3月27日(現地時間)の夜、長編ドキュメンタリー映画賞(『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』のクエストラブ監督が受賞)のプレゼンターとしてアカデミー賞授賞式のステージに立ったクリス・ロックは、その日の決定的瞬間に立ち会うことになるとは予想だにしなかったでしょう。

クリスがステージ上でウィル・スミスの妻ジェイダ・ピンケット・スミスをネタにしたジョークを放ち、それを聞いたウィルが席から立ち上がってステージに上がり、ロックの顔を平手打ちした事件は実に衝撃的でしたし、今もなお話題になっているという事実も然りです。

しかし、声明と謝罪が発表されるにつれてさらなる疑問が浮かび上がり、アカデミー賞陣営とウィル陣営は“言った、言わない”の争いに突入しています。

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ABC//Getty Images
授賞式のレッドカーペットに登場した、ウィルとジェイダ

私たちは皆、ウィルがクリスを平手打ちするのを目撃しました。しかしその後多くの視聴者は、なぜウィルが授賞式から退席させられなかったのか、不思議に思っていたことでしょう。

前代未聞となったこの平手打ち事件は、間違いなく退席に値する違反行為です。その後、『ドリームプラン』でリチャード・ウィリアムズを演じたウィルは主演男優賞を受賞し、涙ながらに熱のこもったスピーチを行いましたが、そのために式に留まることが許されたのでしょうか。

その後3月30日(水)に、アカデミー側は『ハリウッド・リポーター』誌を通じて声明を発表し、ウィルを授賞式から退席させようと試みたが、彼が拒否したと述べています。

さらに、ウィルに対する処分を検討するとも述べ、「事態は私たちが予想もしなかった形で展開しました。我々はスミス氏に授賞式から退席するよう求めましたが、彼がそれを拒否したことを明らかにしたいです。その一方で、我々があの状況を違った形で対処することもできたと認識しています」と綴っています。

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Neilson Barnard//Getty Images
主演男優賞を受賞し、涙を流しながら壇上でスピーチするウィル

匿名を条件に『ハリウッド・リポーター』誌のインタビューに応じたあるアカデミー役員は、ウィルが「手に負えない」状態だったと言い、次のように続けています。

「人々は、本来あるべき結果を求めています。全支部の全メンバーは、責任者に連絡を取っています。あれは間違いなく暴力でしたし、物理的な意味だけでなく、業界全体に対する暴力でもありました」

しかし、それで終わったわけではありません。エンタメサイト<TMZ>は3月28日(現地時間)、独自に入手した3人の匿名関係者の証言を報じ、その全員がアカデミーサイドの説明に反論したため、事態はさらに複雑化しました。

3人によると、平手打ち事件後の最初のCM休憩の間、「アカデミー賞の関係者は、バックステージでウィルの代理人と話し、何が起きたのかを熱く語っていた」そうです。彼らの証言によれば、アカデミー賞関係者の間でも、ウィルを授賞式から退席させたいという意見と、留まらせたいという意見とに分かれたそう。

<TMZ>が報じているように、23時頃(平手打ちから約30分後)、授賞式プロデューサーのウィル・パッカーがスミスに近付き、「我々はあなたに退席してほしくない」と言ったとされています(それまでの間、ウィルは客席で決定を待っていたと伝えられています)。そして、パッカーの決断があった約5分後に、ウィルはアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。

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Wanda Sykes Shares Her Account of The Oscars
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なお、授賞式で司会を務めた一人であるワンダ・サイクスは、先ごろトーク番組『エレンの部屋』に出演しましたが、そこで彼女が話した内容は<TMZ>の論調を裏づけるものでした。

ワンダはそのとき、次の出番に向けて着替えていたそうで、事件を直接目撃していないとのこと。しかし彼女は、「ウィルが会場に留まって、ショーの残りを楽しみ、賞を受け取ったことに気分が悪くなりました。これは間違ったメッセージになっていると思います」と語っており、関係者はウィルを退席させるのではなく、留まらせたという決断をしたことがわかります。

<TMZ>が指摘するように、アカデミー賞からの反応は論調が変わり続けています。事件から約2時間半後にTwitterで発表された最初の声明には、こう書かれています。

「アカデミーはいかなる形の暴力も容認しません。今夜私たちは、世界中の仲間や映画ファンから認められるにふさわしい受賞者たちを祝福できたことを嬉しく思います」

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この数日間で、ウィルの行動と今後どうすべきかについての議論が過熱しています。ウィルは謝罪の言葉を発表し、また妻ジェイダは「今は癒やしのとき」とInstagramに投稿し、クリスは初めて公の場でコメントを発表しました。

しかし、ウィルが退席を求められたかどうかについては、謎が残されたままです。 

【2022年4月2日更新】

ウィル・スミス、米アカデミー会員を辞任

渦中のウィルは4月1日(現地時間)の声明で、映画芸術科学アカデミーの会員を辞任すると明らかに。広報を通じてCNNおよび「The Hollywood Reporter」などに声明が提出されています。そこには、「私は映画芸術科学アカデミーの会員を辞任し、理事会が適切と考える全ての追加措置を受け入れる」と述べています。

アカデミーは3月30日、ウィルに対する「懲戒手続きを開始した」と述べていました。そしてアカデミーのデビッド・ルービン会長は4月1日の声明で、ウィルの「即時辞任」を受理したと説明。

そのうえで、「4月18日に予定される次回理事会を前に、アカデミー行動基準に違反したスミス氏の懲戒手続きを引き続き進めていく」としました。アカデミーによれば、懲戒処分には資格停止や追放、内規および行動基準で認められる他の制裁が含まれる可能性があったのです。

そうしたなか、現時点でウィルは自らアカデミーを離れるという結果になったのでした――。

※この翻訳は抄訳です。 
Translation:Masayo Fukaya

From: Esquire JP