著名人やSNS上で活躍するインフルエンサーらの発言や発信は、いまや大きな社会的インパクトをもつようにもなっています。自分が応援している人の配慮のない発言にガッカリしたり、複雑な思いを抱いたことがある人もいるのではないでしょうか。

一方で、発信をする人が知識をアップデートしたり、改めて学ぶ機会だってまだまだ必要です。そこでハースト婦人画報社が立ち上げたのが、インフルエンサーとエディターがともに学ぶプロジェクト「Social Echo Club」。

第1回目は、3月8日の国際女性デーを見据えて、コスモポリタン日本版とウィメンズヘルス日本版が媒体の垣根を超えてコラボレーションを実施。オフラインのイベントでは、プロジェクトに賛同したモデルや俳優、フィットネストレーナー、アクティビストなど約20人が文喫・六本木店に集まりました。

イベントでは、日本のジェンダー平等の現在地についての講義や、社会的意義をもって発信することの重要性について語るパネルディスカッションを実施。このレポートでは、プログラムの内容や参加者たちの感想などをお届けします!

Hearst Social Echo Clubについて

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Ada daSilva

「Hearst Social Echo Club」は、日ごろからSNSの投稿やコンテンツ制作などに関わるインフルエンサーやエディターが、ともに正しく学び、価値観をアップデートしていく場として、ハースト・デジタル・ジャパンから発足したプロジェクト。

識者を招いたセミナーや発信者同士のパネルディスカッションを通して、多様性や公平性を意識した発信方法を学び、より良い社会に向けて責任ある発信に活かすことを目的としています。

公平な発信を期待する声が多数

インフルエンサーやメディアに対して、読者はどんな思いをもって、どんなことを期待しているのかを調査するために、 コスモポリタン日本版とウィメンズヘルス日本版で事前にアンケートを実施しました。

その結果、回答者184人のうち92.4%がインフルエンサーやメディアの社会に対する姿勢や意見を聞いて「好感をもったことがある」と答えた一方で、190人のうち80.0%は「傷ついたり、ガッカリしたことがある」と回答。

また「メディアとインフルエンサーの発信に期待することは?」という質問に対しては、発信力を生かし、公平な発信を求める声が多く寄せられました。

  • 「コントロバーシャルな問題について、完全に避けるのではなく、正しく学んだうえで発信してほしい」
  • 「偏見や差別のない情報を発信してほしい!!」

※Instagramストーリーで行ったメディアとインフルエンサーの発信についてのアンケートから。調査期間:2月14日(水)、調査対象媒体:Cosmopolitan, Women's Health、回答数:平均約190人

多くの読者がファンたちが、「誠実さ」や「公平さ」、「正確さ」が伴う発信を求めていることが感じとれる結果となりました。

ジェンダー平等の現在地とは

前半のプログラムでは作家のアルテイシアさんを講師に迎え、「国際女性デーに考えたいジェンダー平等の在り方」を解説。ジェンダー平等を理解するための基礎知識から、日本のジェンダーに関する現状などを語りました。

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Marisa Suda
作家のアルテイシアさん

会社員を経て、2005年に作家としてデビューしたアルテイシアさん。フェミニズムについて書きたいと思っても、需要がないと掛け合ってもらえなかった当時を振り返ると、フェミニズムに関する執筆や講演依頼が激増した現在に「時代の変化を感じる」と話しました。

「2017年、伊藤詩織さんの告発があり、全国各地にフラワーデモが広がり、MeToo運動という大きな波が日本に押し寄せました。これはSNS等を通じて、ジェンダーやフェミニズムの専門家ではない、一般の女性たちが声を上げる『第4波フェミニズム』の象徴といえるもの」

若い世代ほどジェンダーへの関心が強く、大学でもジェンダーの授業は人気があるそう。「今やジェンダーは必修科目だと感じます」と語りました。

「ジェンダー平等ってまだ必要?」

大学などでジェンダー平等について話しをすると「女性差別はまだあるんですか? 」と疑問を持つ学生も少なくない、とアルテイシアさん。

「日本はジェンダーギャップ指数が146カ国中125位と、過去最低順位を更新するジェンダー後進国なんです。性差別の強い国や環境にいる人ほど、性差別に気づきにくいというのも事実。ジェンダーギャップ指数のなかでも、日本は経済分野で123位、政治分野で138位と非常に低いのが現状です」
a group of people sitting in a room
Marisa Suda

日常にジェンダーの視点を取り入れる

影響力がある人は、見ている人を傷つけてしまうこともあれば、自分も言葉によって傷つけられてしまうこともある境遇にいるもの。講義の終盤では、ジェンダー平等を日常に取り入れるための実践的な話として、気を付けたい言い回しや自分を守るための言葉の“護身術”を伝授しました。

講義のあと参加者からは、その国で暮らす人の幸福度とジェンダー平等の関連性に驚く声や、アルテイシアさんのアドバイスが腑に落ちた、といった感想が寄せられました。

a group of women sitting on a couch
Marisa Suda

発信者のあたまの中:社会について話すとき

後半のプログラムでは、「ジェンダー平等」を軸に発信をつづけている3名を迎えたパネルディスカッションを実施。みたらし加奈さんと和田彩花さん、大野真友さんと共に、社会的な発信をする意義と発信する際の注意点などについて考えました。

a group of women posing for a photo
Marisa Suda
  • 和田彩花さん
    アイドルグループ「アンジュルム(スマイレージ)」の初期メンバー・リーダー。現在はアイドルの労働環境やフェミニズムに関するオピニオンリーダーとしても活躍。発信している主なトピックは、アイドルと労働問題、ジェンダー、フェミニズムなど。
  • みたらし加奈さん
    臨床心理士・公認心理師。性被害や性的同意に関する情報を発信するNPO法人「mimosas(ミモザ)」代表副理事を務める。発信している主なトピックは、ジェンダー平等、メンタルヘルス、LGBTQに関すること、SRHR、性的同意、性被害、政治など。
    • 大野真友さん
      フリーランスフォトグラファー・アクティビスト・インフルエンサー「GirlUpTokyo」元共同代表。現在は「be the light MGU」代表を務める。発信している主なトピックは、SRHR, ジェンダー平等、女の子の教育、サステナビリティ、動物実験、ヴィーガン、LGBTQ+など。

    より良い発信のためにできること

    パネルディスカッションでのトークテーマは、以下のとおり。日ごろから社会についてそれぞれの立場から考えているからこその、三者三様な意見がとびかいました。

    • 発信のもととなる情報の集め方
    • 社会的な発信をしてきたことで感じた身近な変化
    • 社会的なメッセージを発信する際に気をつけていること
    • 他者の投稿をリポストしたり「いいね」する際の判断基準
    • 戦争や震災など予測ができない惨事が起きた際の発信方法
    • 誤った情報を広げてしまったときや、発信によって傷つきを生んでしまったときの向き合い方
    • 広告など有償での発信を依頼された際の判断基準

    発信をする際はファクトチェックには時間をかけている、という大野さん。ジェンダー平等やLGBTQ+、サステナビリティなどの社会派トピックスについて発信をする「GirlUpTOKYO」での投稿ではもちろん、個人として広告を含む案件を引き受ける際も「自分が発信したいメッセージと合うかどうか、信念と合うかどうかなど、自分で決めたルールをもとに決めている」と言います。

    「たとえば以前、再生可能素材を使ったスマートフォンカバーの案件の相談があったのですが、それは断りました。なぜなら私はすでにカバーをもっていて、いくらその商品がいいものだとしても私は今のものを使わない、もしくは捨てることになってしまうから」(大野さん)
    a group of people sitting in a room
    Marisa Suda

    「いいね」やリポストで気をつける点

    性的同意について、その大切さなどを伝える講演会などにもよばれたり、LGBTQ+当事者として話をすることも多いというみたらし加奈さんは、多様な立場にある人を想像した言葉選びが基本にある発信を行っています。

    無言での他者の投稿のリポストや「いいね」は、その意見に同意として捉えられることが多い昨今。そこで、どういった基準で「いいね」やリポストをするかという点について、自身の“ルール”を次のように伝えました。

    「投稿者の普段のSNS投稿やいいね欄などを見るようにしています。フェミニズムの文脈での発言に賛成できても、トランスジェンダーやクィアなコミュニティに対してのスタンスが合わないことも。投稿の一次情報がどこなのか、という点にも気をつけます。最近は、いいねやリポストをする前に、 Xのブックマーク機能も活用しています」(みたらしさん)

    これには大野さんも共感し、「仮に異議を唱えるために引用リポストをするとしたら、拡散に加担しないよう、投稿のスクリーンショットを添付して意見すると思います」と補足をしました。

    “間違い”との向き合い方

    自ら学び、アップデートしつづけていても、それでも何かのきっかけで間違えてしまったり、結果的に傷つけてしまうこともあるかもしれません。そんな時、発信者としてどう向き合うべきなのでしょうか。

    みたらし加奈さんは「“ご不快構文”を使わないように気をつけている」と話します。

    「『不快にさせてしまって申し訳ありませんでしたという』と言うのは、相手の感情に責任を置いている謝り方だと思います。そうではなく、自分はどんな認識をしていたか、どんな間違いがあったか、そしてそれを通して得た学びや気づきを含めて謝罪をしたいと思います。傷つけてしまった人たちに真摯でありつづけ、そして学び続ける姿勢を見せていくことが大切だと必要だ思います」

    「生活のため」か「社会のため」か

    「私はアイドル出身ということもあり、(発信をはじめた)当初はさまざまな反発コメントが届いていました」と語るのは、アイドルという立場からフェミニズムやアイドルの労働環境について発信をしてきた和田さん。会場から寄せられた、どのように自然に社会的な発信をしていけるかという質問に対して、自身の経験を交えて語りました。

    「アイドル時代から隙を見て社会的な発言をしていたので、(社会的な発信を)支援してくれる方も多かったです。“隙を見て発信する作戦”はおすすめです」(和田さん)

    いっぽう、発信者によっては、発信内容が生活と直結するケースも。会場の参加者からは「信頼できる広告案件だけを受けたい気持ちがある一方で、生活を考えると揺らいでしまうこともある」という感想が寄せられました。

    これについて三人は、「自分らしい、自分の信念に軸をおいた発信をすることでやりたい仕事につながっている」と、ポジティブな影響が生まれてきたことに言及しています。

    「私の場合は本職があり、経済的な面でも特権があるので、誰かに対して『この広告は受けないほうがいいです』と一概には言えません。しかし、薬事法など法律的に問題がないかどうかを見極めたうえで発信をしたり、案件をみることは重要だと思います。自分の“わがまま”かな…と思いつつ、依頼を吟味してきたことが今の信頼につながっているはず。長期的に見るか短期的に見るか、 生活のためなのか社会のためなのかというバランスを、発信者が自分なりにとっていくことが大事だと思います」(みたらしさん)

    学びを“こだま”させていこう

    プログラムが終わるころには、参加者同士で日ごろの自分たちの活動について、また講義で語られた感想などを共有し合うように。

    Social Echo Clubの「Echo」という言葉には、「響きわたる」「伝播させる」「こだまする」などの意味が込められています。イベントに参加した人たちが、その場での学びや気づきを発信し、その声が広がっていく。学んでいる姿もありのままに共有をして、ともによりよい社会のための発信を増やしていけたら、と願いを込めます。

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    Marisa Suda
    お持ち帰りバックには、もっと知識を深めたり、いざというときの味方になるアイテムも!

    性やカラダにまつわる「しかたない」で諦めていることを見直し、変えていくソーシャルプロジェクト「#しかたなくない 」の冊子や、正しい性の知識と判断力を育む支援を行うNPO法人ピルコンによる「もしものおまもり 緊急避妊薬ガイド」などが入っています