クリスマスは家族で集まり、プレゼントの交換や豪華な食事で盛大にお祝いする家庭が多いイギリス。しかし、急速に進むインフレの影響はお祝いの仕方にも影響を及ぼしています。

今回は<コスモポリタン イギリス版>より、イギリスのインフレがクリスマスに与えている現状についてお届けします。

※以下、人物名はペンネーム

クリスマスへの影響

ケイラさん(32歳)は、毎年12月24日のクリスマスイヴに息子を連れて、車でノッティガムの母親の家に行き、伝統的なアイリッシュ風のハムを食べるのが恒例。 クリスマス当日には七面鳥を食べた後、ケイラさんの兄の家にも行き、さらにお祝いをします。ボードゲームをしたり、おつまみやお菓子を食べたり、クリスマス映画を見たり…。1年で1番楽しい時間を過ごすために、家族全員が時間とお金をかけて準備をします。

しかし、今年はいつもとは違ったクリスマスを過ごす予定だとケイラさんは言います。インフレの影響から、毎年買っていたようなプレゼントを買えず、母親の家には行くものの、兄の家には行かないことにしたそう。

<コスモポリタン イギリス版>に、「みんなプレゼントを期待していると思うんです」と話すケイラさん。誰かに経済的状況を知られるぐらいなら、贅沢せずに静かにお祝いをしたいと考えていると言います。

またケイラさんは息子を一人で育てるため、アパレルの仕事を辞めざるを得ず、現在はユニバーサル・クレジット(イギリスの生活保護)と支援金で生活しています。ユースワーカー(青少年の更正などを援助するカウンセラー)としての仕事はあったものの、ほぼ最低賃金。現在の手当を失い、保育園の費用が追加されることを考えると、経済的にその仕事を受けるのは難しいと感じています。

現在の手当で生活費を賄うことは辛うじてできるものの、食べ物やガソリンに至るまで、すべての物価が高騰していることから残るお金はわずか。プレゼントを買う費用はもってのほかなのです。

光熱費を滞納している上、食事もフードバンク(企業や個人から寄付を受け、必要としている施設や団体、人々に食べ物を配給する活動)に頼っていることもあり、2022年は一度も友人と飲みに行かなかったそう。

母親にプレゼントを買うこともできない状況に申し訳なさを感じながら、息子だけはプレゼントを購入予定。ただ、それも後払い決済によるもの。

「今はクリスマスにかかるお金を心配しています。だけどこれからどれぐらい悪化するのかも不安です」

クリスマスの費用を賄えないことへの不安

パンデミックの影響を受け、クリスマスの行事は2年続けて中止あるいは小規模になっていました。今年ようやく盛大にお祝いできるチャンスが到来したように思えるものの、ここ最近の物価上昇は世界中で深刻な状態です。

イギリスの一般的な家庭の光熱費は年間で2,500ポンド(約41万円)と、2021年の1,000ポンド(約17万円)を大幅に上回りました。食品の価格も過去最高で、家賃住宅ローンの支払いも上昇しています。さらにイギリスは慢性的な賃金の停滞にも直面していて、信じがたいことに平均賃金は2008年と同様なのだそう。

その結果、イギリスの人々は日用品にかけられるお金も激減。全体としても節約傾向は強まっており、「YouGov」によると、60%の人はインフレの影響を受け、去年よりクリスマスの費用を抑えると回答。それでもクリスマスへのプレッシャーは依然としてあるのです。

イースト・サセックス州の母親援助団体「Mothers Uncovered」の創設者でディレクターのマギー・ゴードン=ウォーカーさんはこう話します。

「女性たちからクリスマスの費用が足りないという相談を受けています。自分の子どもに『食べ物を買うのも大変だから、欲しいものは買えない』と言うのはとても辛いことです」
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友人とのクリスマスのお祝いにも影響が

クリスマスの費用を削っているのは母親たちだけではありません。シャニースさん(25歳)はエディンバラ大学院に通う学生。勉強の傍らカフェでアルバイトをしているものの、経済状況に強いストレスを感じているそう。

「寒い地域に住んでいますが、9月に引っ越してきてから暖房は二回しかつけていません」

シャニースさんはクリスマス前になると友人とロンドンで食事をするのが恒例ですが、今年は欠席することに。

「お金を払うのは食事だけではありません。みんな美容院やネイルサロンにも行くし、新しい洋服も買います」

その費用は少なくとも150ポンド(約2万4,000円)以上。シャニースさんは生活費の支払い、そして来年の状況が心配で眠れない日々を過ごしていると言います。

クリスチャンである彼女は、クリスマスはキリストの誕生を祝い、自分よりも恵まれない人に対して親切にするためのものだと信じている一方、やはり気持ち的には難しい部分も。現時点では友達に「今年は勉強しないといけないから行けない」と言っているそう。

「お金が払えないから行けないとは言いたくありません」

「経済的な不安」を話す難しさ

心理学者で「British Psychological Society (BPS)」のメンバーであるオードリー・タング先生は、お金の問題は友人や家族の間であっても、タブーのままだと話します。

2020年の「Money and Pensions Service」の研究では、経済状況について話さない理由として、イギリスの55%の人が「恥ずかしいから」だと感じていると明らかに。タング先生は次のように意見しました。

「経済的な困窮について話すことで、多くの人が『周りからお金の管理ができないと思われるのでは』と不安に感じています。でも理解のある友達や信頼できる家族は、クリスマスにプレゼントを買えないのをわかってくれるでしょう。もしそれで理解を得られなかったら関係性を見つめなおしたほうがいいかもしれません」

ブライトン出身で教育関連の仕事をするジェスさん(34歳)は、親戚間で今年のクリスマスの費用についての会話をしました。毎年ジェスさんの義理の両親は、クリスマスの集まりを主催する際にはすべての費用をもってくれるそう。

今年はジェスさんとパートナーが主催し、二人の家に親戚が集まることになったものの、義理の両親のようにすべての費用を負担することはできません。

「すべてを払うことはできません。うちはツリーも買わないんです」

ジェスさんとパートナーの住宅ローンの支払いは、現在2,000ポンド(約33万円)。しかし、2023年前半には2,800ポンド(約46万円)に上がります。二人は必死に来年のローンを払えるように貯金中。そのため、ゲストには食べ物やお菓子、飲み物を持ってくるよう頼んでいるそう。

ジェスさんはほかにもどうやってお金を節約できるか考え中。中古品を購入したり、お金がかからずできることを考えたり…親戚は喜んで協力すると言っているものの、やはり気まずさはあると言います。

「プライドの問題だとは思います。家族なのでそうあるべきではないですが」
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クリスマスを見つめ直すきっかけに

多くの専門家は政府に対応を求めています。「Young Women’s Trust 」によると、88%の若い女性は、平均賃金の上昇と子育て費用の支援を求めています。 同じく「Women’s Budget Group」は政府に子育て費用の支援、そして税金の見直しを訴えています。

ブリストル大学の心理学者であるニール・アフマド先生は、クリスマスの慣習についてこう話します。

「クリスマスから年明けは、日々疲れている私たちが社会的に認められた休息期間です。ホリデーシーズンの慣習は、私たちを安心させ、幸せな気持ちにさせてくれます。しかし、そこにかかる費用と幸せはイコールではありません。クリスマスは愛やつながりを祝うもので、お金を使うことではないのです」

今年のクリスマスが経済的事情で苦しいと感じる場合、ファイナンシャルプランナーのエリー・オースティン=ウィリアムズさんは新しい習慣を作る機会として捉えることを勧めています。

実家に帰る費用がないのであれば、クリスマス映画を見たり、ホットチョコレートを作ったり、ボランティアをしたりするなど、何かちょっとしたことをして過ごすのもいいとアドバイス。

「もしかしたら新しい習慣をずっと続けたくなるかもしれません」

政府の動き

しかし、最もインフレの影響を受けている家庭は政府の援助が必要です。ジェイミー・ハント財務相は、イングランドとウェールズの貧困家庭へ追加支援をすることを11月に発表しましたが、支援開始は来年の4月。フードバンクの配給は増え、光熱費を支払えない家庭は200万件にも及ぶ今の状況に対し、多くの活動家たちはこれでは足りないと意見しています。

チャリティー団体「Joseph Rowntree Foundation (JRF)」の経済学者レイチェル・イヤウェイカーさんは、「ジェイミー・ハント氏が発表した支援は来年4月からですが、クリスマスからはかなり時間があります。状況は悪化するでしょう」と指摘しています。

※この翻訳は抄訳です。
Translation: Haruka Thiel
COSMOPOLITAN UK