自身がLGBTQ+当事者であることから、「ジェンダー問わず、誰もが居心地良く過ごせるような空間作りを大切にしている」という美容師のKAHOAIRIさん。幼い頃から感じてきた美容室での“性別の壁”を変えたいというKAHOさんの想いから、パートナーのAIRIさんと一緒に2021年4月からフリーランスの美容師として活躍中。

二人が作り出すLGBTQ+フレンドリーな空間は、当事者のみならず多くの人に愛されており、YouTubeチャンネル『【KAHOAlRI 】セクマイ美容師カップル』にアップされている仕事中の様子を捉えた動画には、笑顔で二人のサロンを後にするお客さんの姿が映っています。

そんなKAHOAIRIさんに、どのようにLGBTQ+フレンドリーな空間を作っているのか、また二人が目指す先について聞いてみました。

instagramView full post on Instagram
KAHOさん(左)、AIRIさん(右)

――まず最初に、LGBTQ+当事者の方でも過ごしやすい美容室を作りたいと思ったきっかけを教えてください。

KAHO:今は二人でフリーランスとして場所を借りて活動しているんですけど、以前は私もAIRIも同じ会社に所属していて。入社当時から当事者だった私にとっては、お客さまと職場の人全員に嘘をつきながら“偽りの自分”で仕事をしていることに、悔しさとどこか窮屈な想いをしていたんです。「美容師=表現者」としての自分の思い描いていた世界と違う現状に、心から楽しめなかった――そんな自分にすごくモヤモヤしていた時期がありました。

なのできっかけの1つは、自分の生きていく道筋を守るためでもあったのです。それと幼い頃から美容室で感じてきた“性別の壁”を変えたいという想いがあって、そのこともきっかけになりましたね。

AIRI:私はストレートだったんですけどKAHOと付き合って、ずっと当事者の一人として自分の考え方や想いをSNSで発信している姿をそばで見ていて。自分のためだけじゃなくて、誰かの助けになればと生きていくっていうのがすごくかっこいいなって思ったんです。

KAHOがこれまで経験した辛いことや、うれしいことを一番近くで見て聞いてきたから、私も一緒に協力していきたいなって。

――実際にKAHOAIRIさんのサロンでは、どういうことを意識していますか?

KAHO:接客や施設の面ではすぐに変えられるんです。お手洗いだったり、雑誌もタブレットに変えて好きなものを選択してもらったり。ヘアカタログはメンズとレディースで分けられているので、私たちは使用していないです。多くのサロンが使用している某販促サイトも、レディースヘアとメンズへアで掲載を分けなくてはいけないので、私たちはInstagramやYouTubeのみで集客をしています。

最近、メンズ特化型サロンなどと打ち出しているところが「女の子でも男の子のようにかっこよくなれる!」などの投稿をしているのをSNSで見ることが増えたんですけど、私たちは“髪型を性別で分ける”というのに少し違和感があって。

私たちは、よくある「男は男らしく、女は女らしく」っていうステレオタイプにとらわれたくないんです。お客さまを性別で判断するのではなく、ひとりの人間として向き合っています。

--“なりたい自分”に寄り添ってくれるのは、お客さまにとってもすごくうれしいことですよね。

KAHO:私たちは当事者の人たちも居心地がいいサロンを目指していると言っているんですけど、何が居心地がいいかってお客さまが決めることじゃないですか。お客さまも大きく分けて2つのタイプの方がいると思っていて。

1つは、パーソナルな話に触れられたくないとか、話しをせずに過ごすのが居心地がいいと感じる方。もう1つは、周りに当事者の方がいないから、私たちに相談したいという方。だいたいこの2つのタイプの方がいると感じています。

でも私たちのところに来てくれるお客さまは、後者のタイプのほうが多いですね。話したいという気持ちで来てくれる方が多いかな。初めましての方とセクシャリティのお話しをしても偏見もないですし、私たちでよければ相談に乗りたいし話も気軽に聞きたいんです。

――実際どういうお話しをすることが多いですか?

AIRI:恋愛についての相談が多いです。どこで出会ったらいいですか? とか、これから恋愛したいんですとか。

KAHO:恋愛トークは結構ありますね。あとは、親にも誰にも言わずに予約して、私たちのところに来てくれた高校生の方もいました。「誰にも言えないんだけど、KAHOAIRIさんに話したいっていうか、聞きたいことがあって…」と来てくれる方も。そういう風に、ある意味勇気を出して来てくれた方もいますね。

でも来てくれるお客さまの中には、もちろんストレートの方もいて。私たちが「同性カップルです! LGBTQ+のお客さま限定でやっていきたいんです」という感じではないので、当事者でない方たちも来てくれて、私たちのような当事者は身近にいるんだよと知ってくれるきっかけになってくれるのがうれしいですね。

私たちはショートヘアが得意で。美容室もたくさんあるので、オールマイティーに美容師さんが何でもできるというよりかは、なりたい自分に合わせて美容院も選ぶ時代。なので私たちのところには、ショートヘアが好きだったりクールな雰囲気が好きな方が来てくれています。

――「KAHOAIRIさんだから話したい!」と言われることにはどう感じていますか?

AIRI:すごくうれしい反面、その分責任も感じます。その方にとって自分のセクシャリティについて話すのが初めてのことだったら、もしかしたらその方の人生を変えるかもしれない――そう思うと決して軽い気持ちで話せないですし、自分の中でちゃんと考えて話すようにしています。でもそう言ってもらえるのは、本当にうれしいですね。

KAHO:やっぱり私たちにとっては、そういう想いで来てくれた方がいることが仕事においてのやりがいや、人生の生きがいだったりするので。髪型で満足してもらうのは美容師として大前提のことだけれど、プラスアルファでその人の内面的なところを少し前向きにできたり、自信がついて勇気が持てるようになってもらえたりするのがすごくうれしいです。

好きな人に告白する前に来てくれたり、同性カップルで結婚式を挙げる前に来てくれたり、親にカミングアウトするからその前にバッサリ切りたいと来てくれた方もいました。お客さまの人生の大事な場面に関われるというのも、美容師ならではのことなのかな。

――二人でやっていて良かったなと思うことを教えてください。

KAHO:技術面でいうと、AIRIはハイトーン、私はパーマが得意で。お互いの強みである技術を共有して高め合えるっていうのが、二人でやっていて良かったと思えることですね。

あとはフリーランスでやってるので、やりたいことや仕事の幅が広げられることにワクワクしますね。

AIRI:一人だと行動しにくいところでも、二人ならすぐ行動できることもある。自分たちで判断して新しいことにチャレンジできるのは、今まで以上に責任感も強く生まれるし、いいことだなと思います。

――二人でフリーランスになろうと思った理由は?

KAHO:美容師という肩書きだけに留まらず、色んなことに挑戦したいという気持ちがあり、フリーの方が自由に活動しやすいと思ったからです。

AIRI:ちょうど新型コロナウイルスが流行り始めた頃、自分たちの今後についてかなり話し合いました。美容室が都内にあるということもあり、行きたくてもご時世的に難しい方に私たちに何ができるのか、何が届けられるのか…。

お客さまの来店が半分以下になってしまったとき、そしてお店が休業することになった2週間ちょっとの空いた時間を、すべてYouTubeの動画制作に捧げました。実際にお店に来れなくても、動画を通してみなさんとつながることができ、さらに自分たちの想いを発信できる。

そして未来につながることを考え、時間をより有効に使えるフリーになる道を選びました。

――KAHOAIRIさんなら、働く方にとってもいい環境を作れそうですよね。

KAHO:確かに私たち当事者だからこそ分かり合える部分もあると思います。「LGBTQ+フレンドリーって言っていたら“今っぽい”から」とか、「ジェンダーフリーというワードに話題性があるから発信しよう」など、そういった安易な考えはとても危険です。そして、人の価値観を変えることは難しい。

たとえば、部下である当事者がLGBTQ+について何も知らない上司にカミングアウトするのは、ものすごく勇気がいることです。けれど、たとえLGBTQ+について知らなかったとしても、柔軟に、そして心に寄り添う表現や対応はできるはず。

自分たちが生きづらかった環境を繰り返すのではなく、誰もがイキイキと働ける環境を作っていきたいですね。

KAHO:私たちのところには美容師のアシスタントの方も来てくれるんですけど、会社で“性別”を強く押し付けられたり、上司の発言で傷ついたり、そういったことをよく聞きます。

私も美容業界はすごくクリエイティブな世界だし、他の職業に比べて見た目に対しては自由が利くと思ってたんです。でも実際は「女の子なのに髪を伸ばさないの?」とか、「メイクしないの?」と言われることもあって。

――当事者の方だけでなく、“誰もが”過ごしやすい・働きやすい環境ということですね。

KAHO:そうですね。以前テレビで取材をしていただいたときに、「LGBTQ+美容室」と紹介されて。私は、“LGBTQ+コミュニティだけが盛り上がっている”みたいなのが嫌なんです。 非当事者やアライの人たちを巻き込んでいくことに、意味があると思います。

――AIRIさんはどのようなことを伝えたいですか?

AIRI:誰かに媚びるんじゃなくて、自分が生きたいように生きてほしいなって思います。私は以前から自分の個性を第一に服を選んできたので、いわゆる一般受けしない服装のことで先輩に注意されたこともありました。

でも自分がしたい服装や髪型でいれば、自信も湧いてくるし自分のことも好きになれる。そう思えたら、周りにいる人たちにも愛を注ぐことができたり、優しくできたり、相手の好きなところをいっぱい見つけられたりするんじゃないかな。だから私たちは美容師として、そういうお手伝いができたらいいなと思います。

――「媚びない自分でいいんだ」と思えたきっかけを教えてください。

AIRI:KAHOと付き合ったからというのが大きいですね。私はもともとストレートだったけど、男受けしない格好が好きで。でも恋人ができない原因は見た目にあると思って、そこを変えないと恋人ができないんじゃないかと思ったんです。

女の子っぽい服を着て生活した時期もあったけど、KAHOに出会って「ありのままでいていいよ」って言葉をかけてくれて“私自身”のことをすごく好きになってくれた。見た目とか関係なく、自分のことを好きになってくれる人がいてくれたら、無理に変える必要なんてないんだなって思って。

だから本当にKAHOのおかげですね。KAHOが「その髪型もファッションも、一体誰のためにやってるの? AIRIには自分がいたいようにいてほしい」って伝えてくれて、私自身のことを好きでいてくれるから、自分も好きな格好ができるというか。

KAHO:AIRIって本当に自分のことが好きなんですよ(笑)。でも私は自分の内面や見た目もなかなか好きになれずにいて。けれどAIRIと付き合ったことで、自分のことを好きになれたし、それで性格もポジティブになっていきましたね。

――最後に、今後どのようなことをしていきたいですか?

KAHO:美容師は表現者だったり、クリエーターだと思っていて。自分の持っているスキルや想いを目に見えるものとして形にし、発信することは、私たちにできることの一つだと強く感じています。なので最近はYouTubeでイメチェン企画に力を入れて、直接会えなくても動画を通して一人でも多くの方に、自信や自分らしく変われるきっかけを届けられるよう頑張っていきたいです。

AIRI:「私たちの美容室に来なきゃ、なりたい自分になれない」っていう風にはしたくなくて。どこの美容室に行っても、なりたい自分になれる――そんな美容室が増えるのが一番いいなと思っています。

もちろん「一緒に働きたい」って言ってもらえることもうれしいです。でも地方にいる美容師さんが私たちを見て、「こういう美容師がいるんだ。自分もこういう活動をして広めていきたい」って思ってもらえたらよりうれしい。みなさんのロールモデルになれるように発信をし続けたいと思います。


■SALOWIN原宿 IL Salice

住所:渋谷区神宮前1-14-21イルサリチェ2F
TEL:03-6447-5573

予約はこちらから