見られる、賞賛される、欲情される。エスカレートする「イイネ」の果ては?

今月のテーマは「刺激」。コスモ女子たちにとっての刺激って何かしら。ワクワクするファッションやコスメで盛った姿を、街やインスタの世界に披露すること? カレが、欲しそうな熱い目で自分を見てくれること? あなたの生み出す仕事や言葉が、すばらしいって評価されること?

ここ数年、「承認欲求」なんて言葉をイラッとするほど聞かされてきたと思うけど、アタシたちは結局、他人からの「イイネ」を求めてるんだって改めて思い知らされちゃうのよね。

刺激は、退屈な日常に彩りを与えてくれる必要不可欠なもの。…であると同時に、すぐに慣れてしまうもの。初めてついたイイネは、10件でもありがたかった。でもいつの間にか、もっともっとと思う自分がいない? 欲しがり続けた果てに待っているものって一体…。

そんな想いに冷水を浴びせてくれるような映画を観てきたの。恵比寿ガーデンシネマほかで公開中の『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』。

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©FILM NELLY INC. 2016

高級エスコート・ガールが文才を活かして自伝のような小説を書いたら、それが大ヒット。時の人となった彼女が、カラダを売る自分、彼氏との世界に溺れる自分、セレブ気取りの自分、表現者としての自分を行き来するうち、孤独と虚無感に苛まれ、自宅で首を吊ってこの世を去るという、哀しいお話。実はこれ、実話を元にしているの。

ネリーは2001年、28歳の頃に書いた小説が、フランスで最も権威のある文学二賞(日本でいったら直木賞と芥川賞?)にダブルノミネートされ、有名作家になった実在の女性。高級娼婦の経歴を生かした性体験の虚実入り交じる作風と、金髪美女にグラマラスなボディという本人のビジュアルが、文学界に大きな刺激を与えての受賞だったのね。

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©FILM NELLY INC. 2016

この作品は、最期まで謎の残された彼女の姿を、小説の中にも登場したペルソナ=彼女の持つさまざまな仮面に分けて描いてる。映画の中では髪色や呼び名が変わるけど、パッと見じゃややこしい多重キャラになってるのね。

でもこの感覚、いまどきの人がリアルでやってることにも近くない? まあ、アタシみたいな、"やすきおじさん"と"ブルボンヌねえさん"を切り替える強烈な振り幅の人は少ないにしてもよ。みんな、学校や職場、家庭、友達グループ、SNS、夜遊び、オンラインゲーム…それぞれの空間で相手に合わせたキャラや呼び名を持って、けっこうな使い分けをしてる人は多い時代よね。

ネリーも、それぞれのペルソナが、刺激を求めてエスカレートしていくの。作家としての才能への賞賛はもちろん、娼婦の時は男たちのむき出しの欲望に晒されるスリルとお金を、パーティ・ガールの時は彼氏との恋とドラッグに溺れる快楽を、セレブになりきればハイファッションとカメラのフラッシュを。

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©FILM NELLY INC. 2016

でも最初にも言った通り、刺激ってキリがないのよ。

アタシもね、ネットもなくて、他に同性愛者がどれくらいいるのかも分からなかった高校生の頃は、男と恋愛したりスケベなことをできたら死んでもいいと思えるくらいに憧れてたの。でもいざヤれちゃうとすぐにそれは当たり前のものになるのよ~。

20代~30代前半の盛りがついてた頃には、プレイ内容も恋愛模様もこれでもかってくらいアバズレ化が進んだわ。アタシは加齢はじめ環境の変化の中で、イロコイ狂いが落ち着いたちゃったけど(正直ちょっと寂しい)、ゲイのイロの深みはなかなか壮絶よ。入れるものがどんどんデカくなっていって、最後は腕二本飲み込んじゃう人や、エロスポットで手を出される喜びを追い求め、夜な夜な来る者拒まずで待つようになる人。ゲイは比較的「ヤリたい」オトコという性同士な分、その刺激を楽しむチャンスも溺れるリスクも多いのよね。

女性は単なる肉欲だけを求める人の割合は少ないから、暴走のきっかけは減るだろうけど、ネリーよろしく仕事として触れてしまったり、(古いネタだけど)東電OL事件みたいに社会の抑圧の中で、性という刺激にハマる人も少なからずいるでしょう。

でもストレート女性の場合、相手にするのは男たちだからね。ヤリたいくせにヤラせる女を低くも見るような男も多い中で、加齢という軸に右肩上がりの満足を感じ続けるのは厳しいテーマよ。売れっ子だったネリーが、お客に「写真と違う。年ごまかしてねえか」ってツッコまれた時のくやしさは、「求められる性」に頼ったゲイも女もいつか必ず味わう冷水じゃない。

求められる性の刺激、なんてピンとこない? じゃあ「キレイになる」欲望のエスカレートなら分かりやすいかしら。刺激って、感覚を「麻痺」させちゃって、さらなる刺激を求めるから恐ろしいのよ。

ほら、誰がどう見ても「あの人のお直し、レベル2くらいでやめておけば一番バランスも良くてキレイだったのに、なんでレベル5までやっちゃってるの~」って思えるお顔の人、いるでしょ。あの人たちも元は普通の感覚からスタートしてるんだけど、「変身する喜び」って刺激が、変身完了のたびに麻痺していっちゃうのよね。もう得てしまったものだから、そこを基準にリセットされて、そこからの美化という刺激に気持ちが進んじゃう。

これと同じことが、アタシたちの欲しい刺激全てで起こるんだって気づかないとね。ファッショニスタをきどっても、美容を極めても、お金やフェイシャル加工にも限界はあるから、カード破産や顔面崩壊にもつながる道だって分かってないと。業績を上げたり賞をとったりしても、それだけを自分の存在価値にしちゃうと、ずっと勝ち続けられるわけがない以上、落ち込む未来が待ってるもの。

ネリーは、若さも美貌も才能も、すべてが目減りしていく自分に耐えられなくなった。多くの女性が感じる悦びと哀しみの振幅を、コントラストを強く強くしてしまったような存在だったんじゃないかしら。だからこそ、その実話は戒めとして意味があるのよね。

誰もがタレント化した、刺激があふれる時代だからこそ、溺れないように気をつけることも重要よ。

わかりやすい対処法は、それぞれのテーマに上限を決めておくこと。予算でも頻度でも、それを超えたら一度思い直せよって段階を意識しましょ。アタシも、ビューティプラスのエフェクトはレベル3までって決めてるよ!(どうでもいい)

あとね、20代の頃はさんざんアバズレまくったアタシが、最近はむしろ王道のイチャイチャが大好きなように(またいらない情報)、間を置いたり、自分が変化すると、また刺激の感じ方も変わるものだから、エスカレートしてるなって時はそのテーマからいったん離れるのも良いかも。イイネの数が気になって仕方なくなってるなら、一週間SNSを開かない、とかね。

楽しさ、気持ちよさ、ワクワク感――人生を彩るいろんな刺激を受けつつ、ハマりすぎないバランス感覚をもって~。HAVE A NICE FLIGHT



『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』

1021日より「YEBISU GARDEN CINEMA」ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:アンヌ・エモン/プロデューサー:ニコール・ロベール 

出演:ミレーヌ・マッケイ/ミカエル・グアン/ミリア・コルベイ=ゴーブロー 

2016年/カナダ映画/フランス語/カラー/ヴィスタ/原題:NELLY99

配給:パルコ