米ニューヨーク州バッファローに暮らすダイアナ・ドンナルンマさん(28歳)は、今年8月、大勢の人に祝福されながら、婚約者のコンラン・クレアさんと結婚式を挙げました。

ただ、この結婚式には、一般的な式とは少し違う点がありました。それは、バージンロードで花嫁をエスコートする“父親”が二人いたこと。一人は、ダイアナさんの実父であるグレンさん。そしてもう一人は、4年前ダイアナさんに臓器提供をしてくれた、今は亡きドナーの女性の父親ダニエル・ドネリー・Jr.さん

ダイアナさんとダニエルさんが、どのようにしてバージンロードを共に歩くことになったのか――その経緯を、<Daily Mail>や<The Buffalo News>が報じています。

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交通事故でこの世を去った女性が繋いだ命と絆

子どもの頃から腸管不全を患っていたダイアナさんは長年、経管栄養(チューブやカテーテルなどを使い、胃や腸に必要な栄養を注入する方法)に頼りながら生きてきたそう。2016年には胃不全麻痺と診断され、3度の手術を受けましたが、いずれも症状の改善には繋がりませんでした。

そんな彼女に転機が訪れたのは、2017年10月のこと。事前にレシピエント(移植希望者)登録をしていた彼女のもとに、病院から「ドナー(臓器提供者)が現れた」という連絡が入ったのです。

そのドナーこそが、ダニエルさんの娘であり、突然の交通事故でこの世を去ったヘザー・レニー・ドネリーさん(享年26歳)でした。ヘザーさんは生前、自らの意思でドナー登録を行っており、父親のダニエルさんがそのことを知ったのは、事故が起きた当日、病院に駆けつけた時だったそう。

そして彼女が遺した意思は、最終的にダイアナさんを含む、8名もの命を救うこととなりました。

ヘザーさんから大腸と小腸の提供を受け、移植手術が成功して1年が経った頃、ダイアナさんは「どうしてもドナーのご家族に感謝を伝えたい」と、移植センターに手紙を託します。ダニエルさんには手紙の授受を拒否する権利がありましたが、彼はそれを受け取ることに決め、ここから二人の交流が始まりました。

ドナー家族との交流で知った悲しい事実

後日、ダニエルさんと電話で話したというダイアナさん。その際、彼が男手一つで娘と息子を育ててきたこと、娘をとても誇りに思っていたこと、そして、亡くなったヘザーさんがいかに素晴らしい人間だったかを知り、2日にわたって泣き続けたそう。

また、ダニエルさんが暮らすイリノイ州で念願の対面を果たした際も、ダイアナさんは悲しい事実を知ることになります。2017年10月、ヘザーさんは婚約者との結婚式を控えていましたが、式の3日前に交通事故が起きてしまったのです

愛する娘とバージンロードを歩く――それはダニエルさんにとって、永遠に叶わぬ夢となりました。

そうして月日が経ち、2019年、後の夫となるコンランさんにプロポーズされたダイアナさん。その瞬間に頭に浮かんだのが「ダニエルさんとバージンロードを歩きたい」という思いだったそう。

「私は日々、ヘザーさんの魂を受け継ごうと努めています。ヘザーさんの父親にもバージンロードを歩く機会を持ってもらうこと――それが私のやるべきことであり、心から望んでいることだと感じたのです」

二人の“父親”と歩くバージンロード

ダイアナさんの提案により、結婚式ではバージンロードの前半をダニエルさん(ドナーであるヘザーさんの父)が、そして後半はグレン(ダイアナさんの実の父)さんがエスコートを行うことに決まりました。

当日の様子を、ダイアナさんはこのように振り返ります。

「通路に出るまでは、不安と切なさでいっぱいでした。でも、ドレス姿の私を見た瞬間、ダニエルさんが泣いてくれたのです。その姿を見て、私も泣きました。彼はヘザーさんをとても恋しがっているし、今も彼女の不在に苦しんでいます。それでも、『君とバージンロードを歩けて嬉しい。もう一人の娘ができて幸せだ』と言ってくれました」

また、ダニエルさんも次のように話しています。

「ダイアナから依頼を受けたときは、とても光栄でした。私にはもう、バージンロードを歩く機会は訪れないと思っていたから…」

ダイアナさんは現在も、吐き気や嘔吐と闘いながら治療を続けていますが、移植手術前とは比べものにならないほど体調は改善したそう。彼女はヘザーさんに対する感謝の意や、臓器移植についての想いを、このように述べています。

「今は、友人や家族の愛を感じながら、日々を過ごせています。ヘザーさんがいなければ、現在の私はいなかったし、こうして結婚式を挙げることもできませんでした
「死は耐え難い悲劇ですが、臓器移植は、その悲劇の中に差す一筋の光です。来るはずのなかった未来を、私に与えてくれたのですから」