで軸にしているのはどんなことでしょうか?

軸としては、ジェンダーの多様性を大事にしたいということ。男女二元論的な企画や華やかな女性活躍を推進するようなプロジェクト、あとは企業との取り組みはしない方針で活動しています。

本当に課題を解決したいと思ったときに、やっぱり企業は利益がないとやらないはず。特に私たちはすごい弱い立場にあるので、「企業のPR戦略で終わってしまうのではないか」と危機感が強くあるんです。結果的に企業に利益がいくかもしれないけれど、まずは「税金を使って課題解決してほしい」というのが私たちの求めるものです。

生理に関する話題を目にすることが多くなった昨今。「全ての人の生理に対するニーズが満たされる」ことを目標としている「みんなの生理」は、そういったきっかけを作った団体のひとつでもあります。今回は谷口歩実さんに、団体立ち上げまでのストーリーから、活動のなかでの気付き、今の日本社会が抱える生理の課題について聞きました。
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団体の目指す「生理フレンドリーな社会」とはどんな社会でしょうか?

問題として「生理」が取り上げられるようになり、引き続き議論が起こることはいい思います。でも、それと同時に社会のあらゆる局面において、「生理」の視点が入ってくればいいのにとも感じるんです。

たとえば学校や職場で、「生理」のどういうところが不便なのか。貧困対策や環境問題などの課題に「生理」の視点を取り入れたときに、どう変われば生理がある人にとってもっと生きやすい社会になるのか。その視点で社会を見ていけば、生理を経験する人だけでなく、あらゆる人にとって生きやすい社会になるのではないでしょうか。

そういった社会を目指すためには、対話の必要性を感じています。対話の場がないからこそ生理について知識がなかったり、生理がない人がどう思ってるのかもわからなかったり。生理に関わらず、お互いにフラットな立場で対話ができれる場があればいいですよね。

谷口さん個人の目標と団体としての目標を教えてください。

個人としては、「どういう社会にしたい」とか「どういうことを求めてる」とか、もう少し言語化できるようにしたい。なので、もっと勉強したいなという想いがあります。

団体としては、もっといろんな人の生理の経験が私たちの活動に取り込まれるようにしたいですね。今は若い世代のエピソードが中心となって議論が進んでいてる部分もあるので、もっと多様なニーズを持った生理を経験する人の声が取り込まれる活動がしたいなと思います。