2020年に新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから、アメリカでアジア系の人々に対する中傷や暴行が急増。トランプ前大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んでいたことでも、アメリカ国内での偏見は広がり、特に大都市圏を中心に、立て続けにアジア人を狙った事件が勃発しています。

今回は、ロサンゼルス、シカゴ、ワシントンD.C. といったアメリカの都市部在住の日本人、日系アメリカ人に現地の状況や差別の経験、生活の中で感じることをインタビュー。リアルな声をお届けします。


ロサンゼルス在住者の声

AKさん・ヘアメイクアップアーティスト

在米歴3年目でロサンゼルス在住。東京でヘアメイクアップアーティストとして活動後、渡米。

直接的な差別を受けたことはありますか?

2019年(パンデミック前)に、日本人の友達と歩いていたら若い男性達に、日本語の性的な言葉を叫ばれたことがあります。

またつい先日、Lyft(配車サービス)を呼んだところ、指定した場所まで来てくれたのですが、私の顔を見るなり無言で配車の予約をキャンセルされて、私を乗せずに発車していきました。これはアジア人だからなのかは定かではないですが、そんな雰囲気を感じました。

“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

アジア人への隠れた差別は普段から感じていました。レストランで働いている友人は、お客さんに「(性的な)マッサージもしているんでしょ?」と冗談を言われるなど、度々そういった話を聞きます。

また、アメリカで生まれて育ったアジア人ミックスの友人達からも、子どもの頃にいじめられたり差別されたりした話を何度か聞きましたね。テレビや映画からのステレオタイプなイメージで、学生の時に同級生から性的な言葉を浴びせられたり、辛い思いをしたり、ということもあったようです。

最近では、日本食レストランにナイフを持った人が現れて警察沙汰になるなど、アジア人差別が拡大してからは特に恐怖を覚えることが多くなってきています。日本人の友人や私も出かけるとき、時間帯や場所によっては、なるべく日本語を使わないようにしています。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

前から感じてはいたものの、パンデミック後からはかなり過激化して、たくさんの人が傷つき怖い思いをしていると思います。

ある人からは、「アジア人は自分で選択してアメリカに移住している歴史があるので、差別について発言すると、『来たくて来ているんだから、自分の国へ帰れ!』と言われるのではないかと怖くて、なかなか口にできなかった」という話を聞きました。だからこそ、ここまで深刻化してしまい、ようやく話題になったのかもしれません。

アメリカでもセレブリティや影響力のある人がアジア人差別について声を上げてくれてから、若者のアジア人差別に対する考えが少しずつ変わってきている気がします。話すことをきっかけに、周りの人が考え直したり、差別をなくすための思考が広がっていくのではと思いますし、背景はどうであれ、社会を変えていくためにも、私自身はきちんと声を上げていきたいですね。

M.Y.さん・グラフィックデザイナー

在米歴10年で、カリフォルニア在住。 日本の大学を卒業後、カリフォルニアの大学へ入学。現在はアメリカ大手音楽フェスティバルのプロモーターにて、グラフィックデザイナーとして勤務中。

“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

直接的な差別や恐怖を覚えるような差別はこれまで特に受けたことはないですが、容姿の判断だけで、日本語で話しかけられるというような、“違和感だけの差別”は何度も経験しています。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

最近、特にメディアやSNSで取り上げられている印象はありますが、時間が経てばこの話題も薄れていき、遠くない将来に何かをきっかけにまた話題になるんだろうと思っています。

ジョージ・フロイド氏の事件をきっかけとした2020年のBLMの時も、あれだけ大きなムーブメントになったのに、今では話題に出す人はそう多くはない印象です。

私自身、アメリカ市民ではなく、ビザの滞在期間だけいさせてもらっている側。もし差別をされたとしても、自分がアジア人であることは変わりないので、嫌になったなら国を出ていく選択をします。まだ自分自身が痛い目にあったことがないので、そう言えるところはあるかもしれませんが、差別されたとしても滞在したい理由があるので、今はここで生活していくつもりです。

今後“アジア系・アジア人差別”だけではなく、“人種差別問題”そのものがなくなることがベストだとは思いますが、一方でなくなるのは難しいのかなとも感じます。

定期的に差別について考える日がきちんと設け、教育の一貫にもなることで、若い層にも浸透していくのではないでしょうか。こういうことが起るたびに、一度立ち止まって考えたり、話し合ったりするのはとても大切だと思いますが、あと何度立ち止まればいいのか…とも思いますね。

rally and run to stop asian hate
Boston Globe//Getty Images

シカゴ在住者の声

N.U.さん・会社員

在米5年目。アメリカの大学卒業後、現地で就職し、現在はシカゴ在住。

アメリカで直接的な差別を受けたことはありますか?

今年1月、地下鉄に乗っているときにマスクをしていないアフリカ系アメリカ人の男性が近寄ってきて、ひどい言葉を投げかけてきました。危険を感じたので下車しようとドア付近まで移動すると、私の後ろをついてきていました。

下車する前、背後に気配を感じたのでに振り向くと、蹴られる寸前。丁度ドアが開いたのでなんとか逃げ切れましたが、昼間だったのにも関わらず本当に怖い経験でした。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

5年間アメリカに住んでいて、過去に差別的なことを言われることも時折ありましたが、今は正直公共の場に出るのも不安な毎日です。

電車での出来事があってから、乗車時は催涙スプレーを常に握っています。自分たちの人種や国籍のせいで不当な扱いをされているのはとても悲しいことだし、たくさんの犠牲者の方をニュースで見るたびに心が痛みます。

アジア人差別はアメリカ社会では今まであまり公に出ることはなく、モデルマイノリティという位置付けから、他のマイノリティへの差別に比べ、余り重要視されていなかったように思います。

今回ようやくアジア人差別の実態がメディアで取り上げられるようになり、人々の意識が向き始めたことはとても大きな一歩。人の命が失われてようやくアジア人差別についての話題が広まったというのは悲しいことですが、これからアジア人差別の存在への認識を広げ、不当なステレオタイプやスティグマを取り払う公衆への教育が必要です。

また、民族主義になることの多いアジア人ですが、アジア人コミュニティ内でも異国籍間での結束を高め、コミュニティ全体で差別に立ち向かっていかなければならないと思います。

S.K. さん・会社員

在米8年 (ミネソタ州2年、イリノイ州6年)で現在はイリノイ州シカゴ在住。中国系アメリカ人の夫と2歳の娘の3人家族で、現在は第二子妊娠中。

アメリカで“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

ミネソタ州在住時は、白人コミュニティの中にいたものの差別を受けた経験がなく、またシカゴでも日常生活の中でマイノリティであると意識することがないため、昨今の状況について普段はあまり実感が湧かないのが正直なところです。

とはいえ家族全員アジア人、アジア系で自分が妊娠しているので、アジア人が集まる場所(ターゲットになりうる場所)に長時間いることに不安感があったり、所用で他州を訪れる際は以前より周囲を警戒したり…とパンデミック前にはなかった不便さは感じています。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

白人の憎悪犯罪加害者は見慣れてしたまったものの、昨今のアジア系差別においては同じマイノリティで差別に苦しんでいるはずの黒人が加害者になるケースも目立っているのが非常に残念です。

移民である私はともかく、子どもたちにとってはアメリカは母国であり、マイノリティとして生まれただけで生きづらさや不便さを感じるのは理不尽なこと。自分のバックグラウンドに自信が持てるよう、親としてサポートするつもりですが、将来的には親が心配しなくとも、社会全体がサポートしてくれるような体制になっていることを願っています。

asian solidarity march held in minneapolis
Stephen Maturen//Getty Images

Lianさん・デザイナー

アジア系アメリカ人(中国・ベトナム・日本のミックス)。カリフォルニア州オレンジカウンティで生まれ育ち、昨年からシカゴ在住。

アメリカで直接的な差別を受けたことはありますか?

アジア人の人口がアメリカで最も多いカリフォルニア州で育ったので、幸いなことに直接的な差別は受けたことがありませんでした。肌の色によって、サービスを拒否されたり、別の扱いを受けたことはありませんでしたし、周囲の人と同じように機会と権利はありました。

だけど、人生で何度か人種による偏見を抱かれそうになったことはありましたね。

アメリカで“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

ステレオタイプや偏見が、私への見方、扱いに影響があると感じたことはあります。小学校のときは、一部の生徒からアジア系の目の形をバカにされたことも。 また高校時代は、母が作ったお弁当を学校に持っていくのが心配でした。お弁当の匂いが、周囲の生徒の気分を害して、何か言われるのではないかと不安だったんです。

それから大人になるにつれ、シャイ、受け身、エキゾチック、運転が下手…などアジア系女性のステレオタイプを感じるようになりましたが、昨年シカゴに引っ越すまでは、幸いにも直接的なコメントはされませんでした。

パンデミック後、シカゴに引っ越してからは街で用事を済ませている時に2度暴言を直接吐かれたことはあります。1度目は年配のアフリカ系アメリカ人のホームレスに「クソ中国!」と言われ、2度目はスーパーの会計の列に並んでいるときに、年配の女性から「中国へ帰れ」と呟かれました。

昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

率直に言って、肌の色によって扱いが異なるというのは、アメリカは昔から課題になっていること。しかし、暴行や暴言をアジア系に向けるのは、以前より拡大していてとても心配な問題です。

今では暴行を受けないように注意しないといけませんし、怒りを抱えている人種差別的な人のトリガーにならないように、道で知らない人とあまり目を合わせないようにしています。加害者の多くは、現状の解決策を探すのではなく、誰かのせいにすることに注力しすぎているような危ないマインドセットを持っていると思います。

仲の良い友人とは少人数で直接話し合い、お互いに不安をシェアしたり、注意喚起をしあったりもしていますが、今はアジア系へのヘイトに関わるポッドキャストなどを聞くようにしています。

実際に差別に直面したことがある人の経験を学べるのはもちろん、積極的にこの問題を認識してもらえるように動き、問題解決の方法を探ろうと思っています。今後は人々が一致団結し、人種差別と憎悪と闘うことを願っています。

Nozomiさん・会社員

在米歴計21年。ジョージア州で生まれ、その後ケンタッキー州へ。その後、日本で高校大学時代を過ごし、就職。4年前から仕事の関係でイリノイ州シカゴ郊外在住。

アメリカで直接的な差別を受けたことはありますか?

中学校時代などに、アジア人のステレオタイプを元にからかわれることは時折ありました。パンデミック後は特に感じたことはなく、郊外では平和に過ごせています。

アメリカで“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

南部にいた頃は初対面のアメリカ人に、自分の英語がネイティブであることに驚かれた経験があり、当時も違和感は多少ありました。(相手は喜んでいる場合が多いので、ネガティブな経験になったことはないです)

他にも、理数系が得意というステレオタイプを受けたり、「日本人の割にはっきり堂々としている」と言われたりもしましたが、イメージが先行しているとは思います。

    昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

    特にBLMとの差異として、アジア系差別では黒人より「人種」に加えてアジア人の間での「民族」や「国家」が加わるため一層難しいと感じています。

    「アジア人種間のひずみにこの世代で終止符を打てば、アジア系アメリカ人は、一般的にアメリカで認識されている“モデルマイノリティ”のような一部のエリートや嫉妬の対象ではなく、より多くのアメリカ人にとってもっと身近な存在にもなるだろう」という話を時折友人ともしています。

    今後は、より理解し合える世の中を目指したいと思います。嫌悪は不安から、不安は理解できないことから起きると考えているため、自分はまずはバイアスを持たず何事も理解できないことは純粋になぜと聞いてみることを実践していきます。

    ワシントンD.C. 在住者の声

    宮崎たま子さん・バレエダンサー

    在米歴12年。バレエダンサーとしてワシントンD.C.に住み、現在はアメリカ人の夫と1歳の娘の3人家族。

    アメリカで“隠れた差別”やステレオタイプ、日常生活の中での違和感や恐怖を覚えたことはありますか?

    パンデミック前も後も、直接的な差別を受けたことはありません。(自分が気が付いていないだけかもしれませんが…)

    しかし、アジア人差別のニュースやSNSを見ると、街中で知らない人に本当はどう思われているのかな? と気にするようになりましたね。

    昨今の「アジア系、アジア人差別」についてどう考えていますか?

    これまでアジア系、アジア人差別は、BLMほど取り上げられることはありませんでしたが、現実に目に見えて起きているのを知って残念です。

    アメリカはもっと色々な民族を受け入れているものだと思っていましたが、ミッ クスである自分の娘が、日本でもアメリカでも居づらい環境になってしまうかもしれないと思うのは悲しいですね。

    見た目だけで判断されて、危険な目に遭わざるを得ない環境だと思うと気が抜けません。こんな世の中が早く終わってほしいです。