日本の伝統的な発酵食品の一つの「ぬか漬け」。子どもの頃はぬか床の匂いが苦手だったり、地味な味わいに特に魅力を感じなかったりしたけれど、大人になってからあの滋味深い素朴な風味が好きになったという方も多いのではないでしょうか?

最近は味や風味だけでなく、ぬか漬けには含まれる乳酸菌をはじめとする様々な善玉菌が含まれていることや、栄養価がとても高いことから、自身の体のために普段の食事でぬか漬けを取り入れる人が増えてきています。

そこで今回は、ぬか漬けに含まれている善玉菌や栄養素、ぬか漬けの嬉しい健康効果やぬか漬けの作り方まで、カナダで応用人間栄養学学士号を取得し、ヴィーガン生活を発信しているYukaさんがまるっと解説していきます。


【INDEX】


ぬか漬けとは

ぬか漬けとは野菜を「ぬか床」に漬け込んで作る漬け物のこと。ぬか床は、玄米を精白する際に出る外皮や胚芽などの捨てる部分の「ぬか」に、塩と水を混ぜて、発酵させることで作られます。

味わい深い風味を得るためには数カ月以上熟成させる必要があり、唐辛子や昆布、山椒を入れたり、家庭や時期によってもぬか床の状態は変わったりするため、ぬか漬けの風味は家庭によって異なります。

ぬか床は定期的な手入れが必要で手間がかかるため、近年ではぬか漬けを作る家庭が減少。しかし最近では、手入れの手間がかからないぬか床が手に入りやすくなったことや、自宅で過ごす時間が長くなっていることから、自宅でぬか漬けを漬ける人がまた増えてきているようです。

ぬか漬けと乳酸菌

ぬか漬けが最近また脚光を浴びるようになってきた理由の一つが、ぬか漬けに豊富に含まれる善玉菌です。一般的にぬか床には12~30種類ほどの善玉菌が含まれていると言われ、定期的に食事に取り入れることで、腸内環境の改善に繋がります

ぬか漬けには特に豊富に含まれているのが「乳酸菌」で、“日本のヨーグルト”と言われることも。乳酸菌とは、糠の糖質を消費して乳酸をつくる細菌で、最近プロバイオティクス(腸内細菌のバランスを改善することによって健康によい影響を与える微生物)として注目されています。

具体的な働きとしては、腸内を酸性側に傾け腸内の消化物を腐らないようにしてくれたり、腸のぜん動運動を助けて便秘を改善する効果があります。さらに最近の研究によって、免疫機能の向上や、中性脂肪・血中コレステロール値の低下といったはたらきも知られています。

また、ぬか漬けに含まれる乳酸菌は「植物性乳酸菌」と言われ、ヨーグルトに含まれる乳酸菌の「動物性乳酸菌」とは少し違い、ぬか床のような塩分の多い過酷な環境で生き抜くことができるため、人間の体内でも高い生存力を誇ります。そのため、ヨーグルトに含まれる動物性乳酸菌は胃酸ですぐに死んでしまいますが、ぬか漬けの植物性乳酸菌は生きたまま腸まで届いてくれます

ぬか漬けと乳酸菌以外の善玉菌

ぬか漬けに含まれている善玉菌には、乳酸菌以外にも「酵母」や「酪酸菌」も含まれます。

酪酸菌は腸に届いた食物繊維を発酵・分解し、酪酸をつくる細菌で、人間の腸内に住み着き乳酸菌の成長を助けてくれます。また、酪酸は大腸のエネルギー源となり、大腸の正常なはたらきのサポートもしてくれるほか、免疫力を高め、肥満の予防や代謝の促進、腸のぜん動運動を促す作用もあり、お通じの改善にも効果的です。

酵母は糖類を食べてアルコールや有機酸、またビタミンB群を作り出す細菌で、糖質の吸収を抑えたり、腸のぜん動運動を助けて便秘を改善したり、免疫力向上、また疲労回復にも貢献してくれるとされています。

japanese traditional pickles nukazuke of eggplant and a cucumber and a japanese radish and the carrot it is the japanese grandmother's hand that has pickles
Yuuji//Getty Images

ぬか漬けの栄養面の魅力

腸内環境が整う

もうすでにお伝えした通り、ぬか漬けには善玉菌が豊富に含まれているため、ぬか漬けを日々の食生活にとり入れることで、腸内環境が整い、便秘の解消が期待できるのはもちろんのこと、新陳代謝促進や栄養吸収率が高まって悪玉菌の繁殖を抑え、免疫力向上や肌質の改善、ダイエット効果が期待できます。

ぬか床自体の栄養素が豊富

ぬか床のぬかは、玄米から白米に精米するときに取り除く、胚芽や表皮の部分のことだとお伝えしましたが、実はこの部分にはお米のビタミンミネラルの約95%が含まれていて、タンパク質や脂質、食物繊維、ビタミンA、ビタミンB郡、ビタミンE、リン、鉄、カルシウムなどの栄養素が豊富に詰まっています。

そのため、ぬかに含まれる豊富な栄養素たちががぬか床の水分に溶け出し、それが漬け野菜に染み込んで出来上がるぬか漬けはとても栄養価が高くなり、実は生野菜として食べるよりもぬか床につけたほうが栄養価が上がることも。

実際に大根を例に取ってみると、大根の糠漬けは生の大根よりもビタミンB1が約16倍、B2が約4倍、B6が約6倍、カルシウムが約2倍、ナイアシンが約8倍、カリウムが約3倍、マグネシウムが約3倍入っています。またきゅうりだと、ぬか漬けにしたほうがカリウムは約3倍、ビタミンB1は約8.7倍の量と、ぬか漬けにすることで栄養素の量が増えていることがわかります。

栄養素が壊れることがない

野菜によっては加熱することでビタミンなどの栄養素が壊れてしまうこともありますが、ぬか漬けは加熱などをしないので、栄養素が抜けたり壊れたりすることもなくおすすめです。

ぬか床の仕込み方

ぬか漬けの魅力がわかってきたところで、早速ぬか床を仕込みたくなってきている人もいるはず。そこで今回は一番基本的なぬか床の仕込み方をご紹介いたします。

必要なもの

  • ぬか床を入れる容器
  • 大きなボウル

蓋で密閉できる容器であれば、タッパーでもホーローでもなんでもOK。選ぶ容量の目安は、ひとり〜二人暮らしの場合は3リットル程度、4人家族の場合は6リットル程度あるといいと思います。

基本的な材料

※ぬか床4kg分:6リットル容器でちょうどいい量

  • 米ぬか…2kg
  • 塩…200g
  • 水…2リットル
  • 昆布…15×10cmを2つほど
  • 唐辛子…5本

手順

  1. ぬかと塩をボウルでよく混ぜる。
  2. 水を足し、耳たぶくらいの柔らかさになるまで混ぜ合わせる。
  3. 昆布と唐辛子を入れて軽く混ぜる。
  4. 容器に移し、ぬか床を上から押して叩いてならす。
  5. キャベツの外葉や、大根や人参のしっぽなどの捨て漬け用のくず野菜を入れて、1日2回かき混ぜる。
  6. 3~4日経ったらくず野菜を入れ替えるというのを2~3回繰り返したら出来上がり。

ぬか床は毎日かき混ぜるのが基本ですが、それが面倒なら冷蔵庫に入れるのも一つの手です。冷蔵庫内では、微生物の働きがにぶくなるため、漬かるまでに時間がかかりますが、かきまぜる回数も減らせます。

ぬか床の適温は20~25度で、夏期などに30度を超えることがあると異常発酵することがあるので、冷蔵庫に入れるか、クーラーの効いた部屋に置くのがおすすめです。

mid adult woman making nukazuke
MIXA//Getty Images

ぬか漬けの作り方

ぬか床ができてしまえばとても簡単にぬか漬けを作ることができるようになります。手順は以下の通りです。

手順

  1. ぬか床を掘り、野菜を入れて、上からぬかをかぶせる。
  2. ぬか床を上から押したり叩いたりして、空気を抜き、表面をならす。
  3. 容器のふたをして、あとは待つのみ。
  4. ぬか床の野菜をとりだす際、野菜についているぬかは、しごいて容器へ戻す。
  5. さっと水洗いして食べやすいサイズにカットしたら完成。

ポイント

  • 野菜同士がくっつかないようにすること。
  • 野菜をぬか床のなかに完全に沈めること。
  • ぬか床の空気をしっかり抜くこと。
  • 最後に、ぬか床の表面を平らにすること。

乳酸菌は空気があってもなくても働きますが、酸素がないとより活発になります。そのため、ぬか床の空気を抜くことで、よりよく発酵が進みます。また、最後に表面を地ならしするのは、空気との接触面を減らし、酸化を防ぐためです。

漬け時間の目安は、ぬか床を置いている空間の温度で変わってきます。暑い夏の間は漬け時間が短めで、やわらかい野菜は6時間以上、かたい野菜は12時間以上漬ければ完成します。そして寒い冬の間は少し長めで、やわらかい野菜は12時間以上、かたい野菜は24時間以上漬けます。

またぬか床を冷蔵庫で保管する場合は、漬かるまでの時間は通常の2倍、そしてかきまぜる回数は通常の半分の頻度にして管理するようにしましょう。

ソイマヨネーズや豆乳ヨーグルト、ピーナッツバターと和えてみたり、すりごまをまぶしても美味しく食べられます。


普段とりにくい栄養素を気軽に摂取でき、腸内環境を整えてさまざまな健康効果を期待できるぬか漬け。

手間がかかるイメージがあり、なかなか取り入れる気にならないという方も多いかもしれませんが、冷蔵庫に保存してしまえばかき混ぜる手間は半減し、慣れてしまえばそんなに手間に感じなくなってくるはずです。

日々の健康のために、ぬか床のある暮らしを始めてみませんか?