イギリスでは、英国ITVのドラマ「ダウントンアビー」シリーズの大ヒットで、イギリスの貴族館にいつにもまして注目が集まっています。実は、英国に残される貴族館の多くが一般公開されているのです。

貴族の生活にまつわるあれこれがぎっしり詰まった貴族館は歴史映画の世界にタイムスリップしたような気分にさせてくれる。それに、美しい家具や陶器のコレクションをながめて審美眼をやしなうのも楽しいもの。イギリス旅行は好きだけど、貴族館巡りはしたことがない、という人のために、貴族館巡りの楽しみをご紹介します。

【1気軽に行ける貴族館は?

旅行やビジネスでの短期滞在の場合、田舎の広大な領地に立つ貴族館はちょっと行きにくい、と感じるもの。でもちょっと探すとロンドン郊外にある比較的近く、公共の交通機関でも行ける貴族館も。

・ケンウッド・ハウス

ロンドン北部の広大な緑地、ハムステット・ヒースに佇む白い貴族館はマンスフィールド伯爵の別邸として18世紀に建てられた。映画の舞台としてもしばしば登場する。フェルメールの名画『ギターを弾く女』が所蔵されている。併設のカフェも素敵です。観覧料無料なのも嬉しい。

・ブレナム宮殿

チャーチルゆかりのブレナム宮殿は、オックスフォードからバスで30分ほどの場所に位置し、ロンドンから1日旅行でも行ける距離。観覧料は大人124ポンド(約4000円)となかなかのお値段ですが、英国を代表する壮麗な館は1日を費やす価値あり。ちなみに公園だけなら5ポンド(約800円)で観覧可能。オックスフォード観光のついでに足をのばすのもいい。

【2】 映画や本でもっと楽しく

昔の面影が残る情緒たっぷりの貴族館は、しばしば映画の舞台としても登場します。

・アニック城

アニック城
山下英子
中世の面影を残す屋敷の庭は広大。大砲や塔など、男の子が騎士ごっこをして遊ぶには最適。女の子たちが夢中になるお店は何と巨大な木の上に建ったツリーハウス。

イングランドの北端にあるノーザンバランド公爵のアニック城は、『ハリーポッター』のクウィディッチのシーンの撮影に登場したほか、多くのドラマや映画の舞台になっています。今もノーザンバランド公爵一家が所有し、家族の邸宅として愛されています。

このほかに、弓矢で遊べるコーナー、中世のタイル造りが体験できるコーナーもある。敷地が広いのでもちろん大人向けには静かなカフェもある。pinterest
山下英子

また、屋敷の一部は子供が騎士の服を着て遊んだり弓で遊んだり、中世の遊びが体験できるコーナーも設けられていて、家族連れにも人気です。観覧料大人1人14ポンド(約2240円)、庭園込みだと23.85ポンド(約3820円)※いずれも前売り価格

・ティンテスフィールド

日本でも大人気のBBCのドラマ『シャーロックホームズ』最新作の舞台になったことで注目度急上昇のブリストル郊外の館、ティンテスフィールド。ヴィクトリア朝時代に建てられたゴシック風の豪邸は、ムード満点。観覧料大人114.05ポンド(約2250円、庭園観覧料込み)

・ハイクレア城

今では『ダウントンアビー』の撮影舞台として世界中に知られたハイクレア城。ファンにはもはや憧れの聖地になりました。ロンドンから遠くないのも魅力です。

が、近年大人気なだけあって、チケットは何カ月も前から要予約で、1回の観覧料は100ポンド(約18000円、軽食や飲み物のサービス、お土産付き)と、なかなかハードルが高いのが難点。

※ちなみに、前述のケンウッド・ハウスは、訪れる前にぜひ『ベル-ある伯爵令嬢の恋』を観て欲しい。ケンウッド・ハウスで育った、黒人の血を引く実在の令嬢ベルを描いた映画です。衣装も美しいですよ。またケンウッドは『ノッティングヒルの恋人』の撮影場所としてもよく知られています。

【3お嬢様気分でカフェで一休み

・カースル・ハワード

カースルハワード
山下英子

ロンドンから電車で約2時間、大聖堂の街ヨーク市内からバスで45分ほど。広大で美しい敷地にそびえるカースル・ハワードは、壮麗な新古典様式の代表作。建物だけでも見どころたっぷりですが、庭園もとても素敵。ヨーク周辺の観光の見所のひとつだけあって、公共の交通機関を使ってのアクセスが良いのも魅力の一つ。

カースルハワードの庭園
山下英子
広々と美しいカースルハワードの庭園。はるか向こうには、先祖が敷地に建てた古代ギリシャ風のモニュメントが見える。

ここのカフェはヨークシャー風のケーキも楽しめるうえに、夏場には庭にテーブルがセットされていたり、徒歩数分の愛らしいボートハウスにも夏場はカフェが開かれていて、アイスクリームやサンドイッチを楽しむ子供たちに大人気。優しい一時が楽しめるのでおすすめです。観覧料大人117.50ポンド(約2800円、庭園観覧料込み)。

・ホープトンハウス

英国北部スコットランドの首都エディンバラから車で30分ほど、緑豊かな敷地に建つホープトンハウスは散歩コースとしても地元の人たちに人気のカントリーハウス。貴族館の多くは昔のパントリーをカフェにしているけど、ここはステーブル(馬舎)をカフェに。これが、元馬舎だったとは思えないエレガントな内装で、味にうるさい地元のミドルクラス達の御用達に。支持されるだけあって質もなかなかです。おすすめのアフタヌーンティー(18ポンド、約2880円)は、女の子なら2人でシェアしても十分楽しめます。観覧料大人19.85ポンド(約1580円、庭園観覧料込み)。

【4】 貴族に愛された敷地を散歩

英国の貴族館の一番の醍醐味は庭園と言っても過言ではありません。緑深く、キジやリス、ウサギが遊ぶ庭園は訪れる人たちを魅了してきました。また庭園は観覧料が安価なのも魅力的です。

・ザ・ヴァイン

ザ・ヴァイン
Eiko Yamashita

緑深いハンプシャーのカントリーサイドに囲まれたすっきりとして洒落た邸宅のザ・ヴァインは、文豪ジェーン・オースティンも館の主の招きで度々招かれたという由緒正しい18世紀のお屋敷。車がないと行きづらいのは難点だけれど、オースティンも日傘を手に風景を楽しんだ優しい散歩道は、ぜひ訪れてほしい。観覧料大人111.75ポンド(約1880円、庭園観覧料込み)、庭園のみ7.20ポンド(約1150円)。

【5レアな美術品を楽しむ

前述のアネック城など、大貴族所有の貴族館にはイギリス王室も顔負けの美術品のコレクションが満載。美術好きなら、コレクションの質で貴族の趣味の良し悪しを推測するのも楽しい。

・ダルメニーハウス

ダルメニーハウス
山下英子
古めかしく見えるが、1817年建造とイギリスの貴族館としては新しい方。夏の公開中、お話し好きのお茶目な伯爵未亡人が話しかけてくる事もある。

エディンバラから車で20分、広大な敷地に囲まれたダルメニーハウスは現在もローズベリー伯爵夫人が住まう個人宅。夏の間の2カ月間だけ、貴族のリアルな暮らしが垣間見える屋敷の内部を一般公開しています(ツアーの時間は要確認)。

有名なゴヤのタペストリー、レイトン卿始め巨匠の作品のコレクションもさることながら、圧巻なのはロスチャイルド家の令嬢が嫁入りの際に持ち込んだブルボン王朝ゆかりの家具の名品。屋敷の中を鑑賞した後は、湾岸に面した美しい散歩道を楽しみましょう。観覧料大人110ポンド(約1600円、邸宅内のガイドツアー、庭園観覧料込み)

【貴族館巡りQ&A

Q:貴族館にはおしゃれしていかないといけないの?

A:そんな事はありません。貴族館を訪れる人の多くはその後の庭園の散歩も楽しみにしているので、着心地の良い服、歩きやすい靴で大丈夫。でも貴重な骨董品を、普通の暮らしそのままに展示している場所も多いので、大きな荷物や巨大なリュックは避けたほうがいいでしょう。

Q:入館料が高いのでは?

A:個人所有の邸宅はしばしば高値ですが、文化財保存財団であるナショナルトラストやイングリッシュヘリテッジに登録されている貴族館は入場料が安価なことがほとんど。入館料が高い邸宅も、庭園だけなら手頃な値段で一般公開している場合が多いので、内装には興味がない人は、まず庭園めぐりを楽しんでみてください。

Q:いつ公開しているの?

A:屋敷によってまちまちです。個人所有だと、季節によって開館日が変わったりすることもありますので、事前にウェブサイトで調べて行くのがおすすめ。観光シーズン以外は一般公開していない邸宅がほとんどですが、散歩を好む人たちのために敷地は公開している場所もたくさんあります。

Q:貴族館の情報を調べるのに便利なサイトは?

ナショナルトラストイングリッシュヘリテージのサイトには、歴史的建造物、過去に寄贈された貴族の邸宅の公開情報が載せられています。観覧料、開館情報、行き方など、貴族館の情報を探すのにはもってこいです。

※ 開館情報、入場料、アクセス等は、各ウェブサイトで確認下さい。