2015年11月13日21:30(現地時間)、パリで同時多発テロが起こったことは記憶に新しい。その時の居たたまれない気持ちを抱えたまま、SNSで錯綜する情報を眺めるほかなかった人も多いのでは?

 すっかり秋も深まった夕暮れ時。在ニューヨーク・フランス領事館の前には多くの人から手向けられた花とともに、思いの詰まったメッセージが掲げられていた。もちろん、「PRAY FOR PARIS」の文字も。

 そこに面した通りで、タバコを吹かしながら一連の光景を見つめる1人の男性に出会った。

 パリ出身のウィリアム(23)。大学院での研究のためにニューヨークに住んでいるが、家族はパリに住んでいる。しかし、彼は祈ることはしないと言う。彼の口から出た言葉には、私を含む20代が焦点を当てるべき本当の問題点が詰まっていた。

動乱の世界情勢、"デジタルネイティブ世代"ができること
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彼は「祈ることは改善策ではない」と語った。

「僕はここに、ただ考えるために来たんだ。僕にとってのファミリーのことをね」

私は思わず「祈りを捧げにきたわけではないの?」と尋ねた。

すると「僕の世代は、インターネットで、物事が進む速さを実感してきた。アナログではないんだ。だから祈るよりも、情報を得て世界で何が起きているのかを心と頭で整理したほうが性に合っているというか、良いと考えているんだ」哀しそうに淡々と彼は、続ける。

「多くの情報を得て、例え遠くで起きていることでも、見落とさずに自分たちの問題として受け入れていくことが大切だと思う。いまも、祈ってパリを想う前に、世界でなにが起きているかを知り、どうすれば解決できるか考えていかないと」育った環境や国は違うけれど、同世代の彼の意見は、私の心に響いた。さらに、「今回の件で僕が考えているのは、何人もいるイスラム教徒の友達のこと。もし国やどこか強い力がイスラムを一括りにしてしまったら? 僕にとってはもっと恐ろしいことが起こる」と話し、私は耳を傾けることしかできなかった。

「僕たちが青春を過ごしてきた10年で、世界全体の状況が不安定な方向に一気に向かった。ただ、一方で、海外により出やすくなって、僕たちの世代は、たくさんの人種、バックグラウンドを持つ人々と出会っている。SNSで国を超えて友達を作ることだってできる。これからは、どこの都市に住んでいるかが重要ではないと思うんだ。世界の人と協力したり、話し合ったりする、それで多くのことが前に進むと思う。10代から、国を超えて情報を得るのが普通で、海外の友人のことも理解したいという気持ちが強い、これが、僕ら世代の財産だと思っている。僕たちは『国を越えてアイディアを考えること』ができるんだ。それは祈ることよりも、もっと実質的で前に進むためのことだと思う」と語ってくれた。宗教や国を越え、世界を相手に個人としての役割を模索する彼の意見は、SNSやインターネットを駆使してきた世代の価値観が色濃く反映されているように思えた。

 私たちデジタルネイティブと呼ばれる世代は、豊かでネットの普及した便利な時代に青春時代を過ごし、多くの経験を10代からしてきた。自分たちが経験したことを活かし、いつでも前に進もうとする心持ちがあるのだろう。彼のように自分自身で考えてみたい。私たちがそれぞれ小さくても世の中にどんな恩返しができるのか。