SNSが普及している今、俳優やミュージシャン、インフルエンサーなどの有名人に、親近感を覚える人も多いはず。スマホ越しの世界が生活の大きな部分を占めるようになった今、オンラインのメディア上に登場した人物を好きになったり、友情を感じたりする「パラソーシャル関係」が広がっています。

専門家によると、パラソーシャルな関係は異常ではなく、むしろ健全な場合がほとんど。今回は「パラソーシャル関係」について心理学者が解説。人々がオンライン上に登場する人物とパラソーシャルな関係を築く理由や、その影響は?

パラソーシャルな関係とは?

「パラソーシャル(parasocial)関係とは、個人的には面識のない著名人との一方的な想像上の関係」だと定義すのは、ウェルズリー大学心理学部の准教授で、パラソーシャル相互作用について研究するサリー・テラン博士。パラソーシャル関係は、友情や家族間の絆に性質が似ていることが多いのだとか。

パラソーシャル関係は基本的に誰とでも結ばれるもので、特にセレブやミュージシャン、アスリート、インフルエンサー、作家、司会者などの著名人との間に見られるのがほとんど。実在の人物である必要はなく、本やテレビ番組、映画の主人公やゲームのなかのキャラクターでも、同様の存在になりうるそう。

「こうした関係は、離れた場所から誰かを称賛するときに生じることが多い」と話すのは、ニューヨーク州立大学エンパイアステート校の教授で、パラソーシャルな愛着について研究するゲイル・スティーヴァー教授

相互関係の欠如がその決定的な特徴で、メディアを通して起こることが多いものの、大学教授や牧師、あるいはキャンパスで出会う人なども、そうした対象になる場合もあるよう。

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実は、この現象に名前が付けられたのは1956年のこと。

シカゴ大学社会学部のドナルド・ホートン氏とR・リチャード・ウォール氏によって作られた用語で、その背景にはテレビや広告などのマスメディアの普及があったといいます。各家庭に大量に流れ込んだラジオやテレビ、映画などのコンテンツ体験が、視聴者に演者と面識があるかのような幻想を与えたそう。

ホートン氏とウォール氏は、「パラソーシャル相互作用」という用語も創り出し、個人と著名人の間の会話による意見交換の意味も含まれていると言及。

また、2016年に発表された論文によれば、パラソーシャルな相互作用とは、自分がテレビ番組やポッドキャストなどで見たり聞いたりしている会話に没入し、加わっているような気分になる状態を指すのだそう。

パラソーシャルな関係は健全?

スティーヴァー教授によると、このつながりはとても健全なもので、実際に誰もがこうしたことをしている可能性が高いそう。

一方、他の関係とは違ったメリットがあることも。パラソーシャル関係にある人との間では、相手から冷たくされたり、不親切にされたり、拒絶されたりする心配がないのが理由だと考えられています。

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実際、テラン博士がウェルズリー大学の同僚であるトレイシー・グリーソン氏やエミリー・ニューバーグ氏と共同で行った研究を行った結果、興味深い情報が明らかに。

思春期の女の子たちは、母親や姉などメンターになるような年上の女性セレブとパラソーシャルな関係を築く傾向が。リスクのないかたちで誰かと関係を築き、自分のアイデンティティの形成を試みるためには、うってつけの方法になっているよう。

パラソーシャルな関係については危険性を指摘する声もあるけれど、ほとんどの場合はそれほど危うい行動にはつながらないという情報がわかっているそう。稀に、現実感を失って、強迫的で不健全な関係を創り出すこともあるものの、それは例外だとスティーバー教授は指摘。

パラソーシャルな関係を築く理由

テラン博士によると、パラソーシャルな関係は、現実の人間関係での不足を補ってくれるもの。ほとんどの場合には、リスクのない方法で世界とのつながりを感じさせてくれ、発達に欠かせない要素にもなるのだとか。

スティーヴァー教授は、マシュー・リーバーマンの著書『21世紀の脳科学―人生を豊かにする3つの「脳力」』を挙げ、人間はそもそも社会的動物で、脳が休まっているときは、人と関係を築こうとするものだと言及。

新たなメディアの形式が隆盛を極めている今、様々な人々がたえず目の前に現れてくる生活の中で、現実の世界でするように、オンラインで登場する彼らと関係を築こうとするのは、ごく自然なことと言えそう。

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さらに、2021年の研究によれば、新型コロナウィルスによるパンデミックは、パラソーシャルな関係構築を促進する結果に。ソーシャルディスタンスによって孤立した人々は、パラソーシャル関係で近しい相手を見出し、メディア上の著名人が「より重要な」人になっていったよう。

そして、多くの著名人、特にインフルエンサーは、オンライン上でのパラソーシャル関係を促進する方法を実践。彼らがフォロワーを「親友」と呼び、カメラに向かってまっすぐに視線を向け、内輪のジョークを言うのもパラソーシャルな関係を築くため。

ソーシャルメディアと現実の生活の堺をあいまいにし、没入させるのはインフルエンサーだけでなく、セレブたちもまた、できるだけ多くの人々とこうした関係を築こうとしているのだと言っても過言ではないかも。

テラン博士は、SNSへの意識についてこう指摘。

「SNSによって人々が特定のセレブに対してより強い絆を感じ、自分のことをよく知っているとさえ思うのは、多くのユーザーが自宅で見ているため。しかし、覚えておきたいのは、相手がセレブであれ、いかなる著名人であれ、視聴者は自分が見たいものを彼らに投影しているに過ぎない、ということです」

※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation:mayuko akimoto
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