「痩せている=美しい」という固定概念から解放され、自分の体型をありのまま愛そうというムーブメントは、ここ数年で世界中に浸透しつつあります。

そんな中、誰もが抱える外見のコンプレックスを「個性」という強みに変換させ、ボディ・ポジティブを体現しているのが、女優、コメディアン、そしてプラスサイズモデルとして活躍中の藤井美穂さん。

コスモポリタンでは、現在ロサンゼルスに拠点を置く藤井さんにインタビューを行い、アメリカでの生活で培われた自己愛や、SNSとの向き合い方についてシェアして頂きました。

立ちはだかる数々の壁を打破したのは、めげない精神

――アメリカでの活動を志したきっかけを教えてください。

日本で演劇を学んでいた頃に出会った恩師の影響で、アメリカでの活動を志すようになりました。当時は日本で役者として活躍することを具体的にイメージできずにいましたが、イタリアで演出家をされている日本人の恩師の指導に感銘を受け、日本に留まらず世界で活躍したいと思うようになりました。

ロサンゼルスを選んだ理由は、映画やドラマなどの映像のお仕事をするためです。それまでは舞台で活躍することが役者にとって一番の成功だと思っていましたが、舞台だと一度に見られる観客の数が限られます。それに比べて映像はたくさんの人に見てもらえるチャンスがあるので、映画産業の中心地であるロサンゼルスへ行くことを決めました。

――日本を出てロサンゼルスで生活を始めてから、自分のどこが一番変わったと思いますか?

内面、思想、物事の捉え方の全てが激変しました! ロサンゼルスに来たばかりの頃は英語すら分からなかったので、言語や文化を一から学びました。辛い思いは何度も味わいましたが、自分のモチベーションを保つ方法や落ち込まない方法を身につけなければと思い、心理学を学びました。それが結果的に心の安定に繋がり、精神的に強くなりましたね。

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――アメリカで暮らす日本人女性として、ご自身の強みはなんだと思いますか?

私はもともと大雑把で、全てが完璧でなくても生きていけるタイプなので、この適当さが最大の強みですね。あとは、多少の失敗で落ち込まないのも長所だと自負しています。

細かいことを気にするタイプの方だと、アメリカでの生活は大変かもしれません。私はアメリカに住んで今年で6年目になりますが、失敗は山ほどしますし、まだまだ知らないこともたくさんあって…。でも、知らないことを恥ずかしいと思うとそのまま知らずに終わってしまうので、なんでも吸収する素直さを持つようにしています。

キャリア面の強みは、まず、日本人であるからこそアメリカの面白いところをキャッチできるという点。その着眼点でコメディのネタを作っています。あとは「やっとスタートラインに立てた!」と毎年のように思っていて、初心を忘れずモチベーションを保てるところも私の強みだと感じています。

――プラスサイズモデルとして活動されるようになってからは、どんな世界が見えましたか?

実は私、もともとプラスサイズモデルになろうとは思っていなかったんです。友達の推薦で、ボディ・ポジティブなコンテンツを発信しているYouTubeチャンネル「All Good Things Network」でアジアのプラスサイズ事情を話したことがきっかけでした。

【動画】Miho Fuji - Curve Model Stories

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Miho Fuji - Curve Model Stories
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まずプラスサイズの世界を知るために、活躍中のモデルをフォローしたり、ボディ・ポジティブを啓蒙している方たちのSNSをフォローしました。正直それまではプラスサイズの方たちを素直に綺麗だと思えなかったのですが、彼女たちの生き方を眺めているうちに美しさが見えてきて、自分の身体にも魅力を感じるようになったのです。

プラスサイズモデルと言えど、私はそのコミュニティでは一番小さいサイズです。たまにオーディションで「プラスサイズを探してるけど、もっと大きい人を探してる」と言われることもありました。アメリカでは、プラスサイズにはもっと上のサイズの方もたくさんいます。これも、アメリカならではの基準ですね。

――ロサンゼルスで女優業やモデル業をされるにあたり、壁にぶち当たったことはありましたか?

むしろ壁しかなかったですし、何事も壁がある前提で行動していました(笑)。だって、ただでさえアメリカ人がハリウッドで活躍するのも難しいのに、日本人の私がそれを目指せば、行く手を阻まれることは日常茶飯事です。

外国人がアメリカで勝負する場合、まず言語が大きな壁です。次にビザの壁があり、そして業界でどのように仕事を得るかという壁が立ちはだかります。オーディションはもはや、落とされるという前提で受けていますね。だから、四方を壁に囲まれているような状態です。

オーディションでは基本的に「NO」という返事しか返ってこないと思って挑んでいますが、受からないと思っていたオーディションに受かったり、全く手応えがないオーディションだったのに合格の返事があったりするので、やってみないと分かりません。なので、とにかく挑戦をし続けることが重要です。

失敗しても自己嫌悪に陥るのではなく「それはそれ、これはこれ」と気持ちを切り替え、結果を全てとして受け止めないようにしています。

体型批判から解放され、自己肯定感が上がった

――藤井さんは、アメリカでの生活を通して自己肯定感を高めることができたそうですが、何がきっかけでしたか?

アメリカでは、他人の外見に口出しをするのはナンセンスという風潮があります。少なくとも私がロサンゼルスに来てから、周りに外見を批判されることが一度も無かったので、自己肯定感が下がることもありませんでした。

アメリカでは、女性に対しての体型批判は特にNGとされています。私が即興劇のレッスンを受けていた頃は、先生に「舞台上では、絶対に女性の見た目を悪く言ってはいけない」と指導されていました。「会場全体が敵に回るから」と。だから、たまに自分の見た目を卑下して笑いを取るタイプのスタンダップコメディアンもいますが、私はその手のネタをあまり面白いと感じないんです。

逆に、自分のスタイルやファッションを褒められた時の嬉しい気持ちが積み重なることで、自己肯定感がどんどん上がっていきました。ポジティブな言葉が今までの傷を癒し、意識を変えてくれたのです。体型についてあれこれ言われない環境に身を置いたことが大きかったと思います。

――外見にコンプレックスを持っている人は自信が持てず、ネガティブになってしまいがちですよね。どうすれば自分を肯定し、愛してあげることができると思いますか?

小さい頃は誰もが「プリンセスになりたい!」という願望を持っていたように、誰が美人で誰が醜いという感覚は無かったはず。しかし成長するにつれて、外見について批判されたり、他人と比べてしまうことでコンプレックスを抱えるようになります。外見を人に批判されると、自分の全てを否定されたような気持ちになってしまい、自信も喪失してしまうのです。

でも、他人からの意見は絶対的なものではありません。みんなが異なる美の感覚を持ち、好きなタイプも異なるので、その人の物差しで自分の外見を悪く言われても、それに同意ができなければ受け入れる必要は全くありません。

一方、私が「自己肯定感を高めるためには、こう捉えましょう」とアドバイスをしたら、「批判をしてくる方が悪いのに、なぜ私が変わらなきゃいけないの?」と思う人もいるはずです。ただ、いくら説得しても、他人を変えることはやっぱり難しい。だから、私みたいな立場にいる人間がメッセージを届けることで、誰かが変わるきっかけになればいいなと思っています。

私は、痩せたい人や整形したい人を否定しません。だってそれが、その人なりの自信の持ち方かもしれないから。自分に自信を持ち、愛せるようになる方法はたくさんあるので、私がSNSで発信しているメッセージを読んでもらえれば、何か響くものがあるかもしれません。

――プラスサイズモデルの活動はアメリカでは盛んですが、まだ日本では浸透しきっていない印象があります。日本で暮らしている私たちはボディ・イメージについて、どのように意識していくべきだと思いますか?

まず、体型や外見を批判しないことが日本の常識になってほしいです。物事が起きた時の脳の捉え方には癖があるので、体型を一度批判されると、ネガティブな記憶が染み付いてしまいます。私はアメリカに来るまで、自分がそうやってマインドコントロールされていたことにすら気づいていませんでした。

「痩せている」「太っている」と他人にジャッジされるのではなく、多様性が素晴らしいとされる世の中になることが必要だと思います。

誹謗中傷は即ミュート!

――藤井さんは日頃からSNSで、多くのポジティブなメッセージを発信されています。ここ最近、日本でもSNSの使い方が疑問視されていますが、自分に批判の声が向けられたとき、それらの意見とどのように向き合っていらっしゃいますか?

「なぜ誹謗中傷をされても傷つかないのですか?」と聞かれることが多いのですが、私の価値は私が一番理解しているから、批判をされても一切動じないんですよ。心無い言葉は受け入れる必要がないと思っていますし、「あなたはそう思うんですね」くらいのスタンスで流しています。

SNSで心無い言葉を受けると「みんながそう思っているんだ」と錯覚してしまいがちですが、そもそも「みんな」って誰のことでしょう? 統計を取ったわけじゃないですよね? なので、誹謗中傷コメントはどんどんミュートしています。

私に対して誹謗中傷をする人の中には、「どうしてこの人は堂々としていることが許されるの?」と疑問に思っている人もいます。でもそこには、人間の複雑な感情があるのだと思います。過去に、私を誹謗中傷していた人から謝罪されたことがありました。「自分のことを好きでもないのに、人の悪口を言うのがやめられません」とメッセージが届いたので、その方には「自分を好きになれない原因と向き合わないと、自分に対する怒りが他人に向いてしまうので、セラピストに相談することをおすすめします」とお伝えしました。自分が負った傷のせいで他人を傷つけてしまう場合もあり、それを無意識でやってしまうのが、最も恐ろしいことだと思います。


実は私、アメリカでの活動をスタートしてすぐにはTwitterを始めませんでした。その理由は、当時日本にまだ浸透していなかったボディ・ポジティブという価値観について発信すると、必ず批判を受けると分かっていたからです。だから、自分の自信が揺るぎないものになって、何を言われても平気だと思えるようになるまで、個人での発信は避けてきました。プラスサイズモデルを始めて、Instagramのフォロワーが増えてきても、2年ほど待ちましたね。自分がちゃんと説明できるだけの知識と、意見を理解してもらえるだけの説明力を身につけてから、発信を始めたんです。

コンプレックスのある人は、それを人生の武器に変えられる人にもなれる。


SNSでよく「論破した」というワードを目にしますが、意見を言い合うのは勝ち負けではありません。私の場合、きちんと自分の意見を述べることによって、それを読んでいる周りの人にも、自分が伝えたいメッセージを広められればという気持ちで発信しています。

常に新しいことにチャレンジしたい!

――藤井さんは女優、コメディアン、そしてプラスサイズモデルなど、枠にとらわれず多方面でご活躍をされていますが、今後の目標やビジョンを教えてください。

私は常に新しいことにチャレンジしていないと死んでしまうタイプなので(笑)、今後はプロレスに挑戦してみたいと思っています。ルームメイトがスポーツ関連のメディア会社に勤務しているので、前から興味があったプロレスを始める絶好のチャンスなのではないかと思って。新型コロナウイルスの状況が落ち着いたら、ジムで技を覚えて準備をするつもりです。

あとは、スタンダップコメディアンとして、もっと多くのステージに立ちたいです。私は何度も同じネタを披露するのではなく、ステージに立つたびに新しいネタをやるようにしています。それによってハードルが上がり、結果的に自分にプレッシャーを与えているのですが、常に新ネタを披露したいという自分なりのプライドがあって。私にとって「笑い」は自分のアイデンティティそのものなので、妥協せずストイックに挑んでいます。

「好き」という感情を無視しない

――最後に、体型に自信が持てない人や、外見で悩んでいる人へのメッセージをお願いします。

自分が綺麗だと思うものと、人が綺麗だと思うものは違います。「でも、自分よりもっと綺麗な人がいるし…」と思ってしまうのであれば、「でも」の部分を封印してください。

「今日の自分、めっちゃイケてる!」と思ったら素直に受け入れればいいし、自分の好きな部分も絶対あるはずなので、「好き」という感情を無視しないこと。自己満足でいいんです。

もしも自分に同意をしてくれない人がいても、世界は広いので、あなたを最高だと思ってくれる人は絶対にいます。自分の魅力を抑え込んで、目立たないように生きている人が大勢いますが、それだと、自分の魅力に気づいてくれる人に出会うこともできませんよね。外に向かって自分の魅力をアピールすることも、大事だと思いますよ。


藤井美穂 PROFILE

三重県出身の27歳。短大卒業後、女優を志しロサンゼルスに渡る。現在は女優、スタンダップコメディアン、プラスサイズモデルとして活躍中。SNSを通じて発信される「ボディ・ポジティブ」のマインドが多くの女性の共感を呼び、現在Twitterのフォロワー数は2.5万人、Instagramのフォロワー数は7万人を超える。