世界で唯一女性の運転を禁じていた国サウジアラビアで20179月、来年6月から運転が許可されるというニュースが飛び込んできました。このニュースが世界中で報じられたのですが、これはサウジアラビアの「女性の権利が大きな前進をしている」として注目されたから!

実は、世界経済フォーラムが2016年に発表した世界男女格差指数のランキングでは、サウジアラビアは144カ国中141位。そんなサウジアラビアでは女性が「できないこと」がまだまだたくさんあるのです。伝統と現代化の狭間で、「女性の権利」が大きく動こうとしているサウジアラビア出身の女性2人に、実際の生活について伺いました。

サウジアラビアの女性への制度はなぜ厳格?

イスラム教において女性は保護するべき存在。そして、そんな考えを他の中東の国々よりも厳格に解釈をしてきたのがサウジアラビア。数ある女性への制度の中で最も知られるのが、結婚や海外旅行など、女性の人生における選択の "決定権を男性(父親、夫、息子など)が握っている"という後見人制度 。その他、服装や男女の接触などにも制限があり、街では宗教警察がパトロールをして見回っています。

伝統と現代化。サウジアラビアで何が起きている?

旅やSNSなどを通じて海外の価値観を知る若者と、伝統的なイスラム法を法体系とする政府にはギャップが開くばかり。そんななか、中東や北アフリカで広がった民主化を求めた反政府デモ「アラブの春」も影響して、サウジアラビアでも厳格な政治へ民衆の不満が向けられるように。2016年には女性の権利への不満を訴えたミュージックビデオが<YOUTUBE>で公開され大ヒット。その後、今年の6月には車を運転していた女性が逮捕され反発の声が挙がるなど、より注目されるように。

そこで、32歳のムハンマド皇太子兼国防相が発表したのが、現代化を目指す大胆な政策「ビジョン2030」。経済、国の方針を決め、女性の労働力を増やすなど計画を掲げています。

経済の向上には女性の力が必要。そんななか認められた「女性の運転」は、国の経済効果や女性の労働力向上にもつながりそうです。

Women's Empowerment ! インタビューに答えてくれたサウジアラビア人女性

▼ラハさん

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サウジアラビア人女性として初めて、世界一高い山エレベストの頂上に達し、キリマンジャロなど7つの山々の頂上まで登った。サミットなどでスピーカーとして話すために世界中を多忙に飛び回る一方、タグホイヤーのアンバサダーを務めNIKEのキャンペーンにも登場。

▼アラヌドさん

隣国アラブ首長国連邦の都市ドバイを拠点とする、ファッションデザイナーのサウジアラビア人女性。キム・カーダーシアンやレディ・ガガも彼女の手掛けた服を着るほどのハイセンスで、中東でファッションリーダー的存在として活躍中。

2人はサウジ女性として大胆なチャレンジをされていますが、その背景は?

ラハ:私はサウジアラビアの極一般的な家庭で育ったのですが、あるとき、人生でなにか新しい大きな冒険がしたいと思うようになって。でも、当時はその冒険がなにか分からずに、ネットサーフィンをしながらひたすら探していたの。そんなときにキリマンジャロを登った女性のことを知り、すごく惹きつけられたのがきっかけで山登りを考えるようになったわ。両親に認めてもらうまで、かなりの時間がかかったけど、最後には理解してくれました。山を登った後、アラブ中の女性たちから「勇気をもらった』」、SNSを通してメッセージが送られてきたのは本当に嬉しかった。

アヌルド:はじめは金融機関のPRとして働いていたんだけど、ファッションが大好きでお金をためてオンラインブティック、ファッションブログなどを経て自分のブランドを創設したの。当時、伝統的な衣装を着ずに公の場に出ていたサウジ女性としての私を、メディアが注目してくれて。

一時期、保守的な人たちから不評を買うこともあったけど、それでもファッションデザインを通してサウジ女性の可能性を実証できていることをとても嬉しく思っているわ。

サウジアラビアで女性が「できること」「できないこと」

運転が解禁に!サウジアラビアの女性に聞いた「女性の権利」
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人生&日常生活編:人生の選択肢には、男性の承認が必要

日常生活での制限の例

  • 裁判所での女性の証人の効力は男性の半分
  • 女性の遺産の相続は、男性の親族がもらえる半分の金額を受け取る
  • パスポートの発行、銀行の口座開設、海外旅行など男性の許可を得る必要がある
  • 女性1人での外出は基本NG

▼スポーツ

ラハ:サウジでは女性が気軽に外でスポーツをすることはできないわ。家の敷地内か、学生なら学校などで運動するしかない。女性専用のジムも街で見かけるようになったけど、それも最近のこと。

2013年から女性が自転車に乗ることが解禁されたけど、それは公園など特定の場所だけ。そして全身を覆うアバヤを着用しないといけないことや、家族の男性の付き添いが必要だから、現実的には自由に乗れるわけではないの。

女性の車の運転

ラハ:運転ができるようになったことは、大きな出来事です。従来の移動手段は外国人の運転手を雇うか、父や兄弟などに運転してもらうこと。歩くのは、夏の気温が50度にもなる日があるので、アバヤ(身体を覆う伝統的な民族衣装)を着て歩くことは現実的ではないの。今後、女性が運転ができるようになることで、子供の学校への送り迎えが行きやすくなるなど、生活も社会も変化がみられると思うわ。一方、なかには新しい社会の「変化」を恐れている女性もいる。

仕事

ラハ家族が娘にしてほしいと思う仕事や生き方を選ぶという女性がまだ多い。単独で決めれるわけではなく、保護者を説得しないといけない。だから、私のように自分で好きなことをしたいという人にはとても厳しく感じるの。

アラヌド:もちろん1人1人違いますが、一般的なサウジの女性像は"夢を持っている主婦"だと思います。叶えることができる人もいるけど、勇気をもって踏み出せない人も多いわ。

ファッション編:頭髪や身体を覆うのはどう感じる?

運転が解禁に!サウジアラビアの女性に聞いた「女性の権利」
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ファッションに関する制限の例

  • 服装は慎み深くあることが基本。「イスラム法」の厳しい解釈のもと、女性は頭髪を隠す「ヒジャブ」や、身体を覆う民族衣装「アバヤ」を外出時に着ることが義務付けられている。

ラハ:一歩家の外に出ると、アバヤを着る必要があるわ。でもその下は、欧米や日本と同じように最新のワンピースやオシャレを楽しんでいるのよ。スーパーに行くときなどは例外だけど(笑)。ファッションは私にとって、自分を幸せにする要素。たとえどんな服を着ているか外から見えなくても、自分を表現して心地良く感じることが大切だと思っているわ。

アラヌド:私にとってアバヤは伝統を象徴するもの。サウジでは敬意を表すものだから、誇りを感じているし、アバヤを着るのは大好き。特にラマダン(断食をし、神の恵みに感謝する神聖な月)の時によく着ています。それに、最近のアバヤはデザイン性の高いカット、色合い、レースや刺しゅう、フリルなどバリエーションも豊富。形自体もエレガントで、アバヤを現代のファッションにアレンジしているデザイナーもよく見かけるほど。

そしてアバヤを着るときにこだわるのは靴とバッグ。たった2つだけ外から見える部分だから、手は抜けない!

恋愛編:公共の場では男女別!

運転が解禁に!サウジアラビアの女性に聞いた「女性の権利」
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男女関係に関する制限の例

  • 結婚は親族の男性の許可がいる。外国人と結婚する際は、政府の許可がいる
  • 公共の場には「家族専用」と「シングル(男性)」のエリアに分けられ、男性と女性は交じり合わないようになっている
  • 結婚前の性交渉が発覚した場合、死刑に至ることも
  • 結婚の年齢の規定がないため、10歳などでも児童婚をすることがある

ラハ:サウジでの結婚は25歳以上では遅いとみなされている。そして、レストランやスターバックスなどのチェーン店でも男女でエリアが仕切られているの。もちろん学校も、男女別だったわ。私は家族の友人の男性などに会う機会があったけど、ほとんどの親は親戚や家族でない限り、娘を男性に会わせることを嫌がるの。

アラヌド:結婚をする場合、伝統的には男性の母親が、結婚相手にふさわしい娘を探すの。私はまだ婚約者がいないけれど、家族に黙ってデートするような裏切ることは絶対にしないわ。

サウジアラビアで、今後変わってほしいと願うこと

ラハ:サウジの女性は小さな頃から、女性は男性と同じように強くない、だからできることが少ないと思わされて育ちます。女子は守られるべき存在で、社会がなってほしい姿を目指すべきと教えこまれるんです。そして男性にとっては学校で何を勉強するか、結婚相手を選ぶかなどの選択は簡単な一方で、女子にとっては両親の意見が強い力を持つのが現状。

だけど、そのメンタリティを変えたいんです。女性と男性、それぞれの性に良さがあるから、同じように育ってほしいとは思わないけど、平等に感じるように育ってほしい。

本当の自分になることを恐れて、誰かのために自分を制限していたら絶対に幸せになれない。自分の人生の主権を自分で握って貫けるよう、勇気づけていきたいんです。

そして、今の私の夢は、宇宙へ旅に出ること! この夢もいつか叶えてみせます。

アラヌド:サウジが今行っている『女性の権利』への方針に賛成です。国内には才能を秘めている女性が多いから、自由にそれを発揮することが大切。今後の改革も時間の問題だと思う。