トルーマン・カポーティの小説を映画化した『ティファニーで朝食を』(1961年)の主題歌「ムーン・リバー」。わずか10節ほどのシンプルな曲ではあるけれど、その伸びやかな旋律とロマンチックな歌詞は、聴く人を夢見心地にさせるもの。映画公開後、「ムーン・リバー」はアカデミー歌曲賞の他、グラミー賞でも最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を受賞。また、アンディ・ウィリアムスやフランク・シナトラ、ジュディ・ガーランド、アレサ・フランクリンを始め、数々のアーティストにカバーされてきた、まさに"名曲"。

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Breakfast at Tiffany's (3/9) Movie CLIP - Moon River (1961) HD
Breakfast at Tiffany's (3/9) Movie CLIP - Moon River (1961) HD thumnail
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Moon river, wider than a mile/ I'm crossing you in style some day/ Oh, dream maker, you heart breaker/ Wherever you're going, I'm going your way.

はるかに広がるムーン・リバー/いつかあなたを渡ってみせる/夢を与えるのもあなた、砕くのもあなた/私はあなたのあとについて行くわ

「ムーン・リバー」が完成するまで

ヘンリー・マンシーニ作曲、ジョニー・マーサーが作詞をし、主人公のホリー・ゴライトリー役を演じるオードリー・ヘプバーンが歌ったこの魅力的な歌はどのように誕生したのか? <TOWN & COUNTRY>によれば、驚くべきことに、映画製作会社は当初オードリー・ヘプバーンの歌唱力が低すぎると考え、別の人の歌声での吹き替えを計画していたそう。しかし、映画『ピンク・パンサー』の有名なテーマ曲も作曲したマンシーニは、1957年公開のミュージカル映画『パリの恋人』でのヘプバーンの歌い方を参考にして、彼女の限られた声域に合わせてメロディーを作曲。マンシーニの未亡人ジニーは2015年にBBCと行ったインタビューの中で、「彼は冒頭の3音を編み出すのに約1カ月かけたのに、残りは30分弱で作り終えたわ」と話しています。

作詞にあたってマンシーニは、ジョニー・マーサーに協力を求めることに。マーサーはキャリアを通じて実に1500曲もの作詞を手掛けた人物。マンハッタンに住む主人公ホリーが、ニューヨークのハドソン川について歌っていると思っている人は多そうだけど、実は「ムーン・リバー」の正体は南部にある川なのだそう。地元誌『Savannah Now』によれば、マーサーは、幼少期を過ごしたジョージア州サバンナのバーンサイド島から見渡せるバック・リバーを思い出しながら作詞をしたそう。仮題は『ブルー・リバー』だったものの、既にその曲名が使われていたので曲名を変えざるを得なかったとのこと。こうして映画が公開されてから1年後に、ジョージア州のチャタム郡行政委員会がバック・リバーの一部をムーン・リバーに改名。

Two drifters, off to see the world/ There's such a lot of world to see/ We're after the same rainbow's end, waiting, round the bend/ My Huckleberry Friend, Moon River, and me.

2人の流れ者が世界を見に旅立った/見たい物が沢山あるの/追い求めるのは同じ虹の向う/虹の上で待ち合わせましょう/ムーン・リバーと私

では、英語の歌詞中の「My Huckleberry Friend(マイ・ハックルベリー・フレンド)」は何を意味するのか? マーサーは幼少期によくハックルベリー(ツツジ科の低木に生えるブルーベリー似の果実)を摘んだのだそう。『Portrait of Johnny: The Life of John Herndon Mercer(原題)』で、マーサーは次のように語っています。「子どもの頃、南部の川沿いに住んでいて、周りには茂みやブラックベリー、いちご、小さな野いちご、さくらんぼの木、ハックルベリーが至るところにあったんだ」。したがって、「My Huckleberry Friend」は、子どもの頃に一緒にハックルベリーを摘んだ仲良しの友だちというニュアンスであるとのこと。

実はカット寸前だった!?

信じがたいことに、今や『ティファニーで朝食を』の象徴とも言えるこの歌、映画から完全にカットされる可能性もあったのだとか。脚本があまりにも長かったため、ホリーが住むニューヨークのアパートの非常口で撮られたこの有名なシーンを、パラマウント映画の代表はカットしようと提案したそう。

Portrait of Johnny』の中で、マンシーニは次のように話しています。「試写会は大成功だった。私たちは皆、歌のことをすごく気に入っていた。ブレイク(監督のブレイク・エドワーズ)なんかは特に。映画が長すぎて、ところどころカットすべきことは分かっていたけど、映画全体の出来映えについて私たちの気持ちは高揚していた。[中略]なのに、マーティ(プロデュサーのマーティ・ラッキン)の一言目は、『あのクソのような歌は削除だな』だったんだ」。

ジニーも次のように思い返しています。「ヘンリーが青ざめるのが分かったわ。私たち全員、完全に呆気に取られてしまって。1、2分間沈黙が続いたあとに、歌を映画に残して他のシーンをカットすべき理由を皆があれこれまくしたてたの」。

最終的には、ヘプバーン自身がカットに強く反対して、歌は残すべきだと主張した言われているよう

そのお陰で、魅惑的なアコースティックの曲が作中に残ることになり、普段のパーティ・ドレスとジュエリーを身に纏った姿ではなく、ジーンズとトレーナーという主人公の自然体の姿がスクリーンに映し出されることに。彼女が歌うこの曲を聞いて、世界中の観客たちが「どこか旅に出たい」という気持ちに駆られたはず。

「これまで『ムーン・リバー』のカバーは1000回以上行われてきたが、その中でもオードリーのバージョンは、アンディ・ウィリアムス、ジョニー・マティス、フランク・シナトラのレコーディングさえも超える最高傑作だった。私が曲に込めたすべての思いをも超越する出来映えだった」とマンシーニは語っています。

※この翻訳は、抄訳です。

Translation: Takako Fukasawa(Office Miyazaki Inc.)

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