トランスジェンダーによるビューティコンテスト、「ミスインターナショナルクイーン2019」の日本代表に選ばれ、日本一美しいトランスジェンダーとして活躍してきたvanさん。

今年、性別適合手術を経て新たなスタートを切ったvanさんに、自分とどう向き合ってきたか、これからどう生きていきたいかなどお話を伺いました。

――このタイミングで手術を受けることになった経緯を教えてください。

本当は2020年4月にタイに渡航する予定で、オペや飛行機などの日程も全部決まって、あとは行くだけというところでした。でもちょうど新型コロナウイルスが流行り始めて、フライトがキャンセルになり、タイに行けなくなったんです。

同じ頃、働いていたショークラブも解散することになって、キラキラ輝ける場所がまたひとつ消えてしまった。私にとってタイで手術を受けるのはひとつの目標だったし、いつコロナ禍が収束するかわからないという状況はメンタル的にも辛かったですが、こればかりは仕方がないこと。シューズブランドのYELLOの仕事はもちろん、今できることをやっていこうと思い直しました。

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1、2年は行けないだろうと思っていたのですが、現地のアテンドの方がこまめに連絡をくれて、そろそろ入国できるかもという情報をもらったのが2020年11月くらい。年末年始の時期なら仕事面での支障も少ないのではと思い、手術を決めました。

今は入国するのにビザもいるし、審査もすごく厳しくて。手続きに追われる日々を過ごしているうちに、心の準備もないまま出発の日がきた感じでしたね。

タイの空港に着いてからはそのまま病院に連れて行かれ、部屋で15日間の隔離。クリスマスもお正月もひとりぼっちでしたが、「今、行くしかない。逆にチャンスだ」と思ったんですよ。

――性別適合手術を受けようと決意した理由を教えてください。

日本でのクイーンとしての活動、そして気持ちも少し落ち着いたところで、ちょうど30歳になるというのもあって、そろそろ行こうかなと。30代になるって、すごく大きいことじゃないですか。その節目で自分の中の“何か”を変えたいという想いはありましたね。

気持ちの中で一番モヤモヤしていた部分を解消できるのなら、早くなくしたいと思って、新しいスタートを切ろうと決意しました。

――手術を受けることになって、お母さまの反応はいかがでしたか?

私が日本一のトランスジェンダーに選ばれて、どんどんメディアに出る活動をするようになって、世間に認められているんだなって、母も心の整理がついたのかなと思いました。

すごく反発して心配もかけていたし、私が一番もがいて苦しんでいた時期を知っているから、多分私より母のほうがずっとしんどかったと思います。出発前に少し話をしたとき、今までの私のことも「大好きだったよ」と言ってくれました。結果、明るい感じで送り出してくれたのはよかったですね。

産んでくれた母に対しては、「私がこうじゃなければよかったのに」と申し訳なく思う気持ちもあって、親の話になると私もいっぱいいっぱいになってしまって…。性別適合手術する子にとって親との関係は、一番のネックだと思うんですよ。

でも手術することは、お互いのモヤモヤをきちんとした形でクリアにできる、ひとつのポイントなのかなとも思います。これ機に、母と私もさらに前向きに生きていけたらうれしいです。

――手術後のお気持ちはいかがでしたか?

術後は感覚もかなり鈍かったですし、傷口を見るまで、正直まったく実感がわきませんでした。タイにいる間は様々なオペをして、毎日がダウンタイムみたいな感じで。女性の体になったことを意識し始めたのは、帰国して私服を着るようになってからかもしれません。

かっこいい系だけど尖りすぎず、少しガーリーな雰囲気の女の子を目指して、ファッションの幅も広がりました。もともとクールで強気な感じの女性が理想ですが、なりたい女性像に一歩近づけたというか、子どもの頃から憧れていたセーラームーンになれた気分かな(笑)。

セクシーで美しくて強い、私の理想の女の子を象徴しているのがセーラームーン。私はこれになりたかったんだろうなと。小さい頃は見た目が男の子だったので、セーラームーンが好きだというと、「え?」という目で見られて、なおさら強い憧れを持ったのかもしれません。でもそこが私のルーツのような気がして、今、憧れに少し近づけたのかなと思います。

――vanさんは女の子からも憧れられる存在ですよね。

Instagramのフォロワーの割合は、8割近くが女の子。私にとって女の子から「憧れです」と言われるのは、言葉に重みがあるというか、ただひたすらうれしいです。そういってくれる女の子を大事にしていきたいなと思います。

それにその子がSNSで私を見て、何かを感じてくれたとしたら、もし周りに悩んでいるトランスジェンダーの子がいたとき、絶対に優しくできると思うんですよ。そういう意味でもSNSでの発信は大事だと思っています。

「vanちゃんって知ってる? あの人も頑張っていたよ」みたいな感じで話してくれたら、うれしいですね。私の選択をひとつの手段として伝えてもらうことで、それを聞いた悩んでいる方が「そういう生き方もあるんだ」と知ってもらえるといいなと思います。

――手術をすることについて、SNSで拡散を呼び掛けていたのも同じ理由ですか?

「拡散お願いします」という言葉を口にしたのは、今回が初めて。自分のフォロワーだけではなく、より多くの方に「こういう想いがあって手術を受ける」ということを伝えたくて、ここはみなさんの力を借りようと思いました。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
【性転換手術】皆様に伝えたいことがあります【拡散希望】
【性転換手術】皆様に伝えたいことがあります【拡散希望】 thumnail
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でも実際どういう反応をされるのか不安で、すごく勇気がいることでした。結果としてたくさんの人たちが拡散してくれて、届く範囲がすごく広がった。今回のことで本当に人の温かさに触れたなと感じています。みなさんには感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

あとアンジャッシュ児島さんのYouTubeチャンネルで、性別適合手術について対談をさせていただいて、Instagramとは違うさらに若い層に向けてお話できたこともいい機会でした。

手術前も後も変わらず、応援してくれる方は私の支え。ずっと感謝の気持ちでいっぱいですし、支えてくれる人がいるから今のvanがいる。そういう人たちがいることを絶対に忘れてはいけないと思っています。

――手術する前と今とで、精神面や体調でどんな変化を感じていますか?

気持ちと身体に差がなくなったとのはもちろんですが、一番変わったことは心の余裕のような気がしていて。もともと別の手術で男性ホルモンはない状態だったので、バランスが乱れたり、情緒不安定になったりすることはなく、穏やかになって顔つきや考え方も、柔らかくなったように思います。

今、戸籍を変える手続きをしている最中ですが、それも完璧に変わってしまえば、戸籍上女性になれるので、やっと一般女性と同じ土俵に立てるというワクワク感もありますね。今は明るいほうに少しずつ進んでいるイメージです。

――法的に女性として認められることについて、どう考えていますか?

私もそうでしたが、戸籍までは変えていないトランスジェンダーの方に共通しているのは、“私なんて”という想いなのかなと。私の場合はそれが人の何倍も大きかったと思います。

何か起こるたびに、「どうせ私はトランスジェンダーだし」みたいな思考になる。完全な女性とは言えないことに、引け目を感じてばかりいる自分に嫌気がさすんですよ。

私は女の子と同じ土俵に立ちたかった。だからそこをフラットにして同じ土俵に近づけたことが、どんどん自分の余裕になってきたように感じています。

たとえば、性別が記載される保険証やパスポートなども手続きを踏めば変えられる。目に見えて性別が変わることで、さらに気持ちに余裕が生まれる。それで“私なんて”と思っている子が前向きになれるなら、この手術を受けるのを選択肢のひとつにしてほしいと思いますね。

それに世間のイメージも変わってくると思います。今はトランスジェンダーというと、“TVで見る面白い人”と思われているように感じていて。でも私は女の子と同じ土俵に立つことがひとつの目標なので、私みたいな人もいるんだと知ってほしいなと思いますね。

――30代になり、手術も終え、今のvanさんの目標を教えてください。

気分が落ちて、自信を失う時期もありましたが、今は30代だからこそもっと輝いてやろうと思うし、強くありたいという想いは変わらず持ち続けています。「私なんて…」と思うことがないように磨き続けたいですね。

そして今はまだ一本の光かもしれないけど、心にゆとりができたのを糧に、その光の本数を増やしていきたいと思います。自分が輝くことで灯りを照らして、周りを明るくするような人になれたらうれしいです。

私が表に出ることで、誰かひとりでも救われるなら、気持ちをラクにできるなら、どんどんやっていきたい。“普通”とは違う生き方をしてきたからこそできる何かを探して、もっと誰かの選択肢を増やしていける存在になりたいと思います。

LGBTQ+関連のニュースについて意見を求められることも多いので、これからも発信し続けるつもりですが、最近は“LGBTQ+”という言葉自体が何か型にはめるような気がして、いつかその言葉すらなくなればいいと思うようになりました。もっとフラットで誰もが生きやすい環境を作っていけたらいいですね。

――では最後に、これからどういう人生を歩んでいきたいですか?

ぱっと見た感じ、全部スムーズにうまくいっていると思われがちなのですが、「女の子になりたかったのに男の子として生まれてきた私の人生」と、「もともと女の子として生まれてきた人の人生」とでは全然違って。正直、私は“私として生まれたこと”を後悔したこともありました。

「もう無理」と全部シャットダウンしたこともあるし、消えようと思ったこともある。それでも私は突っ走ってやると、ゴールもないまま無理して頑張ろうとしていた部分があったように思います。でも少しだけゴールに近づけた今、もっと私らしい表現がしたい、さらに成長していきたいという気持ちが大きくなった。

同じように悩んでいる子のロールモデルになりたいという想いもどんどん強くなって、手術からまだ半年も経っていませんが、これからやりたいことに向かうための新しい一歩が踏み出せた気がしています。

恋愛面においても引け目を感じなくなったというか、恋愛面こそ一番前向きになれたかも。今は出会いの機会もないので不安もありますが、結婚は絶対にしたいし、結婚式も絶対に挙げたい! これまでは大前提として女の子には勝てないというメンタルでしたが、今なら堂々と戦えるかな(笑)。恋愛面でも少し余裕ができました。

私、“余裕”という言葉を連呼していますが、このオペで本当に心に余裕ができたと思います。余裕ができると、自分だけでなく周りにも優しくなれますよね。私ももっと周りの人をハッピーに、そして様々な色で明るく照らせる人間になっていきたいです。


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