自分の人生は、自分でしか生きられないし、どう楽しんでいけるかは、毎日の選択と気持ち次第。どんな生き方だって、自分で選んできている人は、いつだって魅力的に見えるし、自然と心惹かれるもの。コスモポリタン日本版では、人生を謳歌しているさまざまな女性の生き方を紹介していきます。

エレーヌ・プリ=デュケンさん/ブシュロンCEO

パリの街に澄みきった青空が広がる、7月初旬のある朝。ラグジュアリーの中心地、ヴァンドーム広場に足を踏み入れると、夏の日差しがキラキラと輝いていた。宝飾店が軒を連ねるこの広場の中でも、重厚な歴史を持つメゾンが26番地にある名門ジュエラー「ブシュロン」。

この日は、同ブランドの2019年新作ハイジュエリーコレクション「パリ、ビュ ドゥ ヴァンシス~26番地から見たパリ~」の発表会が開催されていた。パリの建築と文化からインスパイアされた今回の作品。チャプターⅠ、Ⅱ、Ⅲからなり、パリの街(Ⅰ)からヴァンドーム広場(Ⅱ)、26番地のブティック(Ⅲ)へと近づいていく構成だ。グラン・パレのガラスのドームにインスピレーションを得たネックレス(写真左)、雨上りの日に26番地から見える陽の光に反射したヴァンドーム広場の美しさをダイヤモンドとクリスタルで表現したネックレス(中央)、3代目ジェラール・ブシュロン氏の愛猫ウラジミールをサファイアやダイヤモンドで蘇らせた指輪(右)など、ファンタジー溢れる作品が並ぶ。

ブシュロン初の女性CEOが本音で語る、「女子のためのキャリアガイド」
Boucheron

そんなブシュロンの伝統とエスプリを受け継ぐのが、エレーヌ・プリ=デュケンさん。同メゾンの160年以上の歴史のなかで、初の女性CEOに就任。責任ある仕事だけでなく、プライベートでは2児の母として家庭と仕事を両立させてきた。

アーティストになりたかった少女がビジネスの道へと進み、LVMH、カルティエ・インターナショナル(リシュモングループ)、ケリンググループと世界三大ラグジュアリー企業でキャリアを築いてきた――。

飾らずストレートに仕事への情熱をイキイキと語ってくれたエレーヌさん。一方で家族の話を聞かれると、その顔は少し綻び、一層明るくなる。

愛情をもって“CEO”と“母”という役割をこなす彼女が、『コスモポリタン日本版』に本音で女性へのキャリアアドバイスを語ってくれました。

ブシュロン初の女性CEOが本音で語る、「女子のためのキャリアガイド」
Manabu Matsunaga

――早速ですが、エレーヌさんが長年キャリアを積むなかで身に着けた、仕事哲学を教えてください。

会社や一緒に働く人に与える分だけ、自然に自分自身に返ってくる

まず、絶対に諦めずに、夢を追うこと。

そしてもう一つが、「会社や一緒に働く人に与える分だけ、自然に自分自身に返ってくる」ということ。最初から自分が与えてもらおうとするのではなく、会社や人の役に立てるよう、全力を発揮して働くのです。このように私は会社に向き合い、今までキャリアを築いてきました。そうすると、自然に自分のもとにプラスの結果として返ってきます。

――キャリアを築くうえで、いつも物事が順調に進むとは限りません。そんなとき、エレーヌさんはどのように前進されてきましたか。

リスクを覚悟して様々な機会に飛び込んでみることで、他の人とは異なる、唯一無二の存在になれる

夢は追い続けるべきだけど、その途中で起こる予想外の出来事も歓迎して受け入れることが大事です。

例えば、22歳の頃にLVMHで働き始めた頃のこと。当初はマーケティングの仕事を希望していたのですが、初めに担当したのは戦略ビジネス開発の業務。予想外だったけれど、せっかくの機会なので、逃さずに飛び込むことに。結果的に、この仕事は私のキャリアを構築するうえで重要な経験になりました。4年間、LVMH傘化の美容ブランド、シャンパンブランドなどで働いたおかげで、「ラグジュアリー」の全体像を学ぶことができたからです。

その後、マーケティングの仕事に就くことができたのですが、以前の仕事でマネジャー職だった立場から、部署内でも下の役職からのスタート。それには少し苦労しましたが、無事スピーディーに昇格することができました。

予想外の道でも、リスクを覚悟して様々な機会に飛び込んでみることで、他の人とは異なる、唯一無二の存在になれるかと思います。

――エレーヌさんは世界三大ラグジュアリー企業で経験を積まれてきました。この業界で活躍する人材にとって、重要なクオリティとは?

右脳と左脳をどちらも働かせることが必要です。実は、私は学生の頃アーティストになりたかったのですが、両親に反対されました。だから、ビジネススクールに進学。でも、アーティスティックな性質はいつも私の中に存在しています。私自身、この業界で成功できた秘訣が、創造的な右脳と、分析的な左脳の両方を働かせることができたからなのかと思っています。

――160年以上のブシュロンの歴史の中で、あなたは初の女性CEOです。どのような心境ですか?

本当に、誇らしく感じています。

でも、私の頭の中には男性VS女性という構図はありません。男性性、女性性のどちらの性質も素晴らしく、会社の運営にとって両方とも大切だからです。特に男性は決断が早く、女性は人の意見を聞き、思いやることができ、社内に平和をもたらす傾向がある。実際に、役員チームの構成は男女半々なのですが、とてもバランスがいいと感じています。

ブシュロン初の女性CEOが本音で語る、「女子のためのキャリアガイド」
Manabu Matsunaga

――妻、2児の母として、CEOの多忙な業務をこなしているエレーヌさんは、世界中の女性たちに「家庭を持つと同時に、キャリアで成功することは可能」という希望をもたらしています。家庭と仕事の両立はハードかと思いますが、どのようにバランスを保っていますか。

量よりも質。限られた時間のなかで、真摯に向き合うことが大切

とても大切なのが、自分の生き方を応援してくれるパートナーをもつこと。夫は、私が深夜や週末に働くことを理解してくれ、そんな私を誇りに思ってくれています。

そして、量よりも質を重視すること。私の子供たちは、彼らにとって本当に大切な瞬間には、私が仕事や出張をキャンセルしてでも傍にいてサポートをする、と知っています。私にとって、子供たちは優先すべき存在。ルールは「どんなに大切なミーティング中でも、子供たちからの電話には必ず出る」ということです。だから、彼らは本当に必要な時にのみ、私に電話をかけます。

それに、子供たちと一緒にいる時間は、他のことは何もせずに、ボードゲームを一緒にするなど、100%家族の時間を楽しみます。

でも、一緒にいれる時間には限りがある。だから、親子の信頼関係を保つために大切にしていることは、心を通わせること。その日に感じたこと、毎日の中で起こった出来事など、たくさん会話をします。それでも、一度困難な時期がありました。息子が15歳の頃、私のことを避け始めたのです。そこで、彼と真正面から向き合って、こう言いました。

「あなたは今、思春期という、人生の中でとっても難しい時期にいるの。でもね、それを乗り越えるためには、2通り方法がある。1つ目は、親とまったく会話をせず、1人で孤独に乗り越えること。もし、あなたにとってその方法がやりやすいならママは理解するし、決断を尊重する。でも、2つ目の、もっと興味深い乗り越え方は、パパとママとコミュニケーションをきちんと取ること。きっと、あなたにとって、もっと楽になると思うわよ」

そしたら息子は、「わかった、ママン」と言いました。それ以降、いつも通り私のもとに来て、交際中の彼女のこと、今抱えている悩みなどを話してくれるようになって。

きちんと向き合って心を通わせることで、一緒に問題を乗り越えることができた――そんな、嬉しかったエピソードです。

―エレーヌさんにとって、「良い母」、「良いリーダー」の定義とは?

リーダーでいることと、母親でいることは本質的に一緒

正直、私にとって両方の役割に対する定義はまったく同じです。それは、「愛すること、気に掛けること、指導すること」。私は“母親的”なマネジャーなのか、部下にも子供と同じように接しています。私にとって、“リーダーでいることと、母親でいることは本質的に一緒”なのです。

だから、家でも仕事場でも、“別人”にならずに、自分らしく自然体でいることができるんです!

――仕事もプライベートも、妥協せずに夢を実現したい女性にアドバイスをお願いします!

自分に正直でいること。そして、絶対に夢を諦めないこと! 自分自身を尊敬し、自分の価値を信じてください。そうすることで、様々なことに正しい判断ができます。

ブシュロン初の女性CEOが本音で語る、「女子のためのキャリアガイド」
Manabu Matsunaga

仕事とプライベートで別人になったりせずに、どんな時でも、ありのままの自分で真摯に向き合う――。それこそが、莫大なエネルギーを要する“家庭と仕事の両立”を、エレーヌさんが充実させている秘訣なのかもしれません。

【エレーヌさんから学んだキャリアとプライベートを充実させる秘訣】

・仕事とプライベートで切り替えをし、どちらも“その瞬間”に集中する。

・会社や人の成功の為に、一生懸命働く。そうすることで、自分自身に自然に良い結果が返ってくる。

・職場と家庭の両立の秘訣は、自分らしく、人や仕事に真摯に向き合うこと。

取材協力

ブシュロン ジャパン

ブシュロン 2019年新作ハイジュエリーコレクション ウェブサイト