イギリス在住10数年の著者が、ロンドンで家を買うことに。しかしこれが想像を絶する大変さ…! 1年4カ月の苦闘の末、やっと家が買えた著者でしたが、入居した家には問題がいっぱい! すべての戦いを終結し、穏やかな日々はやってくるのか!? (連載6回・最終話)
■隣のイケメン、登場
やっとのことで購入し、入居したフラット(マンション)。しかし建物そのものに電話線が来ていないことが判明し、建物のオーナーとの苦しい交渉を続けていました。電話線がないのでネットが引けない「ネット難民」になって4カ月。解決の目途が見えぬまま、2015年も残りわずかに…。
途方にくれたクリスマス直前のある日、我が家をノックする音が。ドアを開けてみると、30代前半と思わしきイギリス人青年が立っていました。
「今度隣りに引っ越してくるジェームスです。あの、ちょっと聞きたいんだけど…インターネット、どうしてるの?」
キタ~~~!
孤軍奮闘だった私たちですが、もしかしたら一緒に戦ってくれる相棒の到来!?
私:「あのね、長い話なのよ…」
カンのいいジェームス君、私の一言ですべてを悟った模様。ものすごい形相になり、ヨロヨロとしゃがみこんでしまいました。
ジェームス:「オマイガーーー。参った…。僕、家でも仕事するから今すぐネット必要なんだよ…」
私:「それは私も同じ! お願い、私たちと一緒に戦って!」
ジェームス:(むくっと顔をあげ)「オッシャーー! もちろんだよ!」
共同戦線は即合意。メールアドレス&携帯番号を交換し、今後のやりとりはすべて共有することに。
隣のイケメン・ジェームス君は栗色の髪をした一見フツ~の青年でした。しかしこの小柄な彼が、この後"進撃の巨人"と化すとは思わなかった…!
■一体誰のせい?
私たちもジェームス君もクリスマスから年明けまではじっと我慢して静かにしていました。この時期、ジタバタしても何も動かないのは明らかだからです。
そして迎えた2016年。イギリスでも元旦は祝日ですが、1月2日から町は通常稼働します。でも"優しい"私たちは1月2週目が終わるまで黙っていてあげました。
しかし何も動きませんでした。建物のオーナー会社からはメールも一切来ない。
さあ、そろそろ攻撃開始です。
状況としては、責任の押し付け合い。
オーナー会社の言い分は、工事が遅れているのは工事許可を出さない行政区のせい。
電話会社の言い分もすぐにだって工事開始可能。工事ができないのは行政区のせい。
そうですか。だったら、行政区に聞いてみましょう。
私たちとジェームス君は行政区に工事許可申請を確認。すると、「そんな申請は入っておりません」とキッパリ断言されました。
えっ? まさか電話会社は何もやってない…?
そしてオーナー会社は「せっついてます」と言ってるけれど、実は何もしていないかも!
…信じられない!(怒)
完全になめられている!
そしてとうとう、ジェームス君がキレました。
■小さな巨人、動く
1月3週目、ジェームス君がオーナー会社宛に爆弾メールを投下しました。
「僕が入居したとき、電話線は2週間で繋がると言っていた。あれから2カ月。もう我慢の限界だ。あと1週間以内に電話線工事が完了しなければ、以下のことを実行する。
1)この件をTwitterで拡散します
2)新聞社に頼み、記事にしてもらいます
3)地区選出の代議士に話し、問題として提言してもらいます
4)電話会社と行政区に、正当な方法でクレームします
以上」
プチ脅しの入ったジェームス君の怖~いメールに、オーナー会社は直ちに反応。これまでにない速度で慌てた口調の返信がビュン!と返ってきました。
「いらだちは分かるけれど、電話会社はクレームが入るとその案件を一時ストップするルールになっている(ホントかよ!?)。そんなことをしたら工事がどんどん遅れるので、あなたたちのためになりませんよ(だからクレームしないで、お願い!ってこと?)」
※(カッコ内)は私の突っ込みです。
ジェームス君はこの返信を黙殺。1週間後、工事が動かないことを確認した上で行動に移しました。
まずは電話会社と行政区のTwitterにクレームを書き込む。すると驚いたことに、両者とも反応してきた!のです。続けてTwitter上で両者を繋げた上で現在の事情を激しくぶちまける。
やや焦ったオーナー会社が送ってくる言い訳&逆脅迫メールも、「何なら出るとこでようや!」というスゴ味のある態度ですべて蹴散らし、「で、いつ工事終わるんだよ!」と毎日厳しく結果を迫る。
つ、強い…!
これを突破口に山が動き出しました。まずオーナー会社のメールが激変。返信頻度が格段にあがり、内容も私達「共同戦線」への気づかいが感じられるようになったのです。さらに呆れるほど非協力的だった電話会社も工事日程を調査しはじめ…。
私たちはこの動きに唖然としました。
こちらが怒りをあらわにし過ぎて「そんなんだったら、電話線引いてやらない!」と言われるのを恐れ、序盤戦は言葉を選び、気を使って交渉してきた私たち。
しかし「優しすぎるからダメなのかも!?」と途中で心を入れ替え(?)キャラ変を決意。在英10数年の社会人生活でゴマンと遭遇した不快な経験やメールをお手本に、ありったけの勇気で私たちなりにコワモテ態度で頑張ってきたのです。
そうか、私たちは全然甘ちゃんだったのね。私たちの「コワモテ」なんて何でもなかったんだ…。
これぐらいやんなきゃこの国では勝てないんだ!!
改めて実感したイギリスの手ごわさでした…(泣)。
その後も毎日激しい攻防戦が続きましたがようやく工事が始まり、1カ月後ついに電話線が開通!その1週間後にやっとやっとネットが入りました。
苦闘8カ月。
長かった…(涙)
ネットのルーターに電源を入れ、ネット開通のランプがピコピコ点灯したときは野●村元議員ばりに、本気で号泣してしまいました。
■タフでなければ暮らしていけない
家を買ったとき、友人にこう言われました。
「大変だったでしょ。でもこれからもっと大変です。そういうものだと思って頑張って」
そして電話線問題の闘争中、別の友人にこう言われました。
「それ、うちでもあった。この手のことはよくあるよ」
買おうと思った家が買えなかった話、電話線がなかった話、電話1本つなぐのに8カ月もかかった話、たくさんの人に話しました。日本在住者は「そんなのありえない!」と驚きましたが、イギリス在住者は誰ひとり驚きませんでした。
同情した上で「でもまあ、あるかもね…」。皆さん、同じ反応。
物事がスケジュール通りに動くのは奇跡、カスタマーサービスはないものと諦める、面倒なことは後回し(もしくはやってくれない)が当然――それがイギリスのスタンダードです。
約2年に渡る「家騒動」が終わり、ここ2カ月は穏やかな日々が続いていますが、きっとまた何か起こります。
でも大丈夫。
今回の経験で、「心の筋肉」鍛えられましたから(笑)。もうちょっとやそっとのことでは負けずにやっていける気がします。
これからもまだまだ続くタフなイギリス生活。またどこかでトホホストーリーをご紹介することがあったら、ぜひまた優しい目で見守りながら読んでいただけたら嬉しいです。 最後まで読んでいただきありがとうございました!
(完)