自分自身と相手を大切にするための「性教育」。セックスやジェンダー、身体にまつわる正しい知識を知ることで、“誰もが尊重し合える社会をつくる重要性”を学べる分野と言えます。

しかし、学校の授業だけで性教育の本質がわからないまま、大人になってしまった人も多いはず。恋愛やセックスは、相手との関係性がより親密になるため、コミュニケーションの仕方も含め、あらためて性について学ぶ必要があるのではないでしょうか?

今回は、ドラァグクイーンとして性教育を発信するラビアナ・ジョローさんにインタビュー。性教育の課題や自分自身をどのように捉え、発信に反映しているのか――。パフォーマンスを通して考えてほしいことを伺いました。

ラビアナ・ジョロー

image
Photo by @toretate_club
性教育パフォーマー/セックス活動家

【INDEX】


気軽に性教育に
触れられる場を

――現在は、どのような活動をしていますか?

東京を拠点に、ドラァグクイーンとして活動しているパフォーマーです。そもそも「ドラァグクイーン」というのは、誇張された女性らしさの性表現を身に纏ってステージでパフォーマンスをするというもの。私はそこに性教育の要素を取り入れた、「性教育パフォーマー」と名乗っています。

パフォーマンスの他にも、SNSでの発信やイベントやトークショーの開催など、性教育をもっと多くの人に考えてもらうためのきっかけをつくっているところです。

――ドラァグで性教育を発信しようと思った理由を教えてください。

ドラァグクイーンの格好をすると、普段よりも興味や関心をもって見られているように感じていて、「この格好なら何かを発信したときに、みんな聞いてくれるかも」と思いました。

性教育は、自分も相手も大切にするために必要で誰もが関係のあることなのに、なかなか自分ごと化できていないと感じていて。なので、授業のような堅苦しい形式ではなく、もっと気軽に性教育に触れられるような発信をしたかったんです。クラブに遊びに来て私のパフォーマンスを見て、なにか感じてくれたら嬉しいですね。

あと、私はあえて脇毛も胸毛を剃っていません。昔は濃い体毛がすごくコンプレックスに感じていて、ずっと剃っていました。ところがあらためて「女らしさ・男らしさってなんだろう?」と考えたときに、どうして自分の体を傷つけてまで“女性は体毛を剃るべき”という社会の規範にのっとらなければいけないのかなと疑問に思ったんです。

instagramView full post on Instagram

自分の体や考えを無視してまで、社会では普通とされる“こうあるべき”に従う必要はあるのかと。そこから、あえて体毛を剃らなくなりました。

コンプレックスだった体毛を今ではポジティブに捉えていて、ヘアメイクをした顔と体のギャップに面白さを見出しています。

また、「どうして女性は毛を剃らなきゃいけないの?」と、考えるきっかけにもなるはず。一目見て「この人ってどんな人なんだろう?」と興味を持ってもらう、最初の入口になっているのではないでしょうか。

――どうやって性教育をパフォーマンスとして表現していますか?

周りにいる人と話しているときに、話題となる発言やSNSで注目されている議論をきっかけに、ショーにしたらおもしろそうなテーマを選定しています。テーマが決まったら、ストーリーを考えて曲を探してパフォーマンスを構成していく流れです。

過去に上演した「産後うつ」をテーマにしたショーは、とある議員がSNSで発言した「産後うつは甘え」という言葉がきっかけ。

「体調の問題であって、甘えではないのでは?」と違和感を覚え、産後うつやマタニティーブルーについて調べました。この発言に対する私なりの抗議として、争う気持ちを反映した作品になっています。

性教育=セックス
だけではない

――なぜ、性教育が大切なのでしょうか?

性教育をはじめて受けたのは、小学校5年生のとき。私はブラジル出身なのですが、ブラジルに一時帰国していたときに、コンドームをペニスの模型につけるという授業がありました。

当時教わった内容から、「性教育はセックスについて学ぶ教科」というイメージがありましたが、勉強すればするほど本当はもっと広いことに気づいて。

自分自身の体やメンタル、相手を尊重するという、生きていく上で必要な知識を学ぶのが性教育なんです。まずは自分自身を尊重してあげることで、他人を尊重できるようになる。加害者にも被害者にもならないための教育です。

コンプレックスも性教育の範囲に含まれるし、どんな恋愛をするのか、性的な関係を持つのかという範囲も全部ひっくるめて性教育だと思います。

――性教育の現場で課題に感じていることはありますか?

私はドラァグクイーンとしてパフォーマンスするかたわら、セックストイを扱う企業で会社員として働いています。社内で性教育を扱ったり、性にまつわる学会に参加しているのですが、最先端の知識を持つべき場所が、実はまだアップデートされていません。

セックスは「気持ちいい」か「正しい」のどちらか両極端になっていて、プレジャーと知識を分けて考えてしまっているんです。私自身は、気持ちよくて正しいことを大事にしたい。その二つのギャップを埋めていくことが一つの目標です。

たとえば、性教育の現場で「コンドームの付け方」のような動画がありますが、機能的にコンドームの使い方を説明するだけで、実際の場面を想定して制作されているわけではありません。

使い方自体は学べますが、実際には部屋が暗かったり、相手が動いてしまったり、動画通りにいかないことの方が多いですよね。もちろん、正しい知識を発信するための動画があってもいいんですが、現場に寄り添ったものも必要だと思います。

実は、「ちょっとエッチな雰囲気で性的同意を取る方法」みたいな映像の制作を企画しています。性的な行為をする前に、自分と相手の意思を必ず確認しなくてはなりませんが、そこまでの雰囲気や会話、行動を全て止めて「すみません、手をつなぎたいんですけど…」とは、なかなか言いづらいですよね。

同意や対等な関係性を維持しつつ、合意をとる行為はそんなに難しいことじゃないよと伝えていきたいです。

自分の特権性を考えて
見えるもの

――パートナーと対等にコミュニケーションを取るために、大切なことはなんですか?

関係性や人によってコミュニケーションの方法や価値観が違うので一概には言えませんが、SOSを求められる場所を作っておくことが大事です。自分が無理してリレーションシップを続けようとするのは、対等な関係とは言えません。

また、本人がどんなに気をつけたとしても、恋をしていると現実を直視できなくなってしまうこともあると思います。DVと呼ばれるような行為をされたとしても「これが愛だ」と、冷静になれないときもあるでしょう。

そういった状況を防ぐために、友人や周りにいる人と頻繁にコンタクトをとって、違和感に気付けるような関係性をパートナー以外に作っておくことも大切です。

あとは、自分の特権性について考えるようにトレーニングを積むと、相手の視点に立ってコミュニケーションが取れるようになります。特に日本では男性優位的な価値観がまだ残っていて、恋愛においても相手の視点に立てないことがあると思うんです。

ジェンダーに関係なく言えることですが、誰もが特定のカテゴリではマジョリティであっても、別のカテゴリではマイノリティになることもあるはず。

自分の特権性を知れば、身の振る舞い方や相手との距離感もわかる。社会に置かれている立場を理解することで、初めて相手に寄り添ったコミュニケーションができるようになると思います。

――ラビアナさん自身の特権性について、どのように考えていますか?

私自身、ブラジル出身の外国籍で、日本人と比較するとマイノリティですが、出生時に割り当てられた性別は男性で、普段は男性として生活をしています。

私が生活してきた環境では、女性よりも男性の方が特権があると感じていて。会社のなかで、たとえ同じ内容を主張していたとしても、他の女性社員より男性である自分の発言の方がすんなりと受け入れた経験がありました。

身体的な特徴でいうと、私は支障なく生活ができる特権性があると思っています。車椅子を利用している方は、電車を乗り継ぐルートを確認したり、駅のホームにエレベーターが設置されているのかを確認する必要がありますよね。

私は自分の特権について考えるようになって、自分と異なるカテゴリに属する人たちが不快なく日常生活が送れているのかどうか、普段から意識するようになりました。

実際に自分が発信する立場で、クラブでイベントを開催するときは、バリアフリーの観点も含めて、どのようにしたら誰もが来やすい環境になるのか考えるようにしています。

特権性について考えるようになったのは、外国人のシングルマザーの元で育った環境が影響していると思っていて。子どもの頃はあまり意識していませんでしたが、当時当たり前だったことを思い返してみると、あんなに大変であるべきじゃないことだったと、今ならおかしいと思える節があるんです。

そういった幼少期の経験が、特権性を考えるようになったきっかけです。

性教育を知る
はじめの一歩に

――ラビアナさんのパフォーマンスや発信を見て、どのように感じてほしいですか?

やっぱり自分で体験して生まれるものでしか表現できないので、あくまでも“一個人のアート”として捉えてほしい。私の表現や発信がすべてだと鵜呑みにせず、性教育を考えるきっかけとして見てほしいです。

0から1になることをすごく大事にしているので、「今まで知りもしなかったけど、考えるようになりました」という言葉をいただくと自分がパフォーマンスをする意義を感じます。

日本の教育では、あまり考えるきっかけを与えられないので、私の発信が性教育について知るはじめの一歩になればいいなと思います。

――今後の目標や将来のビジョンを教えてください。

ずっと目標にしていたイベントがようやく開催できました。これからも、居場所がないと感じている方々に、居場所を提供できるようなコミュニティを作っていきたいです。

支援団体や助けが必要だけど、どうしていいかわからない、なかなか辿り着けない方の架け橋になるような、みんなが気楽に参加できるイベントをしていきたいです。

TEDトークにでるのも昔からの夢。あとは、踊れる限りステージでパフォーマンスを引き続きしていきたいと思っています!


PRIDE MONTH特集をもっと見る!

 
cosmopolitan / getty images