自閉症でバイセクシャルであることを公表し、自身の経験をもとにした著作でも知られる著述家・活動家であるエリン・イーキンスさん。現在はLGBTQ+に関する学校教育の改善を目指すチャリティ団体「Just Like Us」と協力し、自閉症でLGBTQ+のティーンエイジャーやその親たちの支援に取り組んでいます。

そんなエリンさんが語った、LGBTQ+で自閉症であるという自身のアイデンティティを受け入れることの難しさや、当事者を取り巻く現状について、<コスモポリタン イギリス版>からお届けします。

自閉症の人々の35%がLGBTQ+を自認

私が初めて女性とデートしたときの感想は、「クィアコミュニティの一員であることを認識して安心できた…というようなものではありませんでした」と、イーキンスさん。

後に自閉症と診断され、その理由がはっきりしたと言います。

「自分が自閉症であることを知らなかったため、うまくいかなかったんです」

その経験から、若い世代の人々が自身のアイデンティティを受け入れるための支援をしたいと思うようになったのだとか。

ある調査によると、自閉症の人々の35%がLGBTQ+を自認しているとのこと。それにもかかわらず、自閉症やその他の障害を抱えた人々のセクシュアリティについてはあまり語られることがなく、人々の理解も進んでいないと言います。

こうしたギャップを埋めるためにイーキンスさんが執筆したのが、『クィアで自閉症:自閉症スペクトラムのLGBTQIA+ティーンのための徹底ガイド(原題:Queerly Autistic: The Ultimate Guide for LGBTQIA+ Teens on the Spectrum)』でした。

デートの際にイーキンスさんが感じた居心地の悪さ――たとえば、特定の環境で五感の一部に苦痛を感じたり、バーに行きたくないと思ったり、自閉症であることをカミングアウトできなかったり…といったことは、当事者の誰にでも起こりうるもの。

同著を通してイーキンスさんが伝えたいのは、セクシュアリティの探求には、デートに行く以外にも方法があって、無理に居心地の悪い思いをする必要はないということ。それは、「自分が成長の過程で読みたかった本」でもありました。

「若い人たちに、アイデンティティの探求を急ぐ必要はないと伝えたかったんです。色々な可能性を試してもいいし、途中で変えたっていいし、あるいはずっとわからないままででいてもいい。セクシュアリティやジェンダーは、それほど単純でないことがほとんどだけど、私のような自閉症の人間は、『これが自分だ』と言えるようにしなければならないと、自分にプレッシャーをかけてしまう傾向が強いんです」

LGBTQ+であり自閉症である当事者が数多くいることの理由は明らかになっていないものの、イーキンスさんは自身の仮説として「私たちはそもそも社会のルールや常識にとらわれていなかったり、なぜそのような前提があるのかピンとこなかったりするので、その点でより柔軟で流動的なのかもしれません」と話しています。

差別や反論を受けることも

「自閉症とセクシュアリティ、ジェンダーの重なり合うところについて話したいんです。そこには認識されていないオーバーラップがあることや、そのなかでの自分自身の経験について話したいと思っています」とも語っている、イーキンスさん。

一方で、自閉症の子どもたちが自己認識を持つことを受け入れない人々から批判を受けることもあるそう。

「自閉症の人々が何らかのセクシュアリティ(性的指向)を持っているという考えには、必ずといっていいほど反論があり、それがクィアとなるとその声は2倍にも3倍にもなります。自閉症の人々にもセクシュアリティや性的な関係はある、と説明するのは大変なんです。ストレートでもそうですから、クイアとなればなおさらです」

LGBTQ+で自閉症の人々について書かれたものについては、しばしば当事者の経験に基づいていないものも存在します。

たとえば、『ハリー・ポッター』の原作者であるJ・K・ローリングが書いた反トランスジェンダー的な文章の中では、「自閉症の子どもたちを引き合いに出し、あたかも自閉症であることが“これが私だ”と言える自主性や自己認識を持たないことを意味するかのように表現した」と、イーキンスさん。

これは自閉症の子どもたちだけでなく、トランスジェンダーの子どもたちの選択にも悪影響を与えうると言います。

「その文章で彼女が言いたかったのは、『これは明らかに真実じゃない、だって自閉症者は自分が欲しているものが分からないんだから』ということのようです。それは身障者差別とトランスジェンダー嫌悪を兼ねているのですから」

自閉症の当事者を“子ども扱い”する傾向は、Netflixのリアリティ番組『ラブ・オン・スペクトラム ~自閉症だけど恋したい!~』や、自閉症の男の子に不妊治療を受けさせたがる母親を描いた『To Siri, With Love』などにも見られるとイーキンスさん。

自閉症を持つ当事者それぞれにセクシュアリティがあり、アイデンティティを認識しているという事実は理解されにくく、そういった考えを強化する研究者すら存在すると言います。だからこそ、イーキンスさんはこうした傾向を変え、当事者をサポートすることを仕事にしているのだそう。

実はイギリスでは、10代のLGBTQ+当事者をめぐる状況は以前よりも改善傾向にあるそう。たとえば、イーキンスさん自身が通っていた女子校は、当時とは打って変わり、今では国内有数のインクルーシブな学校に選ばれているのだとか。これは学校側が自ら動いたわけではなく、生徒たちがLGBTQ+コミュニティのクラブを立ち上げ、学校に変化を迫ったことがキッカケだったそう。

「数人の若者が、これだけの変化を起こしたことに驚きます。私が若い頃とは違うんです。友達やそのきょうだいを見ると、自分たちのコミュニティやクィアグループを持っていて、素晴らしいと思う。私がバイセクシュアルという言葉を知ったのは16歳のことでしたから」

とはいえ、まだまだイギリス社会における改善の余地はあると話すイーキンスさん。

「地図があったわけではないので、私がここにたどり着くためには努力が必要でした。だからこそ、今を生きる若者たちにその道すじを教えてあげたいんです」

※この翻訳は、抄訳です。
Translation:mayuko akimoto
COSMOPOLITAN UK