摂食障害や産後うつに悩んだ過去も…社会派俳優ジェーン・フォンダの半生

名優ヘンリー・フォンダの長女として生まれる。写真は18カ月のジェーン。ヘンリーはその誕生を大いに喜び、「私はライカのカメラで何十枚も写真を撮った」と伝記に書き残している。

『Harper's BAZAAR』の撮影のため、グリニッジの自宅の庭でピクニックの真似事をするフォンダ一家。左から弟のピーター、母フランシス、ジェーン、ヘンリー、そして異父姉フランシス・ブロコウ。

この後まもなく父からの申し出で両親は離婚。母は心身を病んで入院。主治医の勧めでさらに監視の厳しい施設に転院するも、翌年4月に自殺を図り死亡。

父の考えでNY州のエマ・ウィラード寄宿学校（1814年創設の女学校）に入学。

当時の女学生にありがちな「痩せていることがキレイな髪をしている以上に重要」という発想から「食べては吐く」を繰り返し、大学に入ってからは食欲抑制目的でデキセドリン中毒になり、40代初めまで摂食障害に悩まされる。

ヴァッサー・カレッジに合格。ケネディ家の敷地裏にある自宅からすぐそばの劇場の研修プログラムに参加、舞台監督助手と恋に落ちる。

1957年夏になると、カレッジに戻りたくないがために「パリで絵の勉強をしたい」と父に話し、リヴィエラの別荘へ。パリにすっかり魅了され、美術学校にも行かずにカフェで過ごすなどしていたある夜、最初の夫となるロジェ・ヴァディムとマキシムで出会う。

人生の目標を持てないままに、映画『お熱いのがお好き』の撮影現場を訪れ、心が動く。

数週間後、カリスマ演技指導者リー・ストラスバーグの別荘で面接に合格、リーが個人的に開いている演技クラスに入学。クラスメートにマリリン・モンローがいた。

NYのアパートメントで友人とルームシェアをしながら、受講料と家賃を払うために友人の勧めでフォード・モデル・エージェンシーに所属。1959〜1960年には『Harper’s BAZAAR』『VOGUE』『esquire』『LIFE』など数々の有名雑誌の表紙を飾る。

『のっぽ物語』で俳優としてのキャリアをスタート。

ところがメイクアップで唇のフォルムも眉のシェイプも変えられ、シーブリーズで湿らせたスポンジで全身磨かれ、撮影後には当時流行りのこけた頬にするために顎を削り、奥歯を抜くなどの整形を勧められるなど、すべての経験が悪夢となり、摂食障害が悪化。

この頃から厳格に決められた動きとスリムな肉体が求められるバレエにハマる。

1963年秋、再びパリへ。ルネ・クレマン監督『危険がいっぱい』に出演。撮影が終了した11月22日、ケネディ暗殺のニュースが飛び込む。

フランスを代表する映画人であるとともに社会的・政治的アクティヴィストでもあったシモーヌ・シニョレとイヴ・モンタン夫妻の自宅に身を寄せ、悲しみを共有するとともに、政治意識に目覚める。

『バーバレラ』の撮影終了後、子供を持つことを考えたジェーンは子宮内避妊器具を外し、クリスマス休暇に妊娠。ところが早々に出血し流産しそうになり、おたふく風邪にも感染するが、無事9月28日に出産。

尊敬する俳優ヴァネッサ・レッドグレイヴにちなんでヴァネッサと命名。１週間後に退院するも、産後うつに悩まされる。

出産3カ月後から『ひとりぼっちの青春』の撮影に入る。監督シドニー・ポラックの指導により役者としての自信を得る一方、ヴァディムとの生活に対する不満が募る。

撮影終了後にNYに戻るとヘアスタイルをチェンジ。彼女の人生に現れる男性たちの好みに合わせて染めてきたブロンドを本来のブラウンに戻し、バッサリとカットしてシャギーヘアに。

さらにインド・ニューデリーへ“自分を知る旅”に出かけ、帰国後ヴァディムとの離婚を決意。

カリフォルニア州ベルエアにある父の家に娘と乳母の３人で暮らしつつ、ベトナム反戦運動、アメリカ先住民の公民権運動、ブラックパンサー党の活動などに参加。やがて“ジェーン・フォンダ”という人間の中核を形成する世界観や社会的・政治的立場が確立される。

しかしこの頃から「COINTELPRO（国家の治安を脅かす恐れのある個人・組織の動きを隠密に封じるFBI活動）」の標的となり、何万ページにもわたるレポートが作成される。

写真はカナダでの活動後アメリカに帰国した11月3日、クリーブランド・ホプキンス国際空港で税関に止められ、所持していた105粒のビタミン剤を取り上げられ「薬物密輸」容疑で逮捕された後に撮影されたマグショット。

ハノイ訪問の最大の目的は、爆撃を受けた堤防に行き、合衆国政府が躍起となって否定している行為を撮影した証拠を持ち帰ること。ニクソン政権の嘘を暴き、戦争を止めることだった。

ハノイで撮影したフィルムを7月25日にパリ、続いてNYで記者会見を開き上映したが、その後フィルムは行方不明に。CIAによって盗まれたと言われている。

1971年1月に正式にヴァディムと離婚。

SDS（民主社会を目指す学生同盟）を創設したカリスマ活動家、トム・ヘイデンとの結婚に踏み切る。1973年1月19日に自宅リビングルームで挙式、1973年にトロイを出産。

その３カ月後からベトナム反戦活動を再開。同時に政府から迫害と脅迫を受けたとしてニクソン政権に対して訴訟を起こし、1979年に結審、政府がすべてを認めた。1974年ニクソン大統領辞任、1975年ベトナム戦争終結。

1978年、『チャイナシンドローム』の撮影中に骨折。

次作のために体型を整えておく必要があったが、ルーティンとしていたバレエのレッスンができないため、継母に紹介されたインストラクター、レニに会いに行き、そのエクササイズに感銘を受ける。

トムの上院選の選挙活動資金を調達するためにビジネスを始める必要もあり、「ジェーンとレニのワークアウト」をスタート。

人を変え、成長させる触媒になるような映画制作を検討。

“男らしさ”に対する新しい考え方を提案すべく、『帰郷』を制作。発案から約7年、アカデミー賞で主演男優賞、主演女優賞、脚本賞受賞。ジェーンはトムの支援者がデザインしたドレスを着用し、聴覚障害者組織GLADに手話で喜びを伝えた。

トムの選挙活動資金調達のために始めたワークアウトは、当時「汗をかいて筋肉を鍛えたりしない」と思われていたジェーン世代の女性たちの人気を集めて大成功。

1979年にスタジオをオープン、雪崩のように生徒が殺到し、生徒数は年間70万人に。産前産後の女性たちの健康づくりに役立つような、安全で効果的なエクササイズなどを考案し、さらに話題に。

反戦運動時代の友人の影響で女性のオフィスワーカーに興味を持ち、事務職員の全国組織「9時から5時まで」のプロモーションイベントを実施。

さらに映画を作るアイデアを思いつき、リリー・トムリン、ドリー・パートンに出演を依頼し、1980年冬に撮影開始。ドリーが女性スタッフ全員をバックコーラスに起用してレコーディングしたテーマソングはミリオンセラーとなり、数々の音楽賞を総なめに。