自分の人生は、自分でしか生きられないし、どう楽しんでいけるかは、毎日の選択と気持ち次第。どんな生き方だって、自分で選んできている人は、いつだって魅力的に見えるし、自然と心惹かれるもの。コスモポリタン日本版では、人生を謳歌しているさまざまな女性の生き方を紹介していきます。
スウェーデン王立バレエ団 ファーストソリスト 山口真有美さん
「スウェーデン王立バレエ団」で、現役ファーストソリスト(主役やソロを踊るバレエ団内の階級)として活躍するバレエダンサーの山口真有美さん。3歳でバレエを始め、17歳で単身ドイツ留学。ミュンヘンの「ハインツ・ボスル・バレエアカデミー」に日本人初の入学を果たし、卒業後バレリーナの道へ。そんな山口さんのモットーは、「目の前のことに200%で取り組む」こと!? 華やかでありつつも厳しいバレエ界でトップを走り続ける、日本人バレリーナが実践してきたブレない生き方とは。
―ミュンヘンのバレエ学校に入学した経緯は?
3歳でバレエを始めたんですが、最初はそんなに好きってわけでもなく"趣味の中のひとつ"程度の認識だったんですよ(笑)。でも、13歳の時に、『ドン・キホーテ』という演目の子役に抜擢されて。その時キャストとして参加されていた熊川哲也さんと吉田都さんの表現力に衝撃を受けて、バレリーナという職業に強く憧れるようなりました。
そんな15歳の時。所属していた「岸辺バレエスタジオ」の岸辺光代先生が、母に「真有美さんを海外のバレエ学校に行かせる気はありますか?」とお話を持ちかけてくださったんです。家族は協力的でしたが、私といえば「海外のバレエ学校なんて本当に行けるの?」と、よくわからないままで…。その後、先生と2人きりでヨーロッパのバレエ学校のオーディションを巡ることになったんですが、当時の私は英語が話せなかったし、むしろ苦手だったくらい。でも、後から当時の様子を先生に聞いたら「堂々としていたし、新しい環境に飛び込んでいく欲のようなものはあったわよ」って言って下さったんですよね。私自身は、無我夢中であまり覚えてないんですが…(笑)。
―多感な時期に単身留学をして、寂しい思いはしなかった?
当時通っていたバレエ学校には日本人が私だけだったので、入学してから最初の3週間はまともに言葉も話せなくて寂しかったのを覚えています。でも、少しずつ言葉を覚えて輪の中に入れるようになってくると、コミュニケーションが楽しくなってきて、すっかりホームシックから解放されるようになりました。
ところが、そうしてやっと慣れてきたという時に、レッスンで足の靭帯を4本痛めてしまって…。みんなから遅れていることに、どんどんストレスが溜まっていきました。バレエ学校はプロを目指す子たちが集って切磋琢磨するシビアな世界。学生たちには、プロと同等の強い精神を持つことが求められるんです。なので、怪我だとしても先生たちは甘やかすことなんてなく、どちらかというと「早く治して復帰するしかないわよ」という感じでしたね(笑)。
でも、それですっかり落ち込んじゃって「学校の休暇期間に一度日本に帰国したい」と先生に伝えたんです。そしたら「帰ってどうするの? 今こそ精神的に強くなるチャンスじゃないの?」と返ってきて…。当時は子どもだったから、正直グサッときたしキツかったんですが、思い返すとあの言葉が私を成長させてくれたと思うので、とても有難いことでした。
人に甘えていたらやっていけないし、伸びないんです。特に海外では、自分の意見や個性を主張していかなきゃ通用しない世界だから…。10代の時に困難に直面して、そこから自力で抜け出せたことは、人生の糧になっていると思います。
―卒業後はすぐにバレエ団に所属を?
バレエ学校を卒業してから、ヨーロッパのバレエ団の入団オーディションを受けたのですが、なかなか就職できなかったんです。仕方ないので一度帰国して、日本で活動していたんですが「やっぱりヨーロッパで踊りたい」という強い思いは持ち続けていました。
帰国から約2年。幸いにも、学生時代からの夢だったドイツの「ドレスデン国立歌劇場」に入ることができたのも束の間、入団1年目でバレエ団の監督が変わってしまって…。ヨーロッパ内で他のバレエ団を探している時に、たまたま「スウェーデン王立バレエ団」がダンサーを募集している話を耳にしたんです。
―「スウェーデン王立バレエ団」に入った決め手は?
スウェーデンに降り立った時も、バレエ団からオファーをもらった時も、不思議と「ここで一生やっていくんだろうな」と確信していました。日本では考えられないですが、「スウェーデン王立バレエ団」では限られたダンサーに、一生在籍することが許される"ライフ契約"がオファーされます。ダンサーたちがとても守られているんですよね。私も無事このライフ契約をもらって今年で11年お世話になっているので、「meant to be」っていうんでしょうか、運命というのはあるんだなと思います。
それと、当時「スウェーデン王立バレエ団」では、日本人ダンサーが他に1人在籍しているだけだったんですね。思い返せばミュンヘンのバレエ学校では初の日本人生徒だったし、日本人の多い環境に飛び込むのは不安だった私には、ぴったりだなと思いました。外国で暮らす以上は、その国に浸りたいという考えなんです。
―バレリーナになった後に、困難に直面したことは?
入団してすぐの頃は、それはもうたくさんの役をもらったんです。ところが人間とは不思議なもので、与えられすぎてしまうと「自分は一生懸命やってる」なんて勘違いをしちゃって、怠けちゃうんですよね。私は入団してから2~3年ほど経った頃、気がついたら役が全然付かなくなってしまって。その時は「このバレエ団にいる意味があるのかな」とか「頑張ってるのになんでこんなに認めてもらえないんだろう」という思いに苛まれてばかりでしたね…。
正直、どうやってこの辛い時期を乗り越えたかは覚えていないんですが、「このバレエ団で上りつめる」という覚悟があったので、とにかく練習に励みました。私にとってバレエに真剣に取り組むことは、好きなことをとにかく頑張っているというだけで"努力"という認識ではないんですよね。人間って本当に好きなことのためなら、「やるしかない!」って苦を苦に感じないんだと思います。
もうひとつ大事なのは「自分を信じる」こと。自分ならできる、伸びしろがあるって思えれば、それは達成できるんですよ。でも、自分を信じるって大変なことですよね。自分を信じられない時期もあるし、1日過ごす中でも波はあるものだから…。
―ファーストソリストとして活躍する心境は?
目の前にあることを一生懸命に、200%くらいの力でやっていく性格なので、プレッシャーを感じている余裕がないくらい毎日必死です(笑)。今頑張っていないと、時間は絶対に過ぎていくものなので。でも、おかげで毎日が楽しくて仕方ないです。
しいて言うなら、主役をやらせて頂くようになって、人との付き合い方が変わりました。群舞を踊っている時は、主役やソリストを見て「私もああなりたいのに、なんで認められないんだろう」とモヤモヤすることも多かったんです。葛藤しすぎると対抗心も芽生えてきて、冷静に周りを見ることができなくなっちゃって。でも、いざこちら側の立場になってみると、群舞のダンサーたちがいなければ主役は存在しないということを痛感するんですよね。どちらの立場も経験してコツコツと積み重ねてきたからこそ、今、若いダンサーたちの苦しみを掬い上げてアドバイスすることができるんだと思います。
―今後、世界を舞台に活躍したいと思っている人たちへメッセージを。
夢は持つべき。達成すると決めたのなら、覚悟を決めて絶対に諦めないでほしいです。きっと本当に好きなことなら諦められないんですよ。「辞めてもいいや」って1%でも思うのなら、それはそれほど好きなことじゃないのかも。私は怖いくらいに、バレエをやめようと思ったことが一度もないんです。それと、海外に出ても日本人としての精神は忘れないで。日本人特有の繊細さや丁寧さ、コツコツ努力する精神は、きっとあなたの個性のひとつになるはずです。
インタビュー当日も、踊るように軽やかに登場した山口さん。優雅で穏やかな身のこなしとは裏腹な芯の強さが印象的でした。前を向き続ける彼女のマインドは、海外での活躍を夢見る女性たちのロールモデルとなるはず。
【山口さんから学んだ、夢を諦めないためのヒント】
・目の前のことに200%の力で取り組む
・なりたいビジョンは明確に
・自分の伸びしろを信じる
・コツコツと努力を積み重ねていくことを恐れない
・達成すると決めたのなら、覚悟を決めること