デジタル化が進み、ウェブサイトやSNS上でもさまざまなブランドの広告を目にする様になった昨今。しかし、女性の健康についてなどの社会の進歩を促す情報に対して制限がかかっていることが問題視されている。

女性の健康に関する情報は“性的なもの”なのか?

豊富なブランドの広告を目にするようになった一方で、ブランドメッセージが不適切なコンテンツの隣に表示されないよう、厳しい基準とアルゴリズム(問題を解決するための処理方法や計算方法)を導入している「ネットワーク広告」。

フェムテックと女性の健康に関するあらゆるイノベーションを紹介するメディアである<Femtech Insider>は、このようなアルゴリズムやガイドラインにより、社会の進歩を促すコンテンツを知らず知らずのうちに損なっているのではないかと疑問を投げかけた。

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同メディアは、フェムテックの最新情報や女性や子宮をもつ人ならではの病気についてなどのコンテンツを熱心に発信しているにもかかわらず、Google パブリッシャー向け制限コンテンツに引っ掛かるとして「安全ではない」とみなされ、ネットワーク広告が表示されずにいるとのこと。

Google パブリッシャー向け制限コンテンツとは

  • 性的なコンテンツ(成人向けのおもちゃや性行為のヒントなど)
  • 衝撃的なコンテンツ(暴力行為を描写するコンテンツなど)
  • 爆発物に関するコンテンツ
  • 銃や銃の部品と関連商品に関するコンテンツ
  • その他の武器および兵器に関するコンテンツ
  • タバコに関するコンテンツ
  • 危険ドラッグに関するコンテンツ
  • アルコールの販売や乱用に関するコンテンツ
  • オンライン ギャンブルに関するコンテンツ
  • 処方薬に関するコンテンツ
  • 未承認の医薬品やサプリメントに関するコンテンツ

<Femtech Insider>の創設者兼CEOのキャサリン・フォルケント氏は、この問題についてこのように綴っている

「これを読んでいる多くの方はご存知の通り、フェムテックとは、テクノロジーやより広範囲なイノベーションを利用して女性の健康問題に取り組むことに特化した急成長を遂げている分野です。そしてこの用語は、妊活に関するソリューションから生理周期のトラッカー、さらには文化的なサポートをするものから、ジェンダーに関連した健康格差について議論するプラットフォームまで、幅広い製品やサービス、プラットフォームを包括しています」
「しかしこのような議論の本質は、月経や生殖に関する健康、セクシャルウェルネスといった話題に触れることが多い。つまり、「ブランドセーフ」なアルゴリズムに意図せず抵触する可能性があります。それはとても皮肉なもので、がっかりもする。社会の進歩や教育を促し、タブーを取り払うよう企画されたコンテンツは、どうやらブランドにとって“安全ではない”と考えられているようです」
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Prostock-Studio//Getty Images

過度な検閲がもたらす影響

フォルケント氏は、ブランドセーフティ(広告が適切なWebサイトで表示されていること)に込められた意図は理解できるものの、それによって“重要な会話”を阻害しかねないと問題を提起している。そしてこのような過度な検閲によって、さまざまな影響を及ぼすと述べている。

同メディアのようにフェムテック関連の分野で事業を展開する出版社やプラットフォームは、広告収入に頼らざるおえないため、ネットワーク広告へのアクセスを拒否されてしまうと財政的に打撃を受け、これらのコンテンツ制作が減ったり、最悪の場合はサイトを閉鎖する可能性も。

さらに、フェムテックやセクシュアル・ウェルネスのコンテンツが収益化される場や方法に制限を設けることで、本質的な会話が消えてしまう危険性があり、“社会の進歩を促して差別や偏見を払拭し、幅広い層の人々を教育する可能性のある議論”が抑圧されてしまうと指摘。

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anna42f//Getty Images

そして、「女性の健康に関するトピックを遠ざけ、“ブランドセーフティではない”とラベリングをすることで、これらのテーマを取り巻く古くからの差別や偏見をいつまでも消し去れない」と綴っている。

女性の健康に関する広告は未だ検閲されている

2023年7月、<Forbes>は「女性の健康を取り扱う企業は、SNSから地下鉄の駅に至るまで、広告において苦しい闘いを強いられている」と報道

非営利の社会変革団体である「インティマシー・ジャスティスセンター(CIJ)」は、2022年1月に発表された報告書のなかで、女性や多様なジェンダーの人々のためのヘルスケアに焦点を当てた60の企業が、メタ(旧フェイスブック社)に広告掲載を拒否されていたことを明らかに。

問題となったのは、搾乳機、子宮内膜症、更年期障害、性的同意、セクシュアル・プレジャー(性行為やセルフプレジャーで得られる性的快感)など、さまざまな健康状態や問題に対する教育や製品、サービスを取り上げる広告だったとのこと。さらには、「膣」「膣の健康」「更年期障害」「産婦人科」などの単語を含む広告でさえも、“アダルトコンテンツ”または“性的快楽”を宣伝するものであるとして却下されたという。

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しかし、コンドームや勃起不全(ED)、さらには早漏の広告は承認され、掲載が許可されているという事実も。これらの広告は、“性的快楽”ではなく“家族計画”に焦点を当てているという理由から、当時のメタ社の広告方針に合致していたとのこと。

その結果、男性や男性器をもつ人に必要な健康に関するニーズへ取り組むのは「家族のためになる」が、女性の場合は単に「本人の喜びのためである」という“ダブルスタンダード(二重基準)”が生まれた。

広告ポリシーが変更されるも残る課題

CIJの調査結果が発表され、<The New York Times>などが記事で取り上げた後、メタは2022年秋に広告ポリシーを変更。18歳以上のユーザーに対して、性に関する健康、ウェルネス、リプロダクティブ関連製品およびサービスを宣伝する広告の掲載を許可している。

しかし2023年7月、広告ポリシーが変更されたにもかかわらず、「女性や多様なジェンダーの人々に対するセクシャルヘルス製品やサービスを差別的に扱い、その結果広告を拒否をされ、さらにはプラットフォームから追放された」とCIJはメタを提訴していたことを発表

実際に、いくつかの企業が広告を却下されていることが報告されており、新しい広告ポリシーが必ずしも現実的でないと指摘している。

またセクシャルヘルス企業の「Awkward Essentials」は、果物などで身体のシルエットや女性器を表現し、女性の健康広告に対するアルゴリズムのバイアスを回避することに成功しており、同社はこのような問題に直面している企業に向けて、いくつかの広告の回避策をInstagramのリールで共有している。

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企業だけでなく消費者側にも影響が

女性の健康に関する広告やコンテンツを検閲しているのはメタだけではなく、リンクトイン、アマゾン、またドラッグストアなどでも起きているとのこと。

SNSやショッピングサイト、ドラッグストアで広告や製品を目にすることで、売上や収益につながるものの、それらが拒否されれば女性や多様なジェンダーの人々の健康について取り扱う企業が、事業を存続できなくなってしまう可能性も。

またこの検閲により影響を受けるのは、企業だけではないという。 ユネスコが行った調査によると、調査対象となった若者の29%がリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)やセクシュアル・ヘルスに関する情報にアクセスする最も一般的な方法としてインターネットを挙げている。

言葉を置き換えて検閲を回避することはできるものの、消費者側の理解を妨げてしまう可能性もあると指摘。しかし、誰もが理解しやすい画像や言葉を広告で使用すると拒否されてしまうため、正しい教育や情報を必要としている人に届かず、八方塞がりであるという状況に置かれている。