【ロンドンでのお仕事③】ラーメン店勤務 津村由紀子さん

私の武器は「日本!」。ユニークな職業で活躍する日本人女性たち in ロンドン

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「日本人が海外で働く」と聞くと、駐在員や現地企業での就職などをイメージする人は多いはず。しかし実際には幅広い分野で日本人が働き、活躍しています。

この連載で紹介するのは「日本人であること」を武器に、英国ロンドンで生き生きと働く魅力的な女性たち。起業した人、お店や部門の立ち上げに参画した人などさまざまですが、日本人としての良さを生かしつつ、ローカルに根ざしたビジネスで働いています。「イギリスで生きていく」と決意し、地に足をつけてたくましく輝く女性たち。彼女たちがここに至るまでの道、これからの展望を伺いました!(連載4回)

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ラーメン店「麺屋佐助」マネージャー&女将 津村由紀子さん

ここ数年、ロンドンは空前のラーメンブーム。飲食店が立ち並ぶSOHOWest End地区を中心に、次々にラーメン店がオープンしています。

津村さんがマネージャーを務める「麺屋佐助(めんやさすけ)」はロンドン中心部にあり、「ロンドン・ラーメンブームの火付け役」として知られるお店。実は津村さんはもともと通訳翻訳会社の社員。社長の「飲食店をやりたい!」という熱い思いから、会社が2012年にロンドン初の本格的ラーメン店(コラボ店)の立ち上げに参画し、津村さんも立ちあげチームの一員に。その後ポップアップ店の成功を経て、20144月に自社経営の「麺屋佐助(めんやさすけ)」をオープン。現在マネージャー兼看板女将として奮闘しています。

ひょんなことからロンドンラーメン界をけん引する存在となった津村さんにお話を伺いました。

―現在のお仕事について教えてください

「麺屋佐助」のマネージャーとして、裏方業務とフロア業務の両方を担当しています。

裏方業務はPRとマーケティング部門を主に担当し、具体的にはウェブ&SNS管理、メディア対応、宣伝、そして商品開発をしています。フロア業務はスタッフの採用とトレーニング、そして週5日「女将(おかみ)」としてお店に立っています。オープン当時はあくまで裏方業務がメインで忙しいときだけフロアにも立つ予定だったのですが、いつの間にやら「女将」が定着してしまいました(笑)。

笑顔で接客中。お客さんの中には「女将・由紀子」のファンも多い。

イギリスは、私が私らしくいられる国

―イギリスに来た理由は?

19994月に語学留学のためにロンドンに来たのですが、実は私、1回帰国しているんです。大学卒業後、東京で通信教育や英会話学校で営業の仕事をしていたのですが、2002年のワールドカップ日韓共同開催が決まり、大のサッカーファンだった私は「ワールドカップでボランティアをやりたい!」と思ったんです。しかも「できれば選手の近くにいきたい」という野望(笑)を持ってしまったので、英語を使う職種に応募したかった。当時英会話学校に勤めていたので英語の勉強はしていたのですが、これを機に本格的にやりたいなと。

正直イギリスに何かを期待していたわけではなかったのですが、住んでいるうちにイギリスがすごく好きになったんです。あまり他人に干渉しないイギリス人気質が私には合っていました。温かくも冷たくもない、人と人の距離感がちょうどいい「ほっておいてくれる国」。私が私らしくいられる国だと感じました。学生だったので気楽な生活だったこともありますが、居心地がよかったんですね。

ロンド中心部ピカデリー地区にある「麺屋佐助」。ピカデリー・サーカス駅のすぐ近くという絶好のロケーション。
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2年間滞在した後、ワールドカップのボランティア募集の開始に合わせて2001年に帰国しました。ワールドカップでは実家のある北海道でのボランティアに応募し、念願かなってメディア担当に! 選手の近くにも行けましたし、本当に素晴らしい経験をすることができました。

そしてワールドカップ後、20029月にロンドンに戻ってきました。戻ることは帰国前に決めていましたが「もう語学学生は十分やったし、働いてみたい」という気持ちがありました。とはいえ就職先を探すのは難しいのでインターンシップが組み込まれている1年間の留学プログラムに申し込んだんです。大学で授業を履修し、最後の3カ月間はイギリスで日本語のレストランガイドを出している小さな制作会社で翻訳の仕事をしました。

インターンが終わるとき、その会社から「就職しませんか?」と言っていただいたんです。本当にラッキーでした。

その会社で5年間働き、2008年末にイギリスでの永住権を取得。その後、翻訳・通訳会社に転職しコーディネーターとして働いていたのですが、この会社の社長が「いつか飲食店をやりたい」という夢を持っていたんです。その話は聞いてはいましたし、情報を収集しているのは知っていたものの、本当に実現させるとは思わなかった(笑)。

店内(1階)。ランチやディナータイムには満席になる。

【翻訳・通訳から、‟ラーメン"の世界に】

その会社がラーメン店をオープンした?

そうなんです。まず2012年に日本の人気ラーメン店とのコラボによるロンドン初の本格派ラーメン専門店が開店することになり、弊社が立ちあげに参画することになりました。当時は社長を入れて社員4人の小さな会社だったのですが、社長の情熱に全員が巻き込まれ(笑)まったく畑の違う未知の業務に関わることに。翻訳・通訳からラーメン、知らないことだらけでしたが、1から立ち上げに関われたのは本当にすばらしい経験でした。

右から社長の佐々木さん、津村さん、アルバイトスタッフのじゅんこさん。佐々木さんは経営だけでなく、毎日キッチンに立っている。

立ちあげは成功。在英日本人は「ロンドンでやっと本格派ラーメンが食べられる!」とすごく喜んでくださり、現在のロンドン・ラーメンブームを作る発端となりました。その後日本のデパート・三越ロンドン店(2013年に閉店)の中に約7カ月間のポップアップ店「三越ラーメンバー」を開店したのですが、この店は立ち上げからメニュー開発、運営も弊社が担当しました。

その後いよいよ自社経営の「麺屋佐助」を開店することになり、約8カ月の準備期間を経て20144月にオープンしました。

開店するその日まで「何が起こるか分からない」と思っていました

ロンドンでラーメン店を開店するにあたり、難しかった点は?

正直難しいことばかり(笑)! まず店舗物件の契約は本当に大変でした。イギリスは店舗賃貸の契約のプロセスが大変複雑で、恐ろしいほどの書類手続きが必要です。すべて確認しなくてはならないだけでなく、条件も所有者側の意向でコロコロ変わってしまう。交渉はタフな上に時間がかかり、「麺屋佐助」は開店までの準備期間が長かったのもそのためです。

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これまでに関わったどのお店も開店するその日まで「何が起こるか分からない」と思っていましたし、無事開店できるか不安でした。でもそれは今も毎日同じかもしれません。機材や食材も、購入したものがちゃんと届かないこともあります。例えば購入した大きな冷蔵庫が壊れていても販売業者は「配達中で壊れたのだからクレームは運送会社に言って」と言い、運送会社は「元から壊れていたに決まっている」と、結局たらい回し。そんなことは、日常茶飯事です。

また日本では当たり前に揃うものが、イギリスでは簡単に手に入らないことも。例えばスープ用の大きな寸胴鍋も寸胴鍋用の低いガス台(注:丈のある鍋の場合、ガス台の位置は低い方が使いやすい)、麺の湯をきるため「湯切りざる」もイギリスにはないので、探して輸入しなくてはなりませんでした。

材料もしかり。例えば小麦粉も日本とイギリスでは味が異なることは実験して分かりました。イギリスの小麦粉では「しこっ」とした麺にしあがらないんです。ラーメンの味によって麺の太さも変えているのですが、イギリスにある製麺機ではつけ麺用の「太麺」を作ってもらえない。

そういう問題11つを、経験を積みかさねることで乗り切ってきました。取引先が新しい人脈を紹介してくれたり、「こんなものもあるよ」と教えてくれたり。現在もみなさんに助けられながら、少しずつラーメン業界に必要なネットワークを広げています。

味やサービスの面で心がけていることは?

ロンドンには今続々とラーメン店がオープンしていますが、ほとんどが豚骨ラーメンを売りにしています。ラーメンブーム初期にできたお店のほとんどが豚骨ラーメンを主軸にしていたこと、またイギリス人の舌と豚骨の相性が良かったこともあるのだと思いますが、「ラーメン=豚骨スープに麺が入ったもの」と思っているイギリス人も多いんです。

「麺屋佐助」のシグニチャー・ディッシュ「味噌ラーメン(9.90ポンド)」。札幌風の濃厚な味が人気。

そんな中、当店の1番の売りは味噌ラーメンなんです。札幌ラーメン風の味噌味もイギリス人に受け入れられると思いましたし、ラーメンにもいろんな味があるとこを知ってもらった上で他店との差別化もはかりたかったんです。

日本人が食べて美味しい本当のラーメンを出したいと考えていますが、ローカルの人たちに受け入れられるための工夫はしています。イギリスにはイスラム教徒ややベジタリアンも多いので、チャーシューの代わりにチキンを乗せたラーメン、ベジタリアン用のラーメンも開発し人気の1品となっています。

魚介だしをきかせた「つけ麺」(10.90ポンド)。こだわりの太麺とスープの相性はバツグン。

【現地スタッフをトレーニングする難しさ】

サービスも「日本スタンダード」を基本にしています。イギリス人、欧州人のお客様もたくさん来てくださいますが、平日の夜の営業は会社帰りの日本人の方が半分以上を占めています。日本にいるような気持ちでくつろいでいただくために、日本式の丁寧なサービスを提供したいのですが、働いてくれるスタッフ全員が日本人というわけではないのでこの点は苦労していることの1つです。

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例えばお客様がメニューを開いたら、スタッフにはすぐにオーダーを取りにいってほしいのですが、日本人スタッフは気づいてもローカルスタッフはお客様から声を掛けられないとなかなか動かない傾向にあります。また何かお客様からクレームがあった場合の対応も、日本人とローカルスタッフの間では差があります。「お客様は神様」的な発想がこちらにはないので、そういう日本式の考え方やおもてなしの心をローカルスタッフに分かってもらうのは大変です。でも彼らも大事な仲間です。彼らの思いも分かった上で、一緒に良いお店にしていくためのスタッフトレーニングも私も大事な仕事の1つです。

これから目指すものとは?

「麺屋佐助」はラーメン店としてスタートしましたが、日本の美味しい家庭料理のメニューを充実させ、現在はラーメン店と居酒屋、両方の用途でご利用いただけるお店になっています。

おすすめの居酒屋メニュー。美味しいおつまみがリーズナブルな値段で食べられる。
居酒屋メニューの目玉の1つ「おでん」。年間を通じて提供している。

まだイギリスでは日本食といえば「寿司」というイメージが強く、「高い」という印象を持っているイギリス人も多いんです。当店はリーズナブルさを大切にしつつ、日本の美味しさをイギリスに伝えていきたいと思っています。

【店も自分もステップアップしていきたい】

私はこれまで飲食店で働いたことはなかったですし、接客業も学生時代に少しバイトしたことがあっただけでしたが、この仕事が本当に自分に合っていると実感しています。毎日たくさんの方々にお目に掛かることができ、刺激をもらえます。またメニュー開発や店の内装など、考えたことが目の前で形になり、お客様の反応が直に分かるのも魅力です。

立ち上げや店の運営に携わり、さまざまなことを学び経験をすることができました。今またいろいろな企画が控えており、忙しい毎日を送っています。今後、店も自分自身もさらにステップアップしていけるよう、頑張っていきたいです。

津村由紀子さん:

北海道札幌市出身。大学卒業後、通信教育と英会話学校で営業を担当。1999年に来英し、2年間語学を学び帰国。2002年に再来英。ガイドブック制作会社を経て翻訳・通訳会社にコーディネーターとして勤務。ラーメン店立ちあげ事業の一員となる。2014年より「麺屋佐助」マネージャー兼看板女将として活躍中。

麺屋佐助サイト

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