フードテック(Food+Tech)で「移民女性」と「企業」を繋ぐ!
“おふくろの味”を通して「移民のママ」と「大企業」が触れ合う――。20代パリ女子が仕掛ける「文化交流2.0」を現地レポート。
ますます日本に外国人が増え、「他者を理解する」ことが大切になる時代がきています。とはいえ、普段街で外国人を見かけても、文化や言語の違いに「壁」を感じてしまって、なかなか声をかけられないもの。一方で、彼らにとっても言葉もわからない外国で暮らすことは大変なことで日本社会に溶け込むことに苦戦している…ということも想像できます。
だからこそ、テクノロジーの力を利用して革新的な方法で国際交流の「きっかけ」を作ってみるというのは、今の時代にぴったりなのではないでしょうか?
移民が多いパリでも、「外国人がフランス社会に馴染む」ことは長年の課題になっています。そんな中、現地ではテクノロジーを駆使し状況を打破するため、20代のパリっ子たちが創設した“食系スタートアップ”が注目を浴びています。彼女たちの目標は「食」を通して「移民の女性」の人生を変えること! ほぼ資金ゼロからスタートし、今では400以上の政治家や大企業を顧客に持つ――。どんなコンセプト? どうやって起業したの? その答えを求めて、移民女性と企業を繋ぐ、パリの「ミート・マイ・ママ(Meet My Mama)」のお仕事現場に潜入しました!
彼女たちの活動を参考に、日常での気づきや発想力を生かして、エネルギーをフル稼働すると、日本の社会を明るくする“文化交流2.0”が実現できるかもしれません!
日本は4月から「外国人労働者受け入れ」拡大
日本では、外国人労働者受け入れを拡大する新しい制度が今年4月から始まります。2017年10月時点で、日本にいる外国人労働者の数は約128万人ですが、政府は今後5年間で、34.5万人の外国人労働者を受け入れる方針を打ち出しています。
一方、移民大国のフランスでは長い歴史の中で移民を受け入れ続けていますが、宗教・文化・言語の異なる人たちとの“共生”は、大きな課題のまま。中でも特に女性は、家や母国のコミュニティーに留まり、社会に溶け込めずに孤独感を味わうケースが多いと言われています。
「Meet My Mama(ミート・マイ・ママ)」
3人のパリっ子が創設したのは、移民との“共生”に「食」を通して取り組むスタートアップ
2017年に3人のパリっ子が創設したのは、ケータリング(指定先に出向いて食事を提供するサービス)のサービス「ミート・マイ・ママ(Meet My Mama)」。
アジア、アフリカ、南米…パリ在住の外国人ママと契約し、伝統的で身体に優しい「世界のママの味」を企業や政治家のイベントで提供しています。
そのコンセプトは「Culinary trip(料理の旅)」。クライアントは“舌”を通して旅をするだけでなく、ママが母国の食文化や自身のストーリーを紹介することで“心”の旅をすることが目的です。
現在はエマニュエル・マクロン大統領が創設した政党「共和国前進」、アップル、ロレアルなどの大企業を顧客に抱えています。
「移民の女性は社会から゛孤立”してしまいがち」
「ミート・マイ・ママ」共同創設者
ルブナ・クシビさんインタビュー
――「ミート・マイ・ママ」を起業をしたきっかけを教えてください。
「私、食べることが大好きなんです。そして、いろんな文化を発見することにとても興味があります。でも、なにより“社会に溶け込めない女性の役に立つことがしたい”と、ずっと思っていました。
そんな中、起業の一番のきっかけとなった出来事が、数年前に欧州へ大勢の難民が渡ってきたことでした。
私の祖母もモロッコからの移民です。彼女は30年間フランスで暮らしていますが、まったくフランス語が話せません。フランスで働いた経験もなく、フランス人の友達もほとんどいない。その結果、家にいることが多く、どうしてもフランス社会から孤立しがちになってしまうのです。私はそういった移民女性のコミュニティーの中で育ったのですが、新しく欧州に来た難民に、彼女たちと同様の失敗をしてほしくないと強く感じたんです。
フランス社会に溶け込むことで、移民の女性たちの人生は明るくなる。そのサポ―トをしたいと思ったことがきっかけです」
--ケータリング会社「ミート・マイ・ママ」の運営だけでなく、移民の女性が社会で活躍できるようトレーニングも提供されているそうです。
「移民の女性の多くは、先祖代々受け継いだ伝統的なレシピを作ることができます。でも、その料理の腕は外で発揮されることはなく、家で振る舞われるのみ。なぜシェフにならないのか聞くと、かえってくるのは『フランス語が話せない』、『自信がない』、『どうやって始めたらいいか分からない』という答えでした。
そこで、まず『エンパワー・マイ・ママ(Empower My Mama)』という組織を作りました。移民のママたちをシェフ、そして女性起業家になれるようトレーニングを展開しています。そこでは衛生管理の知識、フランス語のレッスン、パブリックスピーキングの練習など、各ママの必要性に応じたレッスンを提供しています。講師はパートナーシップを組んでいるボランティア団体が担当してくれています。このような過程を通して、ママたちが社会で活躍できるよう支援しています」
「外に出て『褒められる』ことで、人生が変わる」
――「ミート・マイ・ママ」は、政治家から大企業まで幅広い顧客を抱えていますね。
「政治家においては、一番初めに『共和国前進(エマニュエル・マクロン大統領が創設した政党)』から移民女性の共生についてアドバイスがほしいと連絡を受け、ミーティングをしました。それ以降、イベントがある度に、ケータリングの仕事をしています。労働大臣も、私たちのスタートアップに興味を持ってくれ、よく注文をしてくれます。その他、女性誌『ELLE』など、幅広いクライアントから注文を受けています」
――実際、どのように移民女性の人生を明るくするのでしょう?
「普段の生活であまり接触することのない、“企業の人々と移民ママの出会い”を作ることが大切です。ママには食事を提供する際に、食べる人たちの前に立って、自身の文化背景や人生ストーリーを話してもらっています。
彼女たちは普段、特別に料理を褒められたり、スポットライトを浴びたりすることはありません。せっかく素晴らしい料理の腕を持っているのに、それでは自分の才能に気付かず宝の持ち腐れです。
大企業の人たちや政治家の前で自分の文化を紹介し、彼らが目の前で自分が作った料理を『美味しい!』と喜んで食べる様子を見る――。中にはママにレシピを尋ねたり、感激してママの頬にキスする人もいて(笑)!
そういった社会の第一線で活躍する人たちに褒められることで、今まで内向きだったママたちの自己認識が大きく変わるんです。『私、レストランでシェフをしてみようかな』、『自分でお店を開いてみようかな』と、ママが自信を持って新しい一歩を踏み出すことに繋がります。そして、そんな“自信を持った”ママの姿は、彼女の周囲の移民の女性たちにも、良い刺激を与えることができます。
移民との文化交流を遠ざけているのが“よく知らない文化背景の人は怖い”と、距離を置いてしまうこと。だからこそ、“異文化を知るきっかけ”を作り、移民の女性へのイメージを変えていきたいです」
起業は「資金ゼロ」からのスタート
――「起業」をしようと思ってもステップが分からず、なかなか踏め出せない人もいるかと思います。企業までの道のりは大変でしたか?
「以前の会社の同僚と一緒に起業することになり、途中で同じビジョンを持っていた男性と出会い、3人で起業しました。
まず私たちが踏んだステップが、スタートアップのイベントへの参加。そこで、イベント参加者に私たちのビジネスのアイデアを話しました。当時、“移民のママが料理を提供するビジネス”というアイデアしかなかったのですが、『ケータリングはできる?』『料理のレッスンもできる?』と、質問が帰ってきて。それらを取り入れ、具合的なプランを立てました。そしていろいろ試行錯誤を繰り返した結果、ケータリングが一番形態として合っていると気付き、今の会社の形にしました。
資金もゼロからのスタート。当時学生だったのでお金もなく、当初はママと一緒に私たちも料理を手伝い、自分たちの車で配達していました。思い返すと、お金がなかったからこそ、柔軟にクリエイティブな発想がたくさん浮かびました。その後、実績を積み重ねた結果として、スポンサーがついてくれるようになりました」
「移民のママ」の声は…?
フジャさん(40)、モロッコ出身
--この日のメニューについて教えてください。
「鶏肉のタジンとオリーブ、オレンジフラワーで味付けしたオレンジのデザート、ココナッツのクッキーなど、モロッコの伝統料理で、いつも子供や夫につくっているメニューです。今日は朝から夫と2人で、250人分の料理を作りました」
--今までの経緯を教えてください。
「19歳の時に母国モロッコを出てパリに渡り、ベビーシッターとして働いていました。その時に面倒を見ていた子どもの両親が時間がなくて、子供が栄養あるものを食べれていない状況を目の当たりにし、それ以降家族全員の食事を作るようになりました。みんなに喜んでもらえるよう、可愛い飾りつけや美味しくつくるコツなど料理を勉強することが、私の情熱になりました」
--「ミート・マイ・ママ」で働き始めてから、自分自身に変化がありましたか。
「『ミート・マイ・ママ』とは15~20回一緒にケータリングの仕事をしていますが、私にとって第2の家族のような存在です。20代の女の子の若いチームでみんな思いやりがあって、可愛らしくて…♡ 『ミート・マイ・ママ』と働くようになって、いろんな人と出会い、主人からも明るくなったと言われます。自分でも毎日が楽しくなったと変化を感じています。異国でこのような温かいチームと一緒に働けることは、本当にパリでの私の人生を大きく変えてくれました」
「移民のママ」がスポットライトを浴びる現場へ①
20 :30 イベント会場に“ママ”の料理が到着
この日開催されたイベントは、フランスの労働大臣や政府関係者が「パリの女性たちの声を聞く」というもの。会場は女性たちの熱気で溢れていました。
一方舞台裏では、ママが調理場で作られた料理が会場へ到着。アルバイトで参加していたスタッフたちと、届いた料理を仕分けます。スタッフの多くが20代前半の女性。みんなで冗談を交わしたり、和気あいあいとしたムードが漂います。
21 :00 料理をお皿に盛り付け、ビュッフェの準備
この日のママ、フジャさんが到着。イベントは盛り上がり、終了予定時間は延長。料理をビュッフェ台に並べていると、参加者は美味しそうな香りに誘われ料理をチェックしにやってきます。「レシピを教えて」など、様々な質問が飛び交いました。
「移民のママ」がスポットライトを浴びる現場へ②
22 :30 ママが参加者の前で自身の生い立ちや食文化をトーク
イベントが終了すると食事前にママの出番。労働大臣をはじめとする200人以上の参加者からの興味津々な視線を集め、フジャさんが登壇した。今までの人生、移民としてのパリでの生活、食への想いを語ると、参加者の女性たちも熱く聞き入ります。フジャさんが話し終えると、会場は拍手の嵐に包まれました。フジャさんの輝かしい表情が印象的。
22 :45 ママの手作り料理ビュッフェがスタート
ビュッフェがスタート。労働大臣も「とても美味しかったです」とママにお礼し、この日のお仕事は大成功!
フジャさんと「ミート・マイ・ママ」チームが、モロッコ特有の親しい人同士の挨拶となる愛情たっぷりのキスを頬で交わし終了。
ミレニアル世代だからこそつくれる「文化交流2.0」
“食”を通して「多文化共生社会」をつくろうと取り組む「ミート・マイ・ママ」。
ママが代々受け継いできた、愛とストーリーがたっぷり込められた“美味しい食事”を口にすることで、参加者たちにとっても、より移民のママたちを身近に感じるきっかけになっているよう。
このように日本でも女性特有の繊細さや思いやりを生かしながら、テクノロジーの力も借りることで、様々な切り口から社会を明るくする「起業」が増えたら素敵ですね!