自分の人生は、自分でしか生きられないし、どう楽しんでいけるかは、毎日の選択と気持ち次第。どんな生き方だって、自分で選んできている人は、いつだって魅力的に見えるし、自然と心惹かれるもの。コスモポリタン日本版では、人生を謳歌しているさまざまな女性の生き方を紹介していきます。

SILK LABO プロデューサー 牧野江里さん

女性による、女性のための人「性」研究所として、女性向けのアダルトコンテンツを制作しているSILKLABO。アダルト業界に新たなムーブメントとなった"女性向けAVメーカー"を立ち上げから支える、代表でありプロデューサーも務める牧野江里さんの、今までの道のりとこれからにフォーカス!

-唐突なのですが、なぜアダルト業界へ進もうと思ったのでしょうか?

ネタ半分で会社説明会に行ったら、まじめに取り組んでいる姿を目の当たりにしていいかも、と思ったんです"

映像を専攻する大学に通い、先輩方からは「ぶっちゃけきついよ」と言われてはいたものの、テレビドラマの制作に携わりたいと思っていました。たまたま、アダルトビデオを制作しているソフト・オン・デマンドグループのウェブサイトを見ていたら、会社社説明会があったんです。「行ったらネタになりそう」という軽い気持ちで参加しました。すると、思いのほか、まじめに取り組んでいる会社なんだと思い、そのまま入社試験を受けたんです。

アダルト業界に興味があったわけではありませんが、当時ソフト・オン・デマンドグループはアダルト以外にも力を入れていて、映画やアニメにも進出していました。入ってみると、こんな作品を作りたいと思う暇もないぐらい、スケジュール的にも、体力的にもハードでしたね(笑)。

-男性が多い業界だと思いますが、アダルト商品を扱う際、女性だからという点で困ったことはありましたか?

性への関心は誰でも持っているもの。葛藤はありませんでした"

この業界で働いているがゆえの偏見を感じることはもちろんありますが、特に気にしてはいないですね。社内でも男女問わずそれぞれ必死に業務を全うしているので、会社組織として、アダルトだからといって他業界と変わっている点はそこまでないと思います。まぁ、外から好奇の目で見られることは、ある程度仕方がないかなと思いますが。女性だからといって困ったことはありませんね。

この業界にいると、男女分け隔てなくエロい会話を下心抜きにできるので、逆に居心地がいいところもあります。アダルト業界ならではの価値観なので、世間から見た時に異色な感じはあるかもしれませんが、この業界に限らず、違いやズレがあることは当たり前ですし、そのことを深く考えたりはせず、ズレをズレとして楽しんでいる感じです。

昔から性への関心があることに、葛藤があったかというと、そうでもありませんでした。大なり小なり、誰もが持っていることだと思うので、わざわざ言うまでのことではないかなとも思っていました。性欲って、誰かと共有したり、比べたりすることが必要なものではないので、もしかしたら人より興味が強い、弱いと思うことではないのかなと。

SILK LABOpinterest
Noriko Yoneyama

-では、いままでは男性的な作品が多かったアダルトビデオ業界の中で、あえて"女性向け"の作品を制作しようと思った背景は?

今までの作品を見ていた女性からのクレームを基に、必要ないことを引き算していった感じ"

女性のセックスへの関心度が高いと思ったとか、性を解放するためにとか、そんな大それたことではありませんでした。当時宣伝部に所属していて、社長から他業種とのコラボをしたいという希望があったんです。その話の流れで、女性向けのアダルトグッズを販売している方と話す機会があって、「女性もAVを買ってくれるんですよ」と聞き、需要があるのかもしれないと思いました。それと同時に「男優がキモイ」という生理的なことから、「途中まではよかったのに、クライマックスがダメ!」という内容に関することまで、とにかく作品へのクレームが多いという話も聞きました。「もしかしたら需要があるんじゃないか」と社長に伝えたら、「じゃ~牧野が作れ」となり、SILKLABOを立ち上げることに。

まだ入社して1年ぐらいの時だったので、ノウハウもなく、「この予算をどう使って、どんな作品を作ればいいのか」と、焦りしかありませんでした。周りにいる先輩の力を借りながら、まずは、世の中に出ている男性向けの作品を女性スタッフたちで一緒に観て、文句を言い合うところから始めたんです。AV女優さんからの意見も聞き、AVに対して女性が感じるネガティブな要素を集めて、必要ないものをそぎ落とし、シンプルにしていく作業をしました。

そこからは、無我夢中で作品を撮り、『anan』の付録用のDVDを作りとにかく、この作品を観てもらうきっかけを作ることに注力していました。

社内では、「女性向けのAVなんてコケるだろう」と思われていたし、私自身も店頭に1本でも置いてもらえたらラッキーぐらいに思っていて、観たい人は通販で買ってくれるだろうと。ヒットさせるにはどうすればいいのだろうということよりも、やることをやってから、その後のことを考えようという手探りな感じでした。

SILKLABOの作品が発表されたことで、アダルトビデオに対する世間のイメージが変わったなど、感じることはありますか?

社内的にも、業界的にも、SILKLABOの作品が爆発的にヒットしたという認識はありません。数字で見ると、やっぱり男性向け作品の売り上げのほうが規模も圧倒的なので、未開拓だったゾーンが開拓されたぐらいかなと。ただ、インターネットの普及によって、動画配信が活発になってきた時期ですし、通販の需要も高まっていた時でもあるので、運がよかったと思っています。以前よりは、女性も性に明るくなったと感じますが、それは、インターネットの普及が大きく、SILKLABOの力だけではないと思いますよ。

女性向けと打ち出していますが「私が観たいのはこんなソフトな作品ではない」という人もいます。けれどSILKLABOの作品は、実はピンポイントの層に向けて作っているという気持ちもあるんです。あくまでも、"AVに興味があるけど手が出せない初心者の女性向け"といった感じ。

その中で、今は女性の妄想に特化したエロ度の高い「Undress」というレーベルも作りました。入口は女性向けでも、人によっては男性向けの作品の趣向に合うという人がいるかもしれません。女にとって自分の性を知る糸口になれればいいな、と思っています。

今後も、このスタイルを変えず、コンスタントに作品を発表し続けることに照準を合わせています。この業界でトップになるとか、女性向けのジャンルをもっと多種多様に、とはあまり考えていないです。たとえばニッチ層に向けた凌辱ものとか(笑)。SILKLABOでは、あくまで初心者向けを貫いていたいので、変わらず女性が入りやすい部分は残していたいと。わかりやすく言えば、アダルト界のハッピーターンでいたいと思っています。長年味が変わっていないようで、パウダーの量を増やしたり、パウダーをより吸着させるべく表面をデコボコさせたりしてるんです。そんな気づく人だけが気づくぐらいの密かな変化を重ねながら、"初心者の女性向け"をメインに作品づくりを続けていけばいいのかなと思っています。そして、作り手が変わらないと、時代のニーズに応えられないと思うので、私の引退時期も決めていて次世代に任せたいなぁと。それまでは、地道にコツコツと、をもっとがんばります!

-ちなみに女性が実践できるようなセックスへのスマートな誘い方はありますか?

ありません! セックスをマニュアル化するのはパートナーに失礼"

この質問はよく受けるのですが正直ありません! 女性から誘っても相手に引かれないスマートな誘い方を研究するぐらいなら、目の前にいるパートナーのことをよく観察してあげることが大事だと思っていますよ。その人が、どんなことで喜んで、どんなことで怒るのか、そこを探求していけば、相手が喜ぶ誘い方、一緒に楽しめるセックスが見えてくると思います。

どうしても「セックス=愛」だと決めつけてしまうから、セックスがなくなると、愛情がなくなったように感じたり、セックスレスで悩んだりするのかなと。セックスレスも、周りと比べて、「私はしている回数が少ないかも」と感じているだけなら、それは悩まなくていいと思います。

そもそも他と比べることでも、ひとりで悩むことでもありません。オナニーに抵抗がある人もいらっしゃると思いますが、自分でも使いこなせないカラダを相手にゆだねるのは失礼だと思うんです。オナニーを通して自分のカラダや性感帯を知ることも大切。そのうえで、パートナーとふたりでセックスを探求する楽しみを見つけてもらえれば。


SILKLABOの作品で、女性の性生活がハッピーになるといいな~」と話す牧野さんは、男性の多いハードなアダルト業界で、女性への嘘なく、性に向き合った作品を作り続けている姿か印象的。そんな姿に、なりたい自分を作るのは自分次第だと、教えられたような気がする。

【牧野さんから学んだ人生をより充実させるためのヒント】

・世間との違いやズレは、ズレとして楽しむ

・引き算の美学で作品を作る

・続けることの大切さ

・自分の性感帯を探り、パートナーとのセックスを楽しむ