奴隷として労働や性労働を強いられている人が推定23万人以上いて、国際社会から数十年間に渡り非難されている国、と聞いて、どこの国を思い浮かべるでしょうか。

答えは、日本です。

アメリカ政府が定める「人身取引年次報告書」で、日本はTier 2に分類されています。これは、「改善に努めてはいるが、最低基準を満たしていない」という評価で、先進国でこの評価を受けているのは日本だけ

国内の女性を人身取引し、性労働から抜け出せないようにする。企業の外国人研修制度でやってきた外国人のパスポートを取り上げ、無賃金で毎日長時間働かせる。東南アジアやヨーロッパなどの女性に、ホステスの仕事があると言って日本に来させ、監禁状態で性奴隷として働かせる。

なぜか大手のメディアではほとんど取り上げられませんが、こういうことが実際に、今こうしている間にも、国内で起きているのです。

元読売新聞社会部の記者 Jake Adelstein氏が書いた「Tokyo Vice」という本があります。日本人が気づいていない日本がたくさん出てくるのですごくオススメ。その中に、彼が実際に直面した人身売買の被害者とのやりとりが何度か出てきます。ホステスやバーの仕事があるよ、と騙されてヨーロッパからやってきた女性たちは、日本に着いた瞬間にパスポートを取り上げられ、強制的に寮に入れられます。

高額な寮の宿泊費や食費を請求され、知らない間に法外な借金をしている構図にされていて、体を売って借金を返すまでは家に帰さないと言われる。逃げれば自分の国に残してきた家族や子どもに危害を加えると脅され、精神的に大きな傷を負いながら毎日性労働を強いられる。パスポートもないし日本語もわからない、警察に行けば売春や不法滞在の罪で自らが逮捕されてしまうという恐怖から警察にも駆け込めない。

これを読んだとき、私にとって身近な遊び場である六本木や新宿が、彼女たちにとっては監禁場所であること、また日本人の私が「いい国」だと漠然と認識しているこの国が、彼女たちにとっては一刻も早く逃げ出したい地獄であることに衝撃を受けました。

これは到底すぐには解決できない問題ですが、解決に向けてまず、日本人がこの問題を認知することが重要です。たとえば軽い気持ちで通っていた風俗やストリップクラブが、そうした犯罪の温床となっているかもしれない。そこに客としてお金を落とすことで、人身売買のシステムを金銭的に支援してしまっていることになります。

ふたつめは、偏見を捨てて、売春に対する罰則が本当に適切なのか、問題視してみること。人身売買に関する海外の資料を見ていると、日本は「性奴隷の被害者が売春などの罪で罰則を受ける」ことが留意点として挙げられています。そのために、被害者は警察にすら助けを求められない。

ではどういうオプションがあるのか。スウェーデンでは今から17年前、売春に関して罰則を受けるのは買う側のみとし、売る側への罰則は廃止しました。それと同時に生活保護などの社会福祉制度を整え、「性労働に従事している女性は犯罪者ではなく被害者である」という考えを教育や警察官への研修を通して周知させています。

その結果、人身売買で連れてこられる女性の数が減り、法務省の発表によると売春の件数自体が50%減少しました。この結果を受け、ノルウェーとアイスランドも同様に、売る側の罰則を廃止しています。

ニュージーランドも売る側に罰則を与えるのをやめましたが、その結果、70%の女性が、客に暴力を振るわれた際に警察に通報できるようになったと述べ、従事する女性の数も半分以下に減りました

オランダでは売春自体がそもそも合法ですが、合法であることにより、他の業界と同じように企業が運営し政府が管理できるため、闇組織が金儲けできる余地が大幅に減るほか、女性側が組合を作れたり、給料未払いなどの訴訟を起こすことが可能で、違法に労働させられない、などメリットは様々です。

むやみに違法化・罰則化することで、その「業界」自体が実際には存在するにも関わらず法的には存在しないことになってしまい、かといって根絶は現実的ではないため、結果として全てが闇の中で行われることになります。その結果、違法組織が暗躍し、被害者は無法地帯の中にさらされることになる。

これは麻薬でも同じことで、例えばポルトガルでは、麻薬を使用する側の罰則を廃止し、その代わりに治療やリハビリを強化することで、麻薬常習者の数を減らすだけでなく、麻薬による死者の数も大幅に減らすことに成功しています。

日本では当たり前に刑罰が課せられていることも、ほかの国では見直した結果、問題が根本的に大きく改善されているケースがあります。興味がある人は、ぜひ「decriminalization(罰則の廃止)」で調べてみてください。

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