ライフスタイルが多様化しているなかで、まだまだ「結婚=子どもを産む」「家庭=子どもを含むもの」という価値観が根強い現代社会。そのステレオタイプや周りからのプレッシャー、自分の身体やキャリア、ライフプランとのバランスで悩む人も少なくありません。

今回は不妊治療の末、“子どもを持てなかった”2人の女性にインタビュー。DINKs (Double Income No Kids:共働きで子どもがいない夫婦 )として生きていく決断や、現在のライフスタイル、同じ悩みを持つ人へのメッセージを聞きました。


さちこさん(専業主婦・31歳・結婚5年目)

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結婚を決めた理由を教えて下さい

一緒にいて楽しいし気を遣わないでいられるというのはもちろん、性格が真逆なのでお互いを高めあえると思ったのが理由です。小中学校の同級生で付き合いが長いということもあり、共通の友人が多い分、時間を共有することも増えて楽しく過ごせそうだなとも感じていました。

付き合った当初から「私たち2人の子どもがほしい! 家庭をつくりたい!」とお互いに考えていたことも大きな決め手ですね。

DINKsとして生きていくことを決めた経緯を教えて下さい

私たちは2人とも子どもを持ちたいと考えていましたが、4年前、突然医師から「今の医学で2人の子どもをつくることはできません」と告げられ、“子どもを持たないライフスタイル”を送ることになりました。養子を迎えるなどの方法で子どもを持つ選択肢もありましたが、2人の人生を生きることに決めたんです。

ただ、もともと「夫婦2人で生きていく」という人生設計をしていなかったため、何を目標にどのように過ごしていけばいいのか分からず最初は本当に戸惑いました。そのときに夫婦で話し合ったのは「2人だからこそできることは何か」ということでした。

今は子どもをもたない代わりに、自分たちにできることを探していこうといつも話しています。今後は2人で協力してできる仕事をしていきたいと考えていて、2人だからこそ行くことができる場所にもたくさん行きたい。

そして何より、夫婦2人の人生に自信を持って生きることで、同じような境遇で先が見えなくなっている方の自信にも繋がるような、そんな存在でいたいと思うようになりました。そして今はその目標が生きがいとなって夫婦2人の生活を楽しむことができています。

現在はどんなライフスタイルを送っていますか?

なるべく2人で楽しめることを増やす努力をしながら生活をしています。最近の休みの日だと、ゴルフの練習にいくことが多いですね。これからの先の長い人生の中で、一緒に長く楽しめる趣味があればと思い頑張って練習しています。

また平日、休日問わず外食することも多いです。2人とも美味しいご飯を食べることが大好きなのでいろいろなお店を開拓して、夜はホームシアターで一緒に映画を観るのも日課になりました。

家族のカタチが多様化している一方で、まだまだ“家庭”に関する固定観念が残る社会に対してどんな風に感じますか?

私たち自身が不妊を経験し2人の人生を送ることになってから1番感じているのは、「結婚=子どもをもつことが当たり前」という考えがまだまだ多いなということ。

「子どもはまだつくらないの?」「早い方がいいよ!」と言われることも多々あり、やっぱり結婚をしているのに子どもがいないということは不思議に思われる対象なんだ…と身をもって感じてきました。

そして“少数派”であるということだけでどこか生きづらさを感じたり、疎外感を抱いたりすることもあります。だからこそ「自分たちの家族の在り方はこうなんだ! 私たちはこう考えて生きてるんだ!」と自信を持って発信していくことは大切だと思っています。

それによって少しでも多くの人が生き方やライフスタイルなどの多様性について考える機会が増えていけばいいなと願っています。

ボレンズ真由美さん(MC/ライフコーチ/ポッドキャスト番組ナビゲーター40歳・結婚16年目)

結婚を決めた理由を教えてください

カナダ国籍の夫と日本で出会った当初から、彼の「将来中国に移住して起業したい」という夢について話していました。二人の関係が真剣な交際になるのと同時に、彼の夢が日に日に具体化し始め、自分もこの人と異国でチャレンジしたいと思うようになりました。

2005年の中国は、法律もビザ申請も厳しく、未婚の男女がマンションで同棲することも難しい時代。過去の経験から、遠距離恋愛を考えられなかった私は関係を終わらせるか、妻として自分を中国へ連れて行くか…究極の選択を当時27歳だった彼に迫りました(笑)。

ビザ申請と両方の親を安心させる目的でもあった結婚。中国への移住がなければ、結婚していたかは分かりませんが、それから16年間ずっとこの人と結婚してよかったと思っているのでいい選択だったのかもしれませんね(笑)。

現在はお互いの母国ではないシンガポールに住んでいるので、何があっても二人が引き裂かれない法律上の安心感と、どんな逆境も支え合ったり二人で乗り越えられるという精神的な安心感は、結婚を通して得られているものかもしれません。

DINKsとして生きていくことを決めた経緯を教えて下さい

私の場合は、“子どもを持たなかった”というより“持てなかった”。でも38歳で不妊治療を中断した私たちの選択に、後悔はありません。

医師には「まだ若いから頑張れる」「次は〇〇をやれば可能性はある」、周りには「諦めなければ必ず夢は叶う」と励まされましたが、8年間、お金・時間・エネルギーを注ぎきった私にとって、これ以上続けることが想像できず、まだ見ぬ子どもより今の自分と夫婦関係を最優先したいと思い、夫もそれに賛成してくれました。

子どもを授かる・授からないは自分では選択できないけど、子どもを産む・産まない、治療をする・しない、は選択できます。

長年望んでいた“理想の家族”を私たち夫婦は手に入れることはできませんでしたが、「人生こんなはずじゃなかった」と思いながらなんとなく時間を過ごすのも、「じゃあ子どもがいないライフスタイルを思いっきり楽しもう」とマインドシフトするのも、それぞれの選択だと思います。 私たちは後者を選んだ、ということです。

夫婦間でどんな話し合いをしましたか?

話し合いというよりは、私の決断に賛成してくれました。お互いに「やれることは十分やった」という気持ちがあったので、議論に議論を重ねた話し合いは必要なかったんだと思います。

後に当時を振り返ってお互いの感情をポッドキャストでシェアしたときに、二人の不妊治療の捉え方や生活への影響力が全く違うことに気づきました。

8年間を不妊治療に費やしてきた私にとっては、毎月のサイクルで期待と落胆のメンタル状態に振り回され、生活面では30代での色んな可能性を後回しにしてきました。

一方で夫にとって不妊治療は一時的に時間とお金を要するものと捉え、心が掻き乱されないように、また妻の私をしっかり支えられるように、精神状態を保っていたようです。

それを知らなかった私は当初、残念な結果を受けても変わらず仕事に集中する夫を見て、無関心だと感じたり、自分を残してどんどん成長していく姿を見て、なんとなく嫉妬心を抱いていました。

その後、私はNLP(神経言語プログラミング)という心理学を学び、自分の思考のクセや思い込み、無意識の習慣も見直すことで夫婦のコミュニケーションを改善することができました。

現在はどんなライフスタイルを送っていますか?

お互いフレキシブルな働き方なので、時間が取れる時は平日でもカフェで長いランチをとって、午後から仕事をするというようなスタイルです。

二人で休日をとるときは半分を自分の時間、半分を二人の時間に使うようにしています。友達を呼んで美味しい食事を囲んだり、二人で外食したり、デリバリーを頼んで映画とワインでまったり過ごしたりすることも。

30代のほぼ全てを妊活に注いでいたので、自分や夫婦に注ぐエネルギー、時間、お金を後回しにしてきました。今は、年齢にとらわれずにやりたかったことを全てやるようにしています。

お互いに自営業なので各自仕事に集中する時間は増えましたが、それ以外にもひとりでスペインに短期留学したり、二人で2ヶ月のヨーロッパ旅行に出かけたり、それぞれの勉強やウェルネスなど自己投資が自由にできるようになりました。

パンデミックが収まれば、以前のようにまた数週間の旅に出て、その旅先から仕事ができるライフスタイルに戻ればと願っています。 

家族のカタチが多様化している一方で、まだまだ“家庭”に関する固定観念が残る社会に対してどんな風に感じますか?

どの国や社会に属していても、社会や世間のノイズをシャットアウトして自分らしく人生を生きられている人はほんのわずかだと思います。誰もがそんな人生を望んでいても、それぞれの価値観や固定観念で人を傷つけたり、傷つけられたりする社会で暮らしているのが現実です。

でも大抵の場合、意図的に傷つけようとしている人は少ないはず。例えば私自身、LGBTQ+コミュニティについて当事者の友人もいるからといって、なんとなく理解しているように思っていました。しかしきちんと当事者から学んだことで、全く分かっていなかったことに気づきました。

何げなく発する「普通」が相手には普通でなかったり、無知であったりすることは悪いことではないと思います。だからこそ、知ろうとする人と当事者として声を上げる人が交わる機会が重要ですし、声を上げなければ、社会の偏見や固定観念を変えることはできないと考えています。

私の活動である「FLOW〜産まない産めない女性の幸せな人生計画」ではポッドキャストを通して、多様な人生を歩む当事者が誰にもジャッジされず、声を上げられる場所を提供することの重要性を感じています。 

実際、子を持つたくさんのママからFLOWへ応援メッセージを頂くことも。 子どもを持つ女性と持たない女性、その境界線にあえて接点を作ることでお互いに気づきが得られ、無意識にお互いを傷つけることは減ると私は信じています。